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よろめきメイドみーちゃんの道成寺悶絶譚

作者: 神冥璽和魂

俺の探偵社に仕事の依頼が来なくなってから、もう3ヶ月以上が経っている。

ガキの頃から野山を駆け回って作り上げた体と、学生時代に空手と柔道で鍛えた腕力で、今まで何度も命懸けの仕事をこなして来た。

自分じゃあ、そんじょそこらの並みの野郎共とは一味も二味も違う凄腕の探偵だと自負している。

しかし何でこうも暇なんだか訳が分からねえ。


ん、電話だ・・・・・仕事の依頼か・・・・・・いや、違うだろう。




「なんじゃい!!コラ~~、金なら一銭もねえぞ!!!ワレ~~~。」


『・・・・・・・・・アッアッ、あのう・・・・・・探偵のヘルズ臼田さんですよね。メールご覧になりましたか。また後程ご連絡致しますので、失礼します、では。』



アレッ、切っちまいやがんの。借金取りじゃあなかったのかい。

てえ事は仕事が入ったって事か。電話とネットの料金だけ払っといて良かったぜ。


さてメール、メールと・・・・・・・・・・・・・・・・



[拝啓

突然で恐縮ですが、ヘルズ臼田様が凄腕の探偵さんだとお聞きして、是非ともお力添え頂きたくご連絡申し上げました。

わたくしは六本木の某高級クラブで働いている、樫尾メイアと申します。

お客様からヘルズ臼田様のお噂を聞き、秘密を厳守すればどんなに困難な事件でも解決のため全力で当って頂けるとの事でした。

そこで早速お願いがあるのですが、実はわたくしの大切なたった一人の従姉妹の安東みい子が誘拐されてしまったのです。

犯人から郵便物が送られて来たのですがそれは営利目的の脅迫状ではなく、“大事な生贄を預っている、必ず年末迄には無事お返しする”、とだけ書いてありました。

警察からはそれ以降何の連絡もなく、手掛かりも掴めないまま10日以上が過ぎてしまいました。

もう後3週間余りで年が明けてしまうのです。

みーちゃんは秋葉原のメイド喫茶ブリブリエンペラーで毎日バイトをしていたのですが、その帰り道に拉致されたらしいという以外には何も判っていないのです。

詳しいお話はヘルズ臼田様と直接お会いしてご相談しようと考えております。

貴方様名義の銀行口座に1ヶ月分の前金300万円を既に振り込んであります。

成功報酬はわたくしの全財産を差し上げますので、お願いですから絶対にみーちゃんを救って上げてください、では。

敬具]




