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この国に来てから一月(ひとつき)ほど経った。

食事の問題は解決したけど、色んな事を彼女等は仕掛けてくる。

まず、あれ以来ダリウス・アルンゼン国王とは会っていない。というか、会えない。

アルフ・サットンの妨害からだ。

基本、王妃である私の身の回りにいる者達はアルフに与している。まぁ、アルフというかカレンの味方だ。

皆カレンの本性を知らないからか、カレンは私が来たがために王妃になれない可哀想な令嬢に格上げされたのだ。

私から見れば、大丈夫か?この国は・・・という感じ。

そして、情報もバンバン入ってきてる。

使用人達も嫌がらせに加担しているのはほんの一部。下っ端の使用人達はまったくもって普通だった。

でも、一番情報に詳しいのも下っ端の使用人。特にメイド達。

一度ミラをランドリーメイドに扮して送り込んだら、面白い話がわんさか。

アイザック顔負けねと、真面目に思ったわ。


まず私の存在は、嫁にしろと無理矢理押しかけてきた我侭王女になっているらしい。

でも、あまりそれは信じられていないらしく、どちらかと言うと親しみやすいと好感度はそこそこあるらしい。

というのもこの間、庭を散歩している時に偶然庭師に会って、声を掛けた事が要因らしい。

自国では私も庭の手入れを手伝っていたから、その大変さを知っている。だから、気さくに花の話や手入れの大変さを労ったりしたの。

その話が、あっという間にメイド達に広まったらしい。庭師と会話したその日の昼には、既に広まっていたのだから、半端ない彼等の情報網に脱帽である。

そして驚いた事に、彼女等の間ではカレンが悪く言われていた。

小さい頃から虚弱体質で、何かとそれを武器に同情を集めていたのだが、見てしまったらしいのだ。


はしたなくもドレスをたくし上げ、廊下を全力疾走するカレンを・・・・


一瞬何を見たのか・・・幻か、と思ったらしいが、その場に三人ほどのメイドがいて、何事かと・・・好奇心丸出しで追いかけたらしい。

そうしたら、遠くにダリウス・アルンゼン国王と兄であるアルフ・サットンを見つけた瞬間に止まり、走って乱れた髪の毛をささっとなおしたかと思うと、絶妙なタイミングで彼等の前に倒れ込んだようなのだ。

顔は赤いし(走ったから)汗はかいてるし(めっちゃ走ったから)苦しそうに肩で息してるし(全力疾走したから!)何処から見ても、ザ・病弱!

何も知らない男二人が心配そうに大騒ぎしているのを見て、メイド達はかなりドン引きしたらしい。

そして、カレンの病弱のカラクリを知り、彼女の狡猾さと騙されたという己の迂闊さに、腹立たしさと嫌悪感しか生まれなかったようだ。

彼女等はすぐさま事実を仲間に伝えると共に、カレンには気を付けるよう注意を促した。

実はメイド仲間にはまだいないが、カレン付きだった侍女が辞めていたから。それも、そこそこの人数がだ。

辞職の理由はメイドまでは伝わってこなかったが、カレンに対しての疑惑は多少なりとも抱いていた。

だが今回の、カレンの虚弱体質が嘘だと分かった事により、侍女たちが辞めていった原因の一端に触れた気がしたのだ。


王宮に住んでいるわけでもないのにカレンに侍女が付くのは、兄でもある宰相の職権乱用によるものである。

彼はこの王宮に部屋を持っていた。其処にカレンが転がり込んできたのだ。

来るたびに具合が悪いと倒れ込み、頻繁に泊まるようになったものだから、自然と彼等の住まいが王宮だと認識されていったのだ。

元々、彼等にも帰る屋敷はあるのだが、家族間の仲が悪くアルフ・サットンは王宮に寝泊まりする事が多かった事も、そう認識された原因の一つとも言えよう。



アイザックの調べでは、サットン家は伯爵という地位に就いてはいるが、さほど重要視されるような家柄ではなかったようだ。


貴賤上下の強いこの国では、貴族というだけで高い山に匹敵するほどのプライドを持っている。

サットン家も例にもれず、気位だけは高かった。

よって当主は子供達にも貴族としての優秀さを求めたのだ。

長男は優秀だった。だが、次男のアルフは平凡。末っ子のカレンに至っては病弱。病弱な令嬢は、嫁に行けるかも怪しい。

世継ぎを産めそうにない身体では、見向きもされないのだから。

父親であり家長でもある伯爵は、長男を次期当主に指名し、彼だけに心を砕き特別視するようになったのは当然の事なのかもしれない。

いくらアルフ達が愛情を求めても、それに応える事の無い両親。見下すような長男の眼差し。

そんな辛い日々をアルフとカレンは、肩を寄せ合うようにして、ひっそりと生きていた。

そんな時、当時の王太子ダリウスの側近を決める為のパーティーが催され、サットン家からは長男と次男であるアルフが参加した。

高位貴族の子息が多く参加する中、皆の予想に反しアルフが候補者として選ばれたのだ。

ダリウスとも馬が合ったのか、急速に彼等の仲は近くなり、比例するかのようにアルフの才能がメキメキと開花していく。

幼少時はどちらかと言えば、兄の優秀さが目立っていた所為か、アルフは出来が悪いのだと思われていた。

事ある毎に比べられ見下され、家族からも相手にされず、アルフにとっては劣等感を抱くどころか、ただただこの環境から逃げる事しか考えていなかった。

だが、王太子の側近候補となり、王太子と近しくなっていくごとに、アルフの中に自信が生まれ始めたのだ。

それが幸いしたのか、優秀と言われていた長男を追い越し、将来の宰相候補とまで言われ始めた。

見下していた弟が、今では兄を追い越し宰相候補とまで言われる優秀さを発揮している。

父である伯爵さえ王家と何らかのつながりが出来ると、あれだけ冷たくあしらっていた弟を特別扱いし始めた。

そして、徐々に見せつけられる才能の差。


落ち零れと呼ばれていた青年は、王太子と出会った事を切っ掛けに優秀な側近候補へと変わっていったのだ。

面白くないのは今までちやほやされていた、次期伯爵の兄。

嫉妬と妬み、憎悪を全て弟と妹へと向け、見えない所での嫌がらせが常習化していった。

だが、昔の出来の悪いアルフではない。彼は妹と共に屋敷を出る為に粛々と準備を進め、誰にも違和感を覚えさせる事なく王宮に住まいを移す事ができたのだった。



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