第七話 お姉ちゃんたちの包容力対決
「みっくんに質問です。お姉ちゃんたちの中で、一番包容力のある子は誰でしょう?」
「は?」
夕飯を食べている最中、突然、由奈お姉ちゃんが変なことを聞いてきたので、しばし首を傾げる。
「ちょっと、由奈お姉ちゃん、いきなり何よ?」
「何よじゃなくて、重大な事じゃない。みっくん、最近、静子ちゃんや菜月ちゃんとばかり遊んでて、つまんないだもん」
「つまんないも何もねー。由奈姉、最近、部活で忙しいみたいだし」
「部活は忙しくても、みっくんとの時間がないのは寂しいの! んもう、ほら、お姉ちゃんの隣に来て、みっくん!」
「そ、そんなこと言われても……」
由奈お姉ちゃんと最近、遊んでないってそうかなあ……。
言われてみると、由奈お姉ちゃんは最近、帰りが遅い気はするけど、部活もあるし、家事や勉強も大変みたいだから、僕もあまり邪魔はしたくない。
「ねーねー、お姉ちゃんと一緒でそんなに楽しくない?」
「全然、そんな事ないよ」
「そうよねー。じゃあ、もっと家でも学校でも甘えてほしいなあ、なんて……」
上目づかいで、僕にそう訴えてきたが、由奈お姉ちゃんは高等部でしかも三年生なので、正直、同じ学園でも会う機会はあまりない。
普通に生活していたら、由奈お姉ちゃんに甘えに行くこともないし、何より高等部の校舎まで行くのは恥ずかしいので、そんなことを言われても困ってしまう。
「ほら、由奈お姉ちゃんもみっくんが困ってるんだから、変なことを言わないの」
「変な事じゃなくてさー……最近、みっくん成分が足りないのよね。主に学校で」
「何、それ訳わかんないんだけど。てか、私だって、みっくんと学校ではあんまり会わないなあ。ねえ、たまにはウチの教室に遊びに来なよー」
「そ、そんな事を言われても……」
隣に座っていた静子お姉ちゃんも僕の頭を抱き寄せて、そう誘ってくるが、そんなことを言われても本当に困る。
「静子お姉ちゃんと由奈お姉ちゃんは、よく一緒にお昼食べてるんでしょう?」
「まあ、週に一回くらいかな。普段はクラスの友達と食べているよ。お互いの都合が付いた時は一緒してるって感じかな」
「同じ高等部だからねー、静子ちゃんとは。あーん、みっくんも今すぐ、高等部に進級してくれない? そうすれば、半年くらいはお姉ちゃんと一緒出来るよ」
「無茶言わないで……」
「はあ……バッカみたい」
何て他愛もない話をしながら、夕飯は過ぎてしまい、今日はそのまま一日が終わってしまった。
翌日――
「はーい、今日はここまで」
一日の授業がようやく終わり、教室に喧騒が戻る。
今日は早く帰ろうかな……いや、その前に図書室に……。
「ん?」
帰ろうか図書室に借りた本を早く返しに行こうか考えていた所で、スマホの着信が鳴り、手に取ってみる。
「由奈お姉ちゃんからだ……何々……」
『今すぐ部室に集合ね♪』
「部室……茶道部の部室かな?」
由奈お姉ちゃんが所属していて、部長をしている茶道部の部室に呼び出されてしまい、すぐに向かう。
たまに呼び出されることがあるので、また何か用でも頼まれるのかと思いながら、部室へと向かっていったのであった。
トントン。
「失礼します……」
「あらー、みっくん、いらっしゃい。よく来たわね」
「由奈お姉ちゃん。あと、静子お姉ちゃんと菜月お姉ちゃんも」
「ヤッホー」
「はあ……」
部室に行くと、由奈お姉ちゃんだけじゃなく、静子お姉ちゃんや菜月お姉ちゃんもおり、僕の姿を見るや、静子お姉ちゃんも手を振る。
静子お姉ちゃんはともかく、菜月お姉ちゃんが居るのは珍しい。
「菜月お姉ちゃん、部活は?」
「今日は自主練よ。顧問の先生が休みでさー。だから、後で行くわ」
菜月お姉ちゃんが溜息を付きながらそう言うが、自主練だったのか。
真面目な菜月お姉ちゃんが部活をサボるのは有り得ないので、どうしたのかと思ったが、自主練で参加は自由ってことか。
「それで、どうしたの?」
「ふふん、えい♪」
「う、うわあっ! な、何急に?」
一体、何の用事なのかと由奈お姉ちゃんに聞くと、由奈お姉ちゃんはいきなり制服を脱ぎ始めたので、目を背ける。
「ちょっと、何を……え?」
「ふふん、どう、似合うー?」
「へへ、何か恥ずかしいなあ」
制服を脱ぐと、由奈お姉ちゃんと静子お姉ちゃんはいつのまにか、フリルの付いたメイド服っぽいのに、着替えており、くるりと体を回して、スカートを上げてそう聞いてくる。
「ど、どうしたのその衣装?」
「演劇部の友達から借りたの。似合う?」
「あー、はいはい、似合うわ、似合う」
「菜月ちゃんには聞いてないわよ。みっくんに聞いてるの?」
「えっと、うん……でも、どうして?」
「何故いきなりメイド服なんかに着替えたのかと首を傾げると、
「静子ちゃんと私、姉としてどっちが包容力があるか、勝負よ。ねー、私よねー」
「は、はうう……」
いきなり変なことを由奈お姉ちゃんが言うと、僕を胸元に抱き寄せて、変なことを聞いてくる。
「ご主人様ー、何なりとご命令をお申し付けくださいませー」
「そうそう。今日はみっくんのメイドさんよ。ほら、早く命令してー」
「うう……」
僕を椅子に座らせると、静子お姉ちゃんと由奈お姉ちゃんが両脇から僕の腕にしがみつき、命令をしろとせがんでくる。
相変わらず無茶を言う二人に、菜月お姉ちゃんも呆れて溜息を付いていたが、止める気もないのか、そのまま黙って見ていた。
「んじゃ、膝枕対決ねー。はい、どうぞ、ご主人様」
「あうう……」
シートを床に敷き、由奈お姉ちゃんが僕に膝枕をして頭を撫でる。
柔らかくて寝心地が良いなーなんて思っていたが、やっぱり恥ずかしい……誰か来たら、どうするつもりなんだろう?
「ほら、次は私ー。光毅くん、静子お姉さんの膝枕はどうかなー?」
由奈お姉ちゃんの膝枕に三分ほど寝ていた後、静子お姉ちゃんが僕を抱き寄せて、強引に膝枕させる。
正直、どっちが良いかなんてわからなかったが、二人ともふざけているのかなあ……。
「みっくん、恥ずかしがってるじゃない」
「そうよ。でも、そんな中でもどっちの膝枕が寝心地良いかって聞いてるのよ。こんな逆境でも、寝心地の良い膝枕を提供できる方が勝ちってことで」
「む、無茶苦茶すぎ……」
菜月お姉ちゃんも由奈お姉ちゃんの言い分に言葉を失い、頭を抱える。
そんなことを言われても甲乙など付けられず困っていたが、
「ほら、どっちー?」
「うう……由奈お姉ちゃんかな……」
「きゃーー、ありがとう。やっぱり、みっくん大好き♡」
どちらかと言えば、由奈お姉ちゃんのほうが柔らかかったのでそう言うと、由奈お姉ちゃんは大喜びして僕に抱き着く。