エッ・・・・・・・・・マジかよ・・・・・・・ネットバンクの残高は300円位しかなかったんだが。


ゲッ、本当だわ、最も困難が予想される仕事の上限金額300万円が振り込んであるわい。

フッフッフッ、俺様の腕をもってのみ解決可能な久し振りのでかい仕事だぜ。






事件の緒になっているのはアキバにあるメイド喫茶ブリブリエンペラーだと踏んだ俺は、

愛車L10Aコスモスポーツを駆り、秋葉原までフルスロットルですっ飛んで行った。


もっと如何わしい喫茶店には何度か調査で足を運んだことがあるがメイド喫茶は今回が初めてだ。




「お帰りなさいませ、ご主人様~。お席にご案内致しますので、そちらで御寛ぎ下さいませ~。」



オッオッオッ、可愛いじゃあねえかよ、入り口で3人の可愛いメイドさんのお出迎えかよ。

こりゃあ、今回の調査はやる気が100倍出て来たぜ。

メイドは全部で6人いるようだな。あとコックが一人と黒服の男がマネージャーかオーナーってとこかい。



「ご主人様、メイドの由理枝で御座います。何なりとお申し付け下さいませ。」


「うん、それじゃあねえ、取り敢えずランチ頼むわ。」


「かしこまりました、ご主人様。少々お待ち下さいませ。」



うんうん、いいねいいねえ。訊き込みする前に腹ごしらえせにゃあな、なにしろ3日間なんも食ってねえ。

カウンターを含め60名ほどが座れる店内には、現在のところ見るからにオタって感じのチビやデブの若い野郎が20人くらいいるだけだ。

明日からは営業時間内ずっと張り付いていれば何か引っ掛かって来るかも知れねえ。



「あっ、お嬢ちゃんさあ、ちょっといいかな。」


「はい、ご主人様、ご用はなんでしょうか。」


「ミックスサンドとピザとカルボナーラ大盛りにコーラね。それからさあ、ここでバイトしてた安東みい子って女の子のこと知ってるかい。」


「申し訳御座いません、ご主人様。私語は慎む様にとのメイド心得がありますのでお答え出来ないのですが。」


「だって僕はご主人様なんだから、当然の権利でしょ。警察手帳見たいんなら見せてやってもいいけどよ。」


「エッ、ご主人様・・・・・・・・・・・お巡りさんだったんですか・・・・・・・・・。」


「ああ、警視庁の臼田って者なんだけどね、知ってる事があったら何でも言ってくれないか。それから当分の間この店に張り込むからよろしくね。」


「私は入店してから1週間くらいなので良く分りませんから、先輩のメイド長かマスターに代わりましょうか・・・・・ご主人様。」


「それじゃあ、そのメイド長って女の子呼んでくれるかな。」


「かしこまりました、ご主人様。」




おっ、前の方からやって来るさっき入り口で出迎えてくれた、他のメイドとは少し色の違う服を着た女の子がメイド長だったのか。



「失礼します、ご主人様、メイド長の絵梨咲と申します。ご用件は何でしょうか。」


「安東みい子について何でも良いから話してくれるかな。」


「ご主人様は警察の方ですよね。」


「そっ、怖い怖いお巡りさんなんだよ。だから知ってること全部言ってくれるかな。」


「前に一度、事情聴取されてお話したんですけど、みーちゃんとは個人的なお付き合いもないし、お店の中ではメイド同士お喋りが出来ないので何も分らないんですけど。」


「特にだねえ、ここによく来る客の事とか、見過ごしている点があるかも知れないんだよね。思い出したら何でも言って欲しいんだがね。」


「あのう、大変失礼とは思いますが、警察手帳を拝見して宜しいですか。」


「ああ、ちょっと待ってね。」




しまった、一生の不覚だ。ネットで買った警察手帳を今日は持って来てない。これで信用失墜してここでの調査もお仕舞か・・・・・・・・・・。


ん~~~~~~、地獄に仏とはこの事かい。こんな絶体絶命のピンチに世の中で一番会いたくない奴、招かれざる客のご主人様おな~り~~だぜ。

郷里福島の小中学校時代同級生だった今や本物の私服デカ、儒能京平様のおな~り~~だわ。

オイオイオイ儒能、こっちだよ、こっちだっつうの。




「よ~~~う、風来坊の臼田じゃねえか。オレッチの顔見るといつも逃げ出すお主がどういった風の吹き回しだよ。」


「久し振りじゃねえかい、儒能刑事さんよう。おめえさんも訊き込みかい。だったら先に警察手帳見せた方が良いぜ。」


「お安い御用だがね。」



「あっ、刑事さんなんですね、失礼致しました。何なりとお申し付け下さいませ、ご主人様。」


「ホットミルクあるかな。」


「かしこまりました、ご主人様。少々お待ち下さいませ。」




全く危機一髪のところだったわ。これで俺様も信用されたわけだが、早く帰りやがれよ、このうだつの上がらねえ万年平刑事。

おめえが陰気臭いチビのガキだった頃みてえにまた可愛がられてえのかよ。



「お主はまた危ない事件に首突っ込んでると見たが、どうなんだよ臼田。」


「いんや、おめえさんはこんなとこに来る様な趣味はねえ筈だ。てえ事は安東みい子誘拐事件を捜査してると見たが、どうなのよ儒能。」


「さあねえ、お主の方こそ調査依頼でもあったのか。」


「まあ別に隠すつもりはねえんだけどな、知ってる事あったら教えろや。」


「話は変わるけどな、例の銃撃戦はまだ忘れたわけじゃあねえだろ。」



この野郎、未だに5年前の事件の犯人を俺だと決め付けてやがる。

まあ、確かにマフィアを10人ほど閻魔大王様に差し出したのはこの俺様なんだけどな。

しかし戦時中憲兵だった爺様の形見である南部式大型自動拳銃は捨てる訳にいかないので、山の中奥深くに埋めてある。

今現在もM1906FNブローニングベイビーを踵に括り付けてあるが、大した殺傷力のない護身用拳銃に過ぎない。




「あのなあ、過去の出来事はどうでも良いんじゃあねえのかい。今はひとりの若い女の子の命をどうやって救うかが問題なんだよ。」


「お主なあ、喋るか食うかどっちかにしろや。まったく豚みたいにガツガツと~、回転寿司じゃねえんだから皿を積み上げんなよ。」


「おめえは絶対になんか知ってる筈なんだよ、隠してねえで俺にだけ教えろや。」


「今日はここの経営者に会おうと思って来たんだがな。お主はごゆっくりメイドさんの脚でも眺めながら飯食って楽しんで行ってくれ。ではまたいずれ。」



ケッ、相変わらず役に立たねえ田舎者のデカだぜ。

しかし俺は確信した。この喫茶店から総ての物語が始まっている事を・・・・・・・・・・。






翌日から俺は朝10時の開店と同時にブリブリエンペラー店内に陣取り網を張った。

閉店は午後11時なのでかなりの長時間労働になるが、全く退屈しない極楽環境での張り込みだ。

経営者と従業員全員から安東みい子のプライベートな部分を聞き出そうとしたが、めぼしい情報は殆ど得られない。


午後2時過ぎ・・・・・・・・ケータイの着信音だ・・・・・・・・・借金取りには携帯番号は教えていない。



「ハロ~~~、ヘルズ臼田だ。」


『あっ、こんにちは臼田さん、わたくし樫尾メイアですが。』


「あ~~どうもどうも、今ねアキバで張り込み中なんだけど。」


『もしお邪魔でなければ、お話したい事があるんですが。』


「はいはい~、ブリブリエンペラーに閉店までいるからね、いつでもどうぞ~。」


『では3時頃お伺いしますので、失礼します、では。』



樫尾メイア・・・・・・・六本木の高級クラブホステス・・・・・・・・フッフッフッフッ。


待つ事1時間弱、午後3時丁度に女が現れた。メイドに案内されてこっちの席に来る。

ゲゲゲゲッッッッッ、なんちゅうスゲ~~~いい女なんだよ、生唾ゴックンのマジ激マブッッッッッ。




「初めまして、安東みい子の従姉の樫尾メイアと申します。」


「どうもどうも、僕がヘルズ臼田です。」


「銀行口座の方はご確認頂けましたか。」


「ご心配なく、しっかり1ヶ月分の前金は頂戴しましたよ。」


「わたくしは生来無趣味なもので、貯金する事だけが楽しみだったんですの。大好きなみーちゃんのためなら全財産を投げ出すつもりでいるんですの。」


「一応ね言っとくけど、成功報酬は上限1000万円と決めてるんで、それ以上は受け取らない。それから俺は金のためだけに動いてるんじゃあないって事だけは忘れない様にな。」


「そうなんですか、安心しましたわ。臼田さんにお任せして本当に良かったと思いますわ。」


「それは事件が解決して、無事みーちゃんを救い出した時に言ってくれないとな。」


「はい、その通りなんですが、警察からは何も連絡がないし、わたくしから聞いても具体的な事は何も話してくれませんの。

ですから臼田さんにお縋りするしか・・・・・・・・・・。」


「俺はね命を懸けてでも依頼者の要望に応える人間なんだ。手掛かりさえ掴めれば邪魔者は蹴散らして何が何でも問題は解決してやるよ。」


「宜しくお願い致しますわ。実を申しますと、わたくしは幼い頃に交通事故で両親を失い、伯父に引き取られ育てられたんですの。

その頃まだ赤ちゃんだった歳の離れたみーちゃんを、病弱の伯母に代わってオムツを取り替えたり寝かし付けたりして本当の妹みたいに思って今まで生きて来たんですの。

みーちゃんはわたくしと違って朗らかな性格で、誰からも好かれる可愛くて素敵な女の子なんですのよ。

アッ・・・・・そうだ、みーちゃんの写真を何枚か持って来ましたので、参考になれば良いんですけど。」



なになに~~、プロフィールまで書いてあるな~、17歳の高3.身長160cm.B95.W56.H91・・・・・・・このコスプレ写真めっちゃカワエエ~~~~~。

ドッヒャァァァァァァァなんでスク水姿の写真がァァァァァァァァァァァァァァ鼻血、鼻血・・・・・・・・・・・・・・・・・・ハナヂィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ。



「うんうんうん、あんたの気持ちが良く分かったよ。このお嬢ちゃんのためなら仮令火の中水の中だぜ。」


「はい、わたくしは臼田さんを信じていますわ。あのそれから、心配で心配で何も手に付かない状態なんですけど、№1ホステスとしてお店を休む事だけは許されないんですの。

今日もこれから直ぐにお客様とお会いしなければなりませんの。またご連絡しますので、この辺で失礼させていただきますわ。」


「まあ、俺に総て任せて、大船に乗ったつもりでいてくれたまえ。」


「はい、宜しくお願い致しますわ、では。」



しまった~~~、カッコ付けてデカイ事言い過ぎちまった。

しかし、しかし、樫尾メイア恐るべし・・・・・・・この世のものとは思えない超激マブ美女だったぜ。

俺のこの荒み切って凍て付いたハートは一瞬で沸点に達しちまったぜ。


あ~~ん、何だあ~、鬼メイド長の絵梨咲が俺様の顔をジロジロ見ながら来やがる。



「失礼します、ご主人様。あの~、先程の女性のお客様から聞いたんですけど、ご主人様は警察の方じゃなくて探偵さんだったんですか~~。」


「あのねえ、お嬢ちゃん。警視庁特捜部には秘密探偵課ってえ部署がある訳よ。いわば非公然の秘密警察みたいなもんなんだな~。

だからね余計な穿鑿はしない方が身の為なんだよ、お嬢ちゃん。解かったかな~~~。」


「アッ、はい、ご主人様、今言った事は忘れて下さい。でも臼田さんてとっても素敵ですよね~、ウフッ。」


「ん~~~、何なりとお申し付け下さいませご主人様ってえの忘れてんじゃねえかい。」


「私語は慎むようにとメイド心得にありますから~、失礼致します、ご主人様~。ではまた~。」



何なんだよ、この気の利かねえメイドはよ~~~。






ここで張り込みを始めてから何の収穫もないまま既に1週間が過ぎている。

残された期間は2週間・・・・・・・・いや、後1週間以内にケリを付けなければ敗北を喫するだろう。

ここで張っているのは無駄なのかも知れないが、しかし他に当てがある訳でもない。


今日も腐女子メイドと暇潰しのお喋りをしている間に日が暮れてしまった。

このままではいかん、戦略を大転換する必要があるかも知れない。



ん~、ご主人様のおなり~か。儒能万年平刑事好みの今時流行らねえトレンチコートに古臭い山高帽、似合わねえ口髭に薄茶色のサングラスが見事なまでにミスマッチしてやがる。

