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王弟ブラッドリーによって、次々と断罪されていく彼等を横目に、私は自分の出番が来るまで聞き役に徹した。


信頼という名の上に胡坐をかき裏切られ、気の毒なほど打ちのめされている国王ダリウス。

純粋で可愛いだけだと思っていた妹が、実は無知蒙昧だった事を初めて知った、宰相アルフ・サットン。

周り全てが自分の味方だと、高を括っていた、馬鹿なカレン・サットン。


本当に、喜劇にすらなり得ない、くだらない話だわ。

でも、彼等が起こした事はくだらないでは片付けられないのが事実。


「此処に居る者達の処分は追って伝える。それまでは、使用人、サットン兄妹は牢に収監。兄上は暫くは自室で軟禁とします」

ブラッドリーが締め括ろうとしたので、慌てて私は手を挙げた。

「王弟殿下、私からもよいですか?」

「あぁ・・すみません。ベアトリス殿下からは重要な発表がありましたね」

忘れられちゃ困るわ!私にとって一番重要なのが、離縁成立の件なのだから。


「ダリウス陛下、こちらを」

そう言うとアイザックが陛下の元へ離縁成立の用紙を渡した。

「こ・・・れは・・・」

「私もこの半年間、何もしていない訳ではありませんのよ?神殿に通いつつ、平民街を視察させて頂いてましたの」

「平民街を?」

「えぇ。皆様にはとても親切にしていただきましたわ。親切に、そして仲良くさせて頂いたからこそ、この様な判断をさせて頂きました」

そう、元々は此処までやるつもりは本当に無かった。

いくら嫁いだとはいえ、仮初の結婚の様なものだったし、半年後無事に離縁できればいい、としか考えていなかったもの。

でもね、自国ではそれほど身分上下が無かったから・・・・いや、無かったのではなく、互いの立場をよく理解し上手く付き合っていたのよ。

だけど、ここでは本当に力ある者が弱い者を虐げている。意味が分からなかった。

話をしてみれば、そんな状況の中でも一生懸命生きようとしている、(したた)かで優しい人達。

一度触れ合ってしまえば、放っておく事なんてできないのよ。


「婚姻に関しては、ダリウス陛下の希望だとお聞きしました。もし、私に好意を持っていただいての求婚であるならば、もっと違うやり方があったのではないでしょうか。定期的に互いの国を訪問し合ったり、互いに歩み寄り、もっともっと互いに知り合うべきだったのだと思います」

「・・・・そう、ですね・・・私は正直な所、始めから諦めていたのです。互いに王となる身でもあり・・・貴女はとても美しい。私の様な平凡な容姿の男になど、興味すら向けてもらえないと思っていたのですから」

「・・・・確かに容姿は、相手を知る時に一番始めに得る事ができる情報かもしれません。しかし、どんなに容姿が良くても最終的には相性だと思うのです。性格の良し悪しは、案外身体から滲み出るものですしね。ですから、陛下の第一印象はとても穏やかで温かい方だと思いました」

―――ちゃんと彼が自ら行動を起こし出会っていれば、恐らくは・・・・

「だからこそ本当に、残念だと思いました」


「―――・・・そう、ですね・・・」

彼はそう言ったきり、静かに目を閉じた。


自業自得とはいえ、悔しいだろうなと思う。自分の恋心を利用され、それを踏み躙られただけではなく、結果的に全てを失ってしまったのだから。

そう考えたら、何だか腹立たしくなってくる。

全てはブラッドリー殿下に任せてたけど、私も一言、言いたくなってきたわ。

アルフにもムカつくけど、特にカレン!全然この状況を分かってない。

あれだけ責められて、一時は青白い顔色してたのに、のど元過ぎれば何とかってやつ?我関せずって顔している。

これもアルフの教育の賜物かしらね。


「サットン伯爵令嬢、貴女も病弱という事で周りの気を引くのではなく、知識、教養を身に付け貴族としての務めを果たしていれば、ダリウス陛下の婚約者候補くらいにはなれていたかもしれませ

んのに・・・・怠け癖がその身に染み付いてしまっている今では、到底無理な話ですけれどもね」

嫌味の一つや二つ言っても、罰は当たらないと思うわ。

「王家を謀ったという罪で、これからが大変だと思いますが、精々頑張ってくださいませ」

私の嫌味が通じたのか、醜く顔を歪め立ち上がろうとしたその時、扉が開きミラと騎士達が戻ってきた。


「ご報告いたします。カレン・サットンの部屋からは、ベアトリス殿下の所持するドレスや宝飾品が数点見つかりました。ミラ殿に確認頂いた所、指輪が一点、ピアスが一点行方不明との事。現在、侍女達の部屋を捜索させています」

「そうか、ご苦労だった。必要ならば侍女共の尋問を許可する。皆を連れて行け」

アイザックが指示を出すと、一斉に騎士達が動き次々と拘束していく。

皆が大人しく連れて行かれる中、カレンだけが大騒ぎしていた。

「何するのよっ!私は悪くないわ!悪いのはあの女よ!王女だからって無理矢理押しかけてきて・・・私がダリウス陛下の妻になる筈だったのにっ!」

「止めろ!カレン!・・・・もう、止めてくれ・・・」

兄の悲痛な叫びに何も感じていないのか、カレンは今度は助けを求めた。

「お兄様、助けて!私は何も悪くないわ!全部あの女が悪いのよ!あの女さえこの国に来なければ・・・・ダリウス陛下は、私のモノなのにっ!」


―――パァン・・・


皆が驚き目を見開いた。

アルフがカレンの頬を叩いたのだから。

叩かれたカレンの方が、私達よりも信じられないという顔をしていた。

「・・・・お、兄さ、ま?」

アルフは静かに涙を流し、ただ一言。


「すまない・・・カレン・・・」


その言葉にどれほどの意味が込められているのか・・・誰にも分からない。



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