地獄が無い理由
オレは17人殺した。
理由はいろいろだ。
肩がぶつかったから。
がん飛ばしてきたから。
なんとなく。
・・・いろいろだ。
よく捕まらずに17人も殺せたものだ自分をほめてやりたいね。
まぁ結局は捕まって当然死刑になったわけだが。
そんなオレは今、どこかのビルの応接室にいる。
周囲の壁は木で作られているが床は石材のようだ。
部屋の中央にはカーペットが敷かれており、その上に横に長いテーブルが置いてある。
テーブルをはさんで黒いソファーが配置されて俺たちは向かい合って座っていた。
俺たちというのは、俺と向かい側に男が座っているからだ。
「ここはどこなんだ?それとお前は誰だ?」
ここに来るまでの記憶が俺にはなかった、最後の記憶は絞首台に上ったあたりか。
「はい、ここは死後の世界です、私は・・・そうですね、わかりやすく言えば閻魔様というところでしょうか」
男は笑顔で答えた、嫌みな感じはなくとても紳士的な印象を受ける。
「そうか、やっぱり俺は死んだんだな」
「はい、理解が早くて助かります。それでは少しお話を伺いたいと思います。」
男は手元にあったファイルを広げパラパラとめくりながら話した。
「なぁ、閻魔様。俺は地獄行きなんだろう?」
俺は男に質問をした。
「いいえ、……というより地獄はありません、同様に天国もございません。死後は速やかに次の生に生まれ変わるだけです」
「あ!そうなのか!いやぁそりゃラッキーだな!なんならもっと殺しておくんだったぜ」
俺は安堵した。
ということはどんな悪事を働いても平気ってことじゃねぇか!
「今回の生はどうでしたか?糧になったことや失敗したことなど教えてください」
「あ?そうだな!まあまあ楽しかったなぁ俺はさ、いたぶりながら殺すのが好きでさ!確か3人目に殺した眼鏡の陰キャは最高だったぜ!クソ雑魚なのに中々しぶとかったからな!思いつく限りのことをやってやった」
「そうですか今回は中々刺激的な生だったのですね」
男はファイルにスラスラと何かを書きながら俺の話を聞いていた。
「失敗だったのは捕まっちまったことだなヘマしたなぁ。もう少し殺しを楽しみたかったが残念だ」
「なるほどなるほど」
男は笑顔で聞き続ける。
つまらないな、あっちじゃ裁判中にこの話をしたらみんな面白い顔をしていたもんだが。
「あ!そうだ1個知りたいことがあったんだ」
「なんでしょう?」
「俺が最後に殺した金髪の女、どうにも見覚えがある気がするんだけど俺の知り合いだったか?」
「最後のですか……えっと、あぁ54,955,121番ですね、いいえコレは今回貴方の知り合いではありませんね」
「ん?なんだその番号」
「54,955,121番ですか?これは生の番号ですね私どもが付けています。ちなみに貴方は54,955,122番です。」
良くわからない番号だ、まぁ閻魔も事務的なことをするのに番号があった方が都合がいいんだろう。
「見覚えがあったのは1個前だったからでしょう。転生の際に記憶はできる限り消去しておりますが、やはりふとしたきっかけで一部の記憶が戻ってしまうようですね」
「は?どういう意味だ」
「いえこちらの話です。さて貴方の来世はこの男性です」
男が1枚の写真をテーブルの上に取り出した。
写真には1人の男性が移っているがどうにも見覚えがある。
「なっ!?こりゃどういうことだおい!!」
「どうされましたか?」
写真に写った男性が誰なのかを思い出し俺は驚愕した。
「どうしたもこうしたもあるか!こいつは俺が3人目に殺した陰キャだ!こいつが俺の来世ってのはどういうことだ!!」
「写真の右下に書いてあるでしょう?」
「右下?」
写真の右下には“54,955,123番”と書いてあった。
「この番号は?」
「それは貴方が転生する順番の番号です、最初にあの世界のことをお話しましたが覚えていませんか?」
「あの世界?なんの話だ」
男は手に持っていたファイルとペンを置いてこちらを見た。
「では改めて説明いたしますね。あの世界は貴方のために作られた世界です。あの世界に住む全ての生命は貴方の前世、もしくは来世なのです。何度も生を繰り返すことで魂を成長されることが目的なのです。」
「……は?…え?」
どういう…
「先ほど地獄はないと私は言いましたね、理由が分かったでしょうか?」
「理由?」
「はい、貴方があの世界で何をしようがそれは自分自身にやったことです。それで罰を受けるなんておかしな話でしょう?」
つまり、あの陰キャも、金髪の女も、俺が殺した17人は全て…
「あまり時間もかけられませんのでそれでは早速、転生しましょう!まだ5,400万ですからねチャッチャカ行きましょ」
「ま…まてっ……待ってくれ!!」
だんだんと意識が霞んできた。
「安心してください!ご存じのとおり次の生も早く死にますからね!」
男は最後まで笑顔のままだった。