あ~~~ん、こいつの面~どっかで見た事あるんだが、思い出せねえ。

もしかしたら鬼メイドが知ってるかもしれねえな・・・・・・・・・・一応訊いてみるか。



「何ですか、臼田さん。」


「おめえよ~~何か随分とご主人様を粗末に扱ってねえかい。」


「毎日ず~~っといるから何か面倒臭くって。」


「あのよう、一番奥のボックスに座ってる60歳位の客は良く来るのかい。」


「絵梨咲はジジイ好きじゃないから興味ないの。アッ、そうだ、みーちゃんはあのジジイとよく話してたっけ。」


「何でそんなに大事な事を言ってくれねえんだよ。」


「絵梨咲はジジイ嫌いだし・・・・・・・・ちょっとマスターに聞いてくるね。」



1週間張り込んでいて年寄りの客が来たのは今日が初めてだ。

俺の鋭敏な嗅覚はこの年寄りの厳しい雰囲気と、言い知れぬ何物かを敏感に嗅ぎ取っていた。

鬼メイドの絵梨咲が急ぎ足で戻って来るぜ。



「ねえねえ、臼田さん、大変なの。マスターが言ってたんだけど、あのジジイの口髭とサングラスと帽子を取るとすっごいハゲ頭になるんだって~~。」


「おめえなあ~、禿のどこが凄いんだよ~。」


「あんた馬鹿でしょ~~、あのジジイは元大臣の細井戸にそっくりなんだってさ。」


「思い出したァァァァァァァァァァァァァァァ、元外務大臣の細井戸正一郎だあァァァァァァァァァァァァァァァァ。おいっ、絵梨咲、声がでか過ぎるぞ。」


「それってあんたでしょ~、ではまた~~。」




このジジイは安東みい子誘拐事件とは全く関係ないと考えた方が常識的なのかも知れない。

ただ単にスケベジジイがお忍びで変装をして来店し、破廉恥な欲望を満足させようとしている可能性は高い。

しかし100万分の1でも関係者の可能性があるとしたら疑って掛かるべきなのだ。

俺の野獣の勘が他人から見れば非常識ともいえる行動へと駆り立てる。

万が一俺の第六感が当っていたとするなら、自分自身を囮にして標的となり犯人グループを誘き出せるのだ。

鎌掛けてみるしかない。他に方法は考えられないし、残された時間は後僅かだ。




「あ~、どうもどうも、ちょっとお邪魔しますよ~。失礼ながら貴方を元外務大臣の細井戸正一郎さんとお見受けしましたが。」


「何だね君は、誰が座って良いと言ったんだね。自分の席に帰りたまえ。」


「うんうん、声を聞いてはっきりと確認が出来ましたよ。元大臣は若い女の子がご趣味の様ですな。」


「何を失礼な、即刻立ち去らなければ痛い目に遭うぞ。君は警察を呼ばれたいのかね。」


「警察沙汰にしたら困るのはあんたの方じゃあねえのかい。ここで働いていた安東みい子を拉致したのは貴様らだって事は判ってんだよ。」


「馬鹿馬鹿しい、全く不愉快極まりない暴漢だ。お前の顔は良く覚えておくからな。」




政界のスケベジジイめが、尻に帆掛けてすたこらさっさと出て行っちまったぜ。

しかし細井戸のあの狼狽振り、目の表情から俺の野獣の勘は間違っていなかったと確信した。

必ず近日中俺に何らかの接触がある筈だ。

犯人グループの尻尾を掴むチャンスがやっと巡って来た。






12月22日、メイド喫茶に入り浸ってお喋りに興じていても埒が明かないので、細井戸を尾行開始だ。


昨晩から田園調布にある細井戸の自宅近くで様子を覗っているが、朝9時になっても動く気配はない。

ここ数日間、苛立ちと焦燥感でほとんど睡眠が取れない状態が続いている。

車の中でうっかり寝てしまおうものなら、それこそ大失態に繋がる。

L10Aコスモスポーツは目立ち過ぎるため、張り込み専用にレンタルしたSUVの車内が広々として快適なので余計に眠気を誘う。

俺は爪楊枝を瞼の上下に何本も刺して眼が閉じぬよう必死に睡魔と闘った。



午前11時、女中が門を開けている。そして黒塗りのサルーンが出て来た。

女中が深くお辞儀して見送っていると云う事は、中には間違いなく細井戸が乗っているのだろう。


細井戸の車との間に常時1台か2台他の車を挟んで、気取られぬ様に尾行して行った。

昼食にレストランにでも行くつもりなのだろうか。この道順だと港区方面へ向かっているみたいだが。


更に追跡を続けると、高級な建物が目立ち始めたこの辺りは白金台になる。マンションに囲っている女にでも逢いに行くのだろうか。

細井戸の車が左側の狭い道に折れた。

10m程の車間距離を保ち尾行して行くと、車は普通のビルとは異なる面積の広い大きな建物の裏口から地下駐車場へ入って行った。

表通りに回ってその建物を確かめてみると、剛厳神教大聖堂という建物である事が判った。


尾行を続けるよりも先ずこの建物が如何なる物なのかを調べねばならないので、一旦事務所へ引き上げる事にした。






2台のPCを駆使してググリ捲くってみると、出るわ出るわ悪辣なカルト宗教の実態が山の様に・・・・・・・・・。

教祖は海藤という苗字の奴なのだが、名前は伏せてあるのだろうか不詳だ。

理事長は馬頭澤という苗字のかなり高齢の女らしいが、こちらも名前は誰にも分らないらしい。


いずれにせよ汚い手段で人を誑かして金を巻き上げ、政財界への影響力も計り知れぬ危険極まりないカルト教団であると断言しても良いだろう。

細井戸は動きを見せないので、明日から早速この教団を突っついてみる事にしよう。


余った時間はブリブリエンペラーで飯食って居眠りしながら張り込みの続行だ。






このメイド喫茶は無線LANが接続出来るので、ノートPCを使って剛厳神教について少し研究しておいた方が良いだろう。

会員総数が20万人てのは大嘘で5万人かそこいらしか居ない筈だ。

勿論宗教法人なので非課税の坊主丸儲けか。

あれまあ、珍しい事でもないが各界の名士が名を連ねて居りますなあ。

気違い教祖が、子孫への血脈が国の繁栄に繋がるとか言ってやがるな。

世界は一家、人類はみな兄弟、ならば人類みな近親相姦て事か。

しかし名前も1枚の顔写真も全く何処にも出て来ないってのも摩訶不思議だが。


オッ、万年平刑事様のお出まし~~だぜ。メイド喫茶中毒にでもなったんかい。




「毎日暖かい喫茶店で女の子と戯れているお主が羨ましいわい。」


「毎日13時間労働の張り込みは辛いもんだぜ。おめえはもうここにゃあ用はねえんだろ。」


「お主は何か手掛かりを掴んだんじゃあないか。」


「手掛かりって何の手掛かりの事よ。」


「惚けんな、安東みい子誘拐事件だよ。」


「おめえさんは何が言いたい訳よ。」


「知ってる事があったら全部吐けや、臼田さんよ~。」


「いや、俺の方こそ警察に協力を仰ぎたいんだぜ、儒能さんよ~~。」


「お主なあ、女の子のいい香りのする暖かいメイド喫茶と、寒い取調室のどっちが好きよ。」


「儒能よ~、おめえもしかして上から圧力掛けられたんじゃあなかろうな~~。」


「いや、オレッチは会津藩士の末裔であり、白虎隊の精神を貫いて今まで生きて来たんだわ。」


「そりゃあ、俺様の言う台詞だろうが~。おめえさんは官軍か良くて新撰組てとこなんじゃねえのかい。」


「お主がここの女の子に警察関係者だって大法螺吹いてるのはバレてんだぜ。」


「そうかいそうかい、それがどうしたってんだい。」


