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翌朝、ブラッドリーと朝食を共にした時、私に対しての謝罪を込めて離縁ではなく婚姻は白紙に戻すと告げられた。


私の結婚は白紙になった。離縁じゃなくて、白紙よ。

「ありがとうございます!ブラッドリー殿下。嬉しいですわ」


あの時見つからなかったアクセサリーも、綺麗な状態で戻ってきた。よかったわぁ。

上機嫌で朝食を終え、昼頃には出発の為にエントランスホールへと向かった。

そこにはすでにブラッドリーとその側近達が私達を待ち構えていた。

「この度は、ベアトリス殿下には大変お辛い思いをさせてしまい、本当に申し訳ありませんでした」

彼らが一斉に頭を下げた。

「いいえ、もう終わった事ですし、謝罪は沢山していただきましたわ。これからが大変だとは思いますが、殿下を信じて待っている人達が沢山いるという事を忘れないでください」

「はい。ベアトリス殿下が繋いでくださった縁も非常に重要であり、相手の方達もとても優秀でした」

ブラッドリーが言うのは、神殿と平民街の人達の事を指していた。

彼等の事に関してはしつこい位に頼んだからね。

「この国がどのように変わっていくのか、楽しみにしておりますわ」

そう言って、馬車へと乗り込んだ。

最初から最後までダリウス陛下の名前は出てこなかった。


―――それでいいわ。


遠ざかるお城を見ながら、この国に来たあの日の事が思い出される。

「こんなにも、全く違う気持ちでこの国を出る事になるなんてね」

「因みに、どんな気持ちですか?」

向かいに座るミラが、興味津々で前のめりになる。

馬車に乗っているのは私とミラだけ。近衛騎士のアイザックは、馬車を守る様に馬で並走しているのよ。

「そうね・・・此処に来る時は『ぶっ飛ばしてやるぜ!』的な意気込みだったのよ」

そしてこの国を出る時はきっと、スカッとした気持ちで帰るんだと、あの時は疑いもしなかった。

「でもね、今は・・・何ていうか、敢えて言うなら『祈り』が近いかな」

「祈り・・・ですか?」

「うん・・・神官のアリソン達や、平民街のお店のおばちゃん達とかが、幸せになれます様にって・・・」

此処は自分の国にはなれなかった。だから、私は祈るしかできない。

陰ながら援助する事も可能だが、ブラッドリーは既に色々策を練っているようで、それも必要なさそうだ。

「まっ、取り敢えず経過報告はしてもらう約束はしているから、楽しみってのも間違いないんだけどね」

「そうですね」

そう言ったっきり、二人は流れる景色を眺め続けた。



いくら隣国とはいえ、昼に発ってその日のうちに王宮まで着く事はできない。

シュルファ国には入ったけれど、国境近くの町で一泊することになった。

アルンゼン国の騎士達は国境付近まで護衛してくれて、我が国の国境に入ってからは・・・・


待ち構えていたかのようにずらりと並ぶ、シュルファ国の騎士達。先頭に立つのがこの国に置いてきた私の近衛騎士達だ。

そしてその横に立つのが・・・・

「ベアトリス殿下、お元気そうで安心しましたぞ」

「なっ・・・なんでカノープス将軍が、此処に!?」

てっきりクレーテ帝国の騎士達も居るのかと思ったけど、既に撤退していたようだ。

その代わりに、何故かデルーカ帝国の守りの要とも言われているカノープス将軍がそこに居た。

言わずもがな、アイザックとミラの父親である。


驚きに固まっているのは私だけではなかった。

ミラとアイザックは化け物でも見るかのような表情で、自分の父親を見ている。

そう、懐かしい家族を見るような目ではなく、化け物・・・である。

「おぉ!アイザックにミラ!久しぶりだな!」

「ご無沙汰しております、カノープス将軍閣下」

父親というよりは、祖国の偉い人に対するような挨拶に、当人は気にすることなくアイザックの肩を叩きながら「なぁに、照れてんだよ!」と言いながら、豪快に笑っている。

アイザックは叩かれた肩を痛そうに擦り、ミラに至っては素早く私の後ろに避難している。

「ところで将軍は何故ここに?アイザック達に会いに来られたのですか?」

「まぁ、そんなところです。詳細は宿屋で話しますよ。あちらの馬車で移動しますので、御手をどうぞ」

大きな身体で器用に礼をとり、馬車までエスコートしてくれた。


バシル・シューファー・カノープス公爵は、デルーカ帝国皇帝陛下の信頼も厚く、帝国軍の全てを取り仕切っている、重鎮中の重鎮なのだ。

歴史的にも有名なカノープス公爵家だが、その権威を振りかざすわけでもなく謙虚であり、情に厚く、偏見に囚われない人間としても有名だった。

公爵家ではあるが、子供達の結婚に関しては本人達の意思を尊重して、家の為にと政略的な婚姻を薦める事は一切ない。

現当主である将軍も恋愛結婚であり、妻は準貴族である騎士爵だった。先祖代々がそうであるように今後もそうなのだろうと、誰もが思っていた。


だが、それはアイザックには適用されなかったようで。

宿屋に着き部屋に四人で集まってすぐの将軍の第一声が「アイザック、結婚しろ」だったのだから。



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