「オレッチとしても幼馴染の誼みでな、女の子の前でお主をお縄にしたいとは思わねえんだよ。」


「警察権力の濫用は身の破滅に繋がるぜ。」


「だから知ってる事早く言えや。悪い様にはしねえからよ。」


「おめえの持ってる情報も全部出せや。幼馴染の誼みで取引に応じてやらんでもない。」


「オレッチの方が格上なんだから、お主から先に情報出せ、女の子に正体バラすぞ。」



畜生め、しつこい野郎だぜ。根負けしちまったんでこの馬鹿を立てて少しだけ折れてやるか。




「じゃ、PC見てみろや。」


「う~ん、他にも知ってる事あんだろ。」


「元外務大臣の細井戸だ。さあ、おめえのカード見せろや。」


「詳しく話せって言ってんだぜ。」


「そいつをこれから調べるんだろが。」


「まあ、また何かあったら連絡してくれ。」


「おめえなあ、それじゃあ協力体制が取れねえだろが。」


「お主、海藤と馬頭澤の面は知ってるか。」


「知らねえなあ。知ってんなら教えろや。」


「それじゃほれ、写真くれてやるからよ、今後も警察に協力しろよ。ではまたいずれ。」




なんじゃ、こりゃあ~~~二匹とも目付きの悪い化け物かい。

海藤は太っちょのイボガエル、馬頭澤はもじゃもじゃ頭の妖怪ババアじゃねえか。




「ねえねえ、臼田さ~ん、あの人さっき正体バラすとか何とか言ってたでしょ~。どーゆー意味なの~。」


「絵梨咲~、おめえは盗み聞きの趣味でもあんのかよ。余罪がありそうだから、警察署の寒い取調室で詳しく訊いてやるぜ。」


「職権濫用は警察官心得に反しますよ~、ではまた~。」






久し振りにたっぷりと睡眠を取った後、今後の行動を考え直してみたのだが、やはり奴らの策源地にいきなり殴り込みを掛けるのは安東みい子の身を危険に晒してしまう。

惚けながら剛厳教団に探りを入れつつ、細井戸を拘束して口を割らせるのが最善の策だろう。

実のところ最善の策とはお世辞にも言い難いのだが、兎に角もう時間がないのだ。


奴らは自称キリスト教の仮面を被っているが、プロテスタント・ローマカトリック・東方教会の何れからも異端視されている危険なカルト宗教だ。

しかしキリスト教を謳っているからには、必ず明日か明後日に何らかの儀式を執り行うと俺は睨んでいる。

つまり明日のクリスマスイブに大勝負を掛けなければ手遅れになる可能性が高い。



細井戸は今日も同じ時間に聖堂内へ入って行った。

奴と鉢合せするのを覚悟の上で内部の様子を下見して置かなければならない。

聖堂内の入り口はガードマンや怪しい奴らがウヨウヨいて、IDカードをスキャンしなければ絶対に入れないようだ。

入り口の脇に受付らしき小窓が数カ所あるので、不細工な受付嬢に突撃してみる事にしよう。




「すんません、入会受付はここで良いんですか。」


「あなたは当教会をどこで知ったの。」


「ええ、実はボク、地方の工場に派遣勤務してたんですけど、先月末に突然契約を打ち切られてから全く仕事が見つからないんですよ~。

それで貯えも底を尽いて家賃も払えなくなったので、ここ数日間は公園で寝泊りずるしがながっだんでずよ~。

その公園でボクと同じ様に派遣切りになった人から、この教会の社会貢献と教義の素晴らしさを教えられでえ~、是非ども入信しだいど思っで来だんでずよ~。」


「あなたはお腹が空いているだけなんでしょ。そういう人がいっぱい来るけど全部断ってるから。」


「紹介状か何が持って来ねと駄目だんべが。」


「あんたのやる気と誠意次第なんだよ。」


「実を言うとオラはな、捨て子でよう教会で育でられたんだわさ。神様はオラの事を見捨でながったんだんべよ~。

都会の寒空を見上げながらオラはな神様と教祖様に~生涯を捧げようど決心しだっぺよ~。」


「食い逃げは駄目だからね、ちゃんと仕事すんだよ。はい、ここに住所と名前書いて。」


「お姐さんは代々木公園の住所は何番地だが知っでるだんべが。」


「名前だけ書きゃあいいから、早くしなよ。」


「ずんまぜんなあ~。え~と、鰤山義左衛門と・・・・・・・。」


「ほら、これIDカードだから、裏口から入るんだよ。」




ケッ、化け物めが、おめえなんぞトン汁にしたって食えねえってんだわ。

しかし意外と簡単にIDカードが手に入ったもんだな。


裏口ってのは地下駐車場の入り口にあったのか。ガラの悪い奴が2匹いやがる。



「ずんまぜん、新規会員なんでずが~。」


「あんたどこの生まれなの。」


「オヤズがやまがだげん人で~、オフグロがにいがだげん人でずが~~。」


「食い逃げ禁止だからな、先に便所掃除したらエサ出してやるからな。」


「どもども、おぜわになりまずだ~。」




こんな馬鹿デカイ便所、言われた通り掃除してたら日が暮れちまうから水をぶん撒いておきゃあいいな。

潜入には一応成功したので次は伏魔殿の捜索開始だ。


さてさてと、2階建の1階部分は事務所で殆ど占められているようで、別段怪しげな部屋はなさそうだ。

2階へはエスカレーター数台と広い階段が2箇所あって、案内板には催し物会場とか祭事大会場などと書いてあるな。

そして大勢の人間が忙しそうに動き回っている、と云う事は明日クリスマスイブの大きな催しの準備なのだろう。


安東みい子は今現在ここにはいないのかも知れない。しかし明日必ず現れるはずだ。

何となく臭うのは地下駐車場の近辺だ。

一般信者では入れない様な秘密部屋が地下室に必ずある。

しかし1階から地下の秘密部屋へ行く通路を探し出すのは相当に困難だろう。

恐らく細井戸は地下駐車場から直接、地下の秘密部屋に入っているに違いない。


安東みい子がそこに監禁されている可能性も無きにしも非ずだ。

こうなったらやはり細井戸をとっ捕まえて拷問に掛ける以外残された手はねえ。




奴はまだ聖堂から出てはいないだろうから、気長に待っていれば良い。

秘密探偵特高刑事の必須アイテムは総て準備万端整えてある。



そろそろ午後5時を回ってしまう、遅い、遅すぎる。まさか俺が聖堂内にいる間に帰ってしまったのか。

しかし秘密警察稼業を完遂するには夜の方がやり易い事は確かだろう。

ここにいないのであれば奴の自宅へ押し込めば良いだけの話だ。


午後7時前、・・・・・・・・・・来たっ!!!細井戸の車が出て来た。

人の多い場所では今回の仕事は遣り辛いので、住宅街に入ってから勝負を掛ける。



田園調布付近まで来たが、尾行には全く気付いていないらしい。

今日のためにレンタルした黒塗りの3ナンバーセダン、トップに付ける赤いランプ、変装グッズにテープ類とロープと注射器その他諸々、フッフッフッ。




「よ~~~っしゃあァァァァァァァ~、ナンチャッテ覆面パトカー様の出動だァァァァァァァァァァァァァァァァァ。」



指示通り細井戸の車は素直に空き地の脇に停まった。



「あ~~、免許証拝見。」


「どうしたんですか、私は先生を早く自宅までお送りしなければならないんですよ。」


「あ~~~、余計な事言わない様にね~。後ろの人は~~、身分を証明するもの出してくれるかな~。」


「あんたねえ、この方がどなたか御存知ないでしょうけど、首が飛んでも良かったら・・・・・・・・・・・・・。」


「やかましいぞ、こらっ。この辺りでなあ、連続婦女暴行殺人事件が起こったんだよ。犯人は60歳前後の禿頭だって事が判ってるんだよ。

はい~~車降りて~、おとなしくパトカーに移りなさい。」


「ああ、君ねえ、職務に忠実なのは結構だが後で痛い目に遭っても知らないよ。」


「はいはい、余計な事は言わない~、パトカーに乗って~~。」




細井戸はロックして閉じ込めた。先に運転手を片付けておかなければなるまいな。

奴がミラーでこちらを見ようとしても暗くて何が起こったか分らんだろう。



「はい~、運転手もちょっと出て来てね~。」


「あんたねえ、私は細井戸先生の秘書な・・・・・・・・・・ウッ!!!!」



当て身一発でノックアウトだ。後で縛ってトランクに放り込んで置けば良い。

さてと、肝心の細井戸ジジイ先生の料理に取り掛かるとするか。




「君ねえ、弁護士に連絡するから車の中にある携帯電話を取って来なさい。」


「いやあ、あんたは連続婦女暴行殺人犯のモンタージュ写真に瓜二つなんだわ。」


「何を馬鹿な事を言っておる・・・・・・・・・・・・・・・アッ、お前はあの喫茶店で・・・・・・・イタタタタタ・・・・・・・。」


「はい~、お静かにねえ~、はい、猿ぐつわ~。はい~看護婦さんがお注射一本打ってあげますよ~。全然痛くないですよ~~。」


「ングググググググ・・・・・・・・・・・・・」



「そろそろ効いて来たかな~、このクスリ結構高かったんだよね~。」


「ウ~、ゲホッゲホッゲホッ、ハァハァハァ・・・・・・・・・・・・」


「はい~、風邪ですか~、下痢はしましたか~。こらっ、細井戸、素直に言う事聞かねえと、もう一本看護婦さんがお注射するぜ。

安東みい子は聖堂の中にいるのか。てめえらの目的は一体何だ。」


「ウ~ウ~、知らない~。」


「じゃあ、お注射しましょうね~。はいっ、全然痛くないからね~。」


「ウ~ウ~ウ~~~ヒイッ、ヒイッ。」


「やいっ、細井戸ジジイ、安東みい子をどうするつもりだ。お注射もう一本で天国へ行けますよ~。」


「あの女は・・・・ファーザーに見初められて・・・・・・特別にありがたき血分けをして下さる・・・・・・・・・・」


「なにいィィィィィィィィィィ血分けの儀式だとォォォォォォォォォォォォォォ何時どこでだ、安東みい子は今どこにいるんだァァァァァァァァァァァァァァァァ。」


「明日の深夜13人の花嫁が・・・・・・神の子を宿すのだ・・・・・・・・・・・13人の花嫁は大聖堂の地下室で・・・・・教義を学びながら・・・・・仕合せに暮らしている・・・・・ウッウッ・・・・・・」


「おや~、患者さんポックリ逝っちゃいましたか~、・・・・・・息はある様だが、もう起きて来そうにないな。」




秘書にもたっぷりとクスリを注射しておけば、こいつらは48時間以上喋る事も起き上がることも出来ない。

うまく行けば秘書のIDカードを使って地下から聖堂に潜入出来るかも知れない。



しまった・・・・・・・・・・・・チャカの調達が間に合いそうにもねえ・・・・・・・・・・。






夜を徹して何人もの拳銃バイヤーに当ってみたが、どいつもこいつも一週間程度必要だと同じ事を言いやがる。

最悪の場合はこの素人目には玩具にしか見えない、M1906FNブローニングベイビー1挺で突撃を敢行するしかないのか。


潜入のための準備だけはしておいたが、恐らく奴らも武装しているので聖堂へ入った途端に蜂の巣にされる恐れがある。

聖堂の催しは午後9時頃終了するので、それまでに決着を付けなければならないだろう。



午前11時、少し仮眠を取った後で銃の手入れをしているとケータイの着信音が鳴った。

珍しく儒能の携帯電話からだ。

しかし電話の主は儒能本人ではなく部下からで、何も問わずに兎にも角にも大急ぎで東京警察病院まで来て欲しいとの内容だった。


儒能の身に何かが起こったのか、只事ではなさそうだ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。






病院に到着し、儒能の病室の場所を受付で尋ねていると、待ち構えていた様に私服が出て来て面会謝絶とある病室へ案内した。

この白いカーテンの向こうに儒能が横たわっているのか・・・・・・・・・・・・。




「どうしたあァァァァァァァァァァァァ儒能よォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。」


「ギャーギャー騒ぎなさんな、臼田。看護婦さんに席を外してもらうから。」


「何があった。撃たれたのか。」


「それが解らんのだ。両手両足と背筋に全く力が入らない植物人間状態なのだ。」


「どうしたんだ、詳しい話を聞かせろ。それから何故わざわざ俺を呼んだ。」


「昨夜、部下20人と共に剛厳大聖堂のガサ入れに向かったのだ。聖堂内を隈なく捜索していると、地下駐車場から地下にある隠し部屋への通路を発見した。

奴らは鍵を渡すのを拒んだので全員を集め、鍵を破壊して踏み込んだのだ。

そして地下出入り口から一番離れた所にある広い部屋に海藤と馬頭澤が二人で居って、その奥にあると思われる部屋へ我々が行くのを阻もうとした。

我々は全員で一斉に強硬突破を試みようとしたが、前に立ちはだかった馬頭澤がいきなり狂ったような雄叫びを上げて我々の注意を惹き付けた。

すると一瞬にしてその場に全員が倒れ込み、誰一人として身動きが取れる者はいなくなった。」


「なんじゃあァァァァァァァァァァァァァァァそりゃあよォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ、解り易い様に説明せんかい~~~。」


「だから解らんと言って居るんだ。唯一つだけ判っているのは、その瞬間に馬頭澤の眼が不気味に赤く光ったのだけは確かだ。

ここに入院している部下の殆どがそれを確認しておる。

しかしながら妖術使いだなどと騒ぎ立てても裁判では立証不可能だ。

つまり捜査の続行も行き詰まってしまい、このままでは奴らの思惑通りに国家が裏から操られる危険性があるのだ。」


「なんじゃい、そりゃあよ~~。あのババアは本当の化け物なのかい。」


「オレッチの体はどんどん衰弱していくだろう。もう現場への復帰は望めないのかもしれん。いや、この命すら消え去る運命にあるかもしれんのだ。」


「馬鹿野郎、弱音を吐くんじゃねえ~。」


「お主を呼んだのはな、オレッチの最期の願いを聞き容れて貰いたかったからなんじゃ。」


「なんでも言えェェェェェェェェェェェ、俺に何でも言ってみろォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ。」


「これから言う事はな、総て極秘中の極秘だと云う事を肝に銘じて聞け。お主には是が非でも遣ってもらいたい仕事があるんだが、詳しい内容は訊かずにやるかやらないかだけを答えろ。」


「おめえの目を見れば大体の察しは付く。勿論やるって事よ。」


「うむ・・・・・・・・公安警察には非公然組織の公安13課という特務機関が存在する。それはこの世に蔓延る邪悪な鬼どもを人知れず地獄へ送り届け、三途の川の渡し舟を漕ぐ船頭だと考えろ。

自分はその公安13課でナンバー2の要職に就いていたのだ。

しかし地獄送りの執行人たるエージェントは警察官ではなく、優秀な一般人の中から推薦により選ばれる。

その個人名や総人数などの情報は一切極秘扱いなのは当然の事だ。

そして闇の執行人には国家的ライセンスが与えられる。

お主の左側にある引出しの一番上に封筒があるから出してみろ。

ライセンスのICカードと規定が書かれた小冊子、それらは誰にも見られてはならないので大切に保管しろ。

コインロッカーのキーも入っているが同封の地図を辿って行き、バッグを開けずに取り出して来い。

その中には聖堂内部の詳細情報が載っているので参考にしろ。

そしてお主の大好きそうな彼女をプレゼントしてあるので自由に使え。

後は何も言う必要はないだろう。

但し、馬頭澤の眼だけは絶対に見てはならん。」


「判ったぜェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェェ儒能よォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ~~~。」


「ケダモノどもをぶちのめせ~~、地獄のエージェント臼田ァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ~~~。・・・・・・・・ではまたいずれ。」






地図に従って池袋駅近くのコインロッカーへ行き、中に入っていたずっしりと重量のあるバッグを取り出して、言われた通り中身は見ずに事務所へ帰った。


バッグを開くと一番上に剛厳神教大聖堂内部の詳しい見取り図の描かれた書類がある。

地下からの入り口は既に塞がれているだろうが、1階理事長室にある本棚の裏が地下室への入り口になっていると書かれている。

地下には秘儀を執り行う秘密の神殿が存在し、その奥の部屋に13人の生贄が幽閉されている可能性が高いとも・・・・・・・・・・・。


さてと、書類の下に入っているのは1着の黒いベストだが、この形状と重さからすると防弾チョッキの様だな。

バッグの一番下にはレザーケースとダンボール箱があるのだが、ケースの中には・・・・・・・・・・グオォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォ・・・・・・・。



「コルトアナコンダ.44マグナムじゃァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ。」



ハワイへ行く度に射撃場で借りて撃っていた憧れのコルトアナコンダじゃわァァァァァァァァァァァァァァァァァ。

しかも傷一つない真っ更の新品・・・・・・・・・・・箱の中にはマグナム弾が数100発と、隠し持てるバックサイドホルスターが・・・・・・・。

そしてこの防弾チョッキには100発近くが装着出来そうだぜ。



「フッフッフッフッ、第3次世界大戦勃発じゃあァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ。」






今夜の催しとやらは午後6時開場で9時過ぎまで続くらしい。

悪魔による血分けの儀式は一般信者が帰った後、午後10時から朝方まで繰り広げられるのだろう。

一番混雑しそうな7時頃を狙って潜り込み、早めに決着をつけなければならない。


現在、午後6時前だが既に人が集まって来ている。

IDカードは単純なバーコードのみで、画像をチェックしている気配もないから、ハンドスキャナーはPC端末ではないらしい事が判った。

細井戸の秘書が持っていたIDカードを使って入ってみるのも面白そうだ。



まだ7時前だが出入り口はかなり混雑して来たし、もうのんびりと待ってもいられねえから作戦開始だ。

ボディーチェックはしていないので、秘書のIDカードですんなりと通れるだろう。




「あっ、貴方は細井戸先生の秘書の方ですよね。」


「そうだよ、今日は表から入る様に言われたものでね。」



まずい・・・・・・・・バレちまうかもしれん・・・・・・・・・・。



「VIPクラスの方は特別席がご用意してありますから御案内させますので、おいっ、君~、お客様を御案内して差し上げなさい。」


「うんうん、どうもどうもご苦労さん。」




やれやれ、辛うじてケバい美女の案内係付きだけで済んだか。

案内嬢の言うには階段とエスカレーター以外に、VIP客専用エレベーターが完備されているのだそうだ。

エレベーター内のボタンには明らかにB1があり、この女は自分のIDカードを差し込んでから2Fボタンを押した。



2階の競技場の様に広い催し物会場はもう既に宴もたけなわで、俺は最前列にあるVIP専用の豪華なソファーに案内された。

周りの席にはテレビで御馴染みの文化人や政財界人が多数いて、何やら歓談に花を咲かせている。



暫くしてから、司会者がマイクを手に取りアナウンスを始めると、騒然としていた会場内は一気に静まり返った。

どうやら、海藤イボガエルと馬頭澤妖怪ババアがいよいよ登場するらしい。

ん~~、2匹とも観覧車みたいなカゴに乗って上から降りて来るのか、会場は割れんばかりの拍手喝采に包まれている。

俺には虫かごに入った害虫にしか見えないのだが。


イボガエルが大袈裟な身振り手振りをしながら何か喋り始めたが、何が何やら馬鹿馬鹿しくて聞くに堪えない。

イボガエルと妖怪ババアの折伏大訓話は30分以上続くだろうから、その間にババアの理事長室へ忍び込むとするか。




理事長室は1階の左奥にあるのだが、見取り図通りにそこまで辿り着けるかどうかだ。

奥の事務所付近は人の往来もなくひっそりとしている。

この経理部のドアを通り越して左に折れれば理事長室のドアの前に行き着く筈なのだが・・・・・・・・・・・・・。

やはりドアの前には見張りが5人も張り付いている。




「おいっ、お前どこに行くつもりだ。」


「あ~、ご苦労さん。細井戸先生の秘書なんだけどね、先生が1階にいると聞いて探しているんだが、見掛けなかったかね。」


「ああ、細井戸先生の秘書の方ですか。先生でしたらこちらには居りませんが。」


「そうかね、それでは他を当ってみるよ。」




クソッ、ここじゃあ銃も使えねえから、理事長室の隠し扉から地下室へ行く望みは断たれたか。

見張りの5人を倒そうとしても警報を鳴らされたら一巻の終わりだ。

しかし仮に理事長室へ入れたとしても、本棚は簡単に手で開けられる訳がなく、確実に電動のスイッチがある筈なのだ。

そのスイッチを見つけ出すだけでも時間を潰してしまい、下手をすると発見される恐れもある。

電動工具などは持ち込み不可能なので、初めから考慮に入れてなかったのが災いしたのか。

いずれにせよ、きめ細かい戦略を立てている時間の余裕もなく見切り発車に踏み切った俺の落ち度か。



いや、待てよ・・・・・・・・・・・VIP専用エレベーターの前に見張りは付いていなかった。

細井戸の秘書のIDカードを使ってB1のボタンを押せば地下室へ降りられるかも知れない。

これがもし駄目なら理事長室に強行突破を仕掛けるより方法はなくなるが、運を天に任せるしかない。



1階エレベーターの前には誰もいない・・・・・・・・奴らが見過しにした唯一の盲点か。

エレベーターは現在2階に停まっているが、呼び出しボタンを押してから直ぐに動き出したので人は乗っていない様だ。

よしっ、誰もいない、後はこの秘書が持っていたIDカードが通用するかどうかだ。

差し込んでからB1ボタンを押してみると・・・・・・・・・・・・・・・・下向き矢印のランプが点灯して動き出した。

地下では少々物音を立てても上の階には届かない筈だ。

最悪の事態を想定して、銃の安全装置は外しておいた方が良いだろう。



地下1階・・・・・・左右に長い通路が広がっているが、人の気配は感じられない。

秘密の神殿と生贄が閉じ込められている部屋は最も奥に位置しているはずだ。

右方向へ辿って行って大体の構造を見て回る事にすると、ドアが2つありその先は行き止まりになっている。

エレベーターのある場所まで戻り幾つかのドアを通り越すと、通路は右手に折れて更に先へ続いている。

一つもドアがないその通路の突き当りまで行くと、また右へ直角に折れる長い通路がある。

右側にドアが数カ所あるが、構わずそのまま進んで行くと再び行き止まりになる。

反対側の通路のドアも、この通路と同様に右側にだけあった。

と云う事は、地下駐車場をU字型に取り囲む形で部屋が造られているのか。



理事長室は今居る場所のちょうど真上辺りになるので、理事長室からの出入り口はここの通路沿いにある部屋へ直に繋がっているのだろう。

儒能は地下出入り口から離れた所にある広い部屋で部下共々馬頭澤にやられたと言っていたが、その部屋への入り口はこの通路にあるドアの何れか一つだという可能性が高い。

恐らく広い部屋とは神殿の事であり、安東みい子はその奥の部屋に監禁されている。


この長い通路にはドアが3つあるが、一番奥のドアを恐る恐る開けてみた所、そこは多くのイスとテーブルが雑然と置かれた待合室の様だった。

そして真中のドアを開けると、多数のスチール製什器が所狭しと並べられた広い倉庫だった。


この通路で最後の、3つ目にある観音開きのドアの大きな把手に手を掛けたが、ここだけ頑丈な鍵が掛けられており、体当たりした位では到底開きそうにない。

俺の新しい彼女の手を借りるより方法がなさそうだ。


隣の倉庫からサイレンサー代りになる物を探していると、大きな枕が見つかった。

これで少しは銃声による反響を抑えられるかも知れない。

そしてコルトアナコンダ.44マグナムを取り出し、枕越しに鍵の周辺へ向けてマグナム弾を6発ブチ込んだ。

かなり大きな音が響き渡ったが、把手は鍵諸とも見事に吹き飛んだ。



その中へ入ると、だだっ広い部屋一面が豪奢な大理石造り・・・・・・・・やはりここが秘密の神殿だったのだ。

真正面にドアが見えるので隠し部屋かと思い行ってみると、そこは鍵が掛けられておらず通路に繋がっていた。

長いU字型通路の内側にある狭い通路・・・・・・きっと儒能たちは地下出入り口を通ってここから入ったに違いない。

それで一番奥の部屋だと勘違いした訳か。


しかし必ずこの神殿のどこかの扉を開ければ安東みい子はいる・・・・・・・・・・・。




「ヒャーーーーヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ、飛んで火に入る夏の虫とはお前の事だ。戒名は決めて来たのかい、ヒャッヒャッヒャッヒャッ。」



左斜め後ろ・・・・・・・・・・・・・妖怪ババア馬頭澤か・・・・・・・・・・・・・絶対に視線を合せてはならない。



「どこに雇われた犬だ。聖なる神殿を汚した罪は重いぞ。貴様、覚悟は出来ておるのか。」


「ファーザー、貴方は警備に連絡しなさい。警備が来る前にこの侵入者は岩石になっているがなあ、ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ。」



海藤イボガエルも一緒に来ていたのか。

現在ここに居るのは馬頭澤ひとりだけなので殺るなら今しかない。

しかしどうやって照準を合せれば良いのだ。


まずい・・・・・・・・・馬頭澤が俺の前方へ回り込んで来た。



「こっちを見るんだよボウヤ、恥ずかしいのかい、ヒャッヒャッヒャッヒャッヒャッ。」




一先ずこの部屋からは退散した方が良さそうだ。

俺は通路に向かって脱兎の如く走り出し、取り敢えず身を隠す為に隣の倉庫へ駆け込んで行った。

盲滅法撃っても命中するものではない・・・・・一体どうすれば奴に弾丸をお見舞い出来るのか・・・・・・・・・。


そうだ・・・・・・ケータイのモニターで映して見ながらであれば直接目線が合った事にはならない。


馬頭澤が入って来た・・・・・・・・正面から堂々と勝負してやるぜ。

俺はケータイ画面を見ながらコルトアナコンダ.44マグナムを構え、化け物に向け全弾を炸裂させて胴体にブチ込んだ。

そしてマグナム弾を全身に浴びた馬頭澤は、後方へもんどり打って倒れ込んだ。




意外に他愛なく・・・・・・・・・・・・・・・・・エッ、そんな馬鹿な・・・・・・・・・・・馬頭澤は何事もなかった様に起き上った。

また俺の居る方に向かって歩いて来る・・・・・・・・・そんな馬鹿な、こいつは本当にマグナム弾も通用しない不死身の化け物なのか。


この化け物は爪先まで隠れる長いドレスを引き摺る様にして歩き、両手も長い袖の中にすっぽりと隠している。

しかしこのドレスは異様に腕の部分が太く出来ているみたいだ。

そしてその両腕を顔の前に翳しながら迫って来る。



そうか、判った・・・・・・・・・・・・これは防弾服、というよりは鉄の鎧だったのか。

ならば何百発撃ち込もうと倒れずに、弾丸は尽き果て、俺はこの化け物に取り殺されてしまう。


顔面にブチ込んで倒す以外に勝つ方法はない。

距離を置いて逃げていたのでは、永遠に勝機は見出せないって事だ。

至近距離までこちらから突撃を仕掛けて、一気に撃ってから後方へ退避するゲリラ戦術を敢行するしかない。



よしっ、一か八かの特攻だ・・・・・・・10m・・・・・・5m・・・・・・3m・・・・・・・・・・・・・・・・・・。



「くたばりやがれ~~~~~妖怪ババアめがァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ。」



俺は全ての弾丸を撃ち終わった後、すぐさま後ろに避難し物陰からケータイ画面を通して様子を窺っていたが、今度は中々起き上がって来ない様だ。


良く見ると馬頭澤の体の脇の方に何かがあるらしい。

ズームアップして確認すると・・・・・・・・・首だ・・・・・・・・・・・・・馬頭澤の首が胴体からもげて転がっている。




「理事長様、後は我々が始末しますから通路の方に出て下さい。」



しまった、馬頭澤に梃子摺っている間に手下が部屋の外に集まって来ている。

ドアの両側からはサブマシンガンの銃口とマガジンが幾つも見える。

通路には数十人が待ち構えている気配がする。

俺様も遂に年貢の納め時か・・・・・・・数十人が突撃用自動小銃を持って一遍に雪崩込んで来れば一巻の終わりだ。




俺の命など何時でもくれてやって良いが、安東みい子を救い出せず悪魔の生贄にされてしまうのが可哀想で、死んでも死に切れない想いだ。

そして樫尾メイアとの約束を果たせなかったのが無念でならない。

こんな考えは負け犬の遠吠えに過ぎないのだろうか・・・・・・・・・・・・・・・・。



しかし男が散り逝く時は天晴れ見事見事に散らなければならない。

いざ外へ打って出て特攻白兵戦を仕掛けるとするか。

いや、その前に海藤に手土産をくれてやらねばなるまい・・・・・・・・・・・・・・・フッフッフッフッ。




「ホレッ、海藤~、俺様からのクリスマスプレゼントだァァァァァァァァァァァァァァァァ。ありがたく頂戴しろいっ。」



俺は最期の闘いの前に、馬頭澤の生首を通路に放り投げ海藤にプレゼントしたやった。


すると・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・




「グギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ」




外に居た連中が一斉に叫び声を上げた後、次々にバタバタと音を立てながら倒れ、それは次第に数十名の呻き声へと変って行くのだった。

倒れた奴らの頭や足がここからもはっきりと見えたため、狐に抓まれた様な想いで銃を構えながら徐にドアに近寄り通路を見ると、

海藤イボガエル教祖と共に全員が白目を剥いて倒れ込んでいた。



まさか首だけ残った馬頭澤ババアの眼が未だに生きていて・・・・・・・・・・・・・そんな馬鹿な事が・・・・・・。

馬頭澤の首は海藤がしっかりと両手で抱き締めたままで、その悪魔の眼は海藤の腕で塞がれている。


そして、こんな危険極まりない生首はこの世に在ってはならないと考えた俺は、馬頭澤の頭を木っ端微塵に破壊する事にした。



1発目の弾丸は頭半分を砕き、止めに2発目の弾丸を発射して悪魔の首は粉々に砕け散った。

生首を抱き締めていた海藤の体も、哀れコルトアナコンダ.44マグナム弾の通り道となり馬頭澤と共に天に召されて行った。






聖堂内にはまだ手下が残っているかも知れないので油断は禁物だ。

急いで安東みい子を探して、一刻も早くこの伏魔殿から脱出しなければならない。



しかし神殿のどこを探しても扉は出入り口の2箇所しかない。

その代わり上階の理事長室へ通じるエレベーターがあったので1階に上がってみた所、本棚裏の狭い通路の少し離れた場所にもう一台のエレベーターがある。

この下に違いない、でなければ安東みい子の所在は永遠の闇の中へ消え去ってしまう。



再びエレベーターで地下1階へ下りると、やはり真っ正面にドアが一つある。

見張りがいるかも知れないので、銃に手を遣りつつドアを慎重にノックしてみた。

しかし何度ドアを叩いても誰も出て来る様子がないので、ドアノブを捻ってみると鍵は掛けられていない。


そしてドアを一息に開けてみるとその中には、数名の少女たちが気だるそうな面持ちで俯き加減に椅子へ腰掛けていた。



「この中に安東みい子はいるか!!!!!」



全く返事もなく全員目がトロンとしている。明らかに多量の薬物を盛られているらしい。

右奥がカーテンで仕切られている様なので開けてみると、そこは2段ベッドが数台置かれた寝室で、ここにも少女たち数名が死んだ様にぐったりとして寝ている。

ひとりひとり顔を確かめながら安東みい子を探していると・・・・・・・・・・いた、写真で見た通りの幼顔な安東みい子がいた。



「みーちゃんだね、従姉妹の樫尾メイアに依頼されて助けに来た。さあ、起きるんだ。」



駄目だ・・・・・・・目だけはこちらを見詰めているが殆ど意識がないらしい。

ベッドから降ろしてみたが全く歩けそうにないので、抱きかかえてエレベーターに向かった。


もう既に午後10時を回ったが、理事長室の前にいた男たちは今も外にいるのだろうか。

安東みい子を一旦降ろして外の様子を窺うと、事務所へ通じる辺りまで誰もいなかった。

ここから一気に外の大通りに出れば車の在る場所まで5分と掛からない。



しかし正面出入り口に差し掛かった所で突然館内に警報が鳴り響いた。

出入り口の内側と外側には2名ずつ警備の男たちがいる。




「おいっ、お前はどこから来た、今出入りは出来ないぞ。その抱いている女は誰なんだ。」


「俺はなあ、いつもは優しいお兄さんなんだが、今日はな少々虫の居所が悪いんだよ。」




俺は安東みい子を静かに床へ降ろし、上半身を起すと同時にコルトアナコンダ.44マグナムを4人の脚めがけてぶっ放した。

男たちの脚4本が一瞬にして吹き飛び、正面の自動ドアもIDカードを使う事なく粉々に吹き飛んで出口が完成した。


そして安東みい子を抱きかかえて大通りまで出て、反対側の歩道まで渡る事が出来た。

ここまでくればもう大丈夫だろう。



安東みい子を抱いて駐車場まで悠然と歩いている途中、数十台のパトカーが通過して行き、大聖堂のある辺りで停まっている。

まだ儒能には連絡していないのだが、公安が痺れを切らして踏み込んだのだろうか。


残された少女たちの身柄も安全に確保されるはずだし、俺様の大逆転勝利で幕切だな・・・・・・・・・・・。




これにて一件落着ゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ~~~だ。








あれから1週間、早いもので今日は大晦日だ。

樫尾メイアとブリブリエンペラーで逢う約束をしているのだが、何故か2時間も前に来てしまった。


儒能と部下たちはどういう訳かクリスマスイブの夜以来、急に体調が回復して今では普通に歩ける様になっているらしい。

馬頭澤ババアが昇天して呪いが解けたからなのだろうか。



お~っと~~、華やかで綺麗な着物を身に纏った超絶美女、樫尾メイアのご来店だぜ~。




「こんにちは、お待ちになりましたか、臼田さん。」


「いやいや、俺も今来たばっかり。ところでみーちゃんの具合はどう。」


「ええ、順調に回復してますわ。でも、お医者様の仰るには薬物中毒が完全に治るまで時間が必要だそうですの。」


「そうかい、本当にえらい目に遇っちまったもんだよな。」


「いいえ、総て臼田さんのお陰でわたくし達は再び仕合せを掴んだのですわ。臼田さんは命懸けでみーちゃんを救い出してくれた恩人だと毎日言い聞かせてますのよ。

儒能刑事さんもイブの夜に臼田さんが聖堂に突入していなかったら、悪徳政治家の特権で有耶無耶にされてしまったと仰られてますわ。」


「まあ、これが俺の仕事なもんでね。依頼者の利益のために働くのが俺の義務なだけって事よ。」


「命懸けの仕事をただの義務だと、さらりと仰る臼田さんがわたくしは大好きなんですの。

話は変わりますけど、来年早々わたくしのお店がオープンしますの。

臼田さんは特別な方ですので、飲み放題食べ放題で無料ですから毎日いらして下さいね。」


「武士は食わねど高楊枝っつ~事で無料なんてのは有り得ないけどな。」


「臼田さんのお仕事のない日は毎日この喫茶店で同伴して入店しようと思ってますのよ。」


「そりゃあ名案だねえ、ここでだったら毎日逢っても良いんじゃねえかな。」


「ここで逢ったら毎日わたくしのお店に行かなければならないルールがあるんですの。」


「まあ、ルールは協議してから決めようや。」


「わたくしは幼少の砌より諦めが悪くて、蛇の様に執念深い娘だと言われながら今まで育って参りましたの。

ですから必ず臼田さんはわたくしの秘めた想いに振り向いて下さると信じてますのよ。」


「まあ、あのなんだ~、俺はガキの頃から飽きっぽくていい加減な男だと罵られながら生きて来たんだけどよう。」


「臼田さんがわたくしの瞳を見つめていると硬い石に変って行くのが実感出来ますわよ。・・・・・・・・・・・・・・では。」




あれ~~、年末年始お店は休みだから洒落たレストランで食事でもしようと思ってたのに~~何で意味不明なこと言って帰っちゃう訳よ~~~。




残念ながら本年度中にMYコルトアナコンダ.44マグナムが火を噴く機会はなさそうだぜ、フッフッフッフッフッ。






「ねえねえ~~、臼田さ~ん、あの女の人が大好きとか言ってたけどさ~、どーゆー関係なの~~~。」


「あれ~~、おめえもしかして妬いてんじゃあねえのかい、絵梨咲~~~~~。」


「残念でした~、絵梨咲は法螺吹きジジイが大っ嫌いなんだよね~~、ではまた~~~。」








MYコルトアナコンダ.44マグナムの照準器がターゲットを捉えたみたいだぜ・・・・・・・・・・・・・・ではまたいずれ。













To be continued.












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