第二十三話 文化祭で菜月お姉ちゃんを何とか誘う
「みっくーん」
「あ、由奈お姉ちゃんに静子お姉ちゃん」
「ねえ、一緒に帰らない?」
文化祭の一日目も無事終了し、下校途中に由奈や静子に声をかけられる。
「文化祭楽しかったわねえ。って、まだ一日あるんだけど、みっくんはどうだった?」
「うん、楽しかったよ」
「だよねー。えへへ、ねえ、明日も一緒に回ろうよー。光毅君と、演劇部の劇を見てみたいなー。友達にも誘われているし」
「え、えっと……うん、良いよ」
静子に後ろから抱き付かれ、光毅も周囲を伺いながらも、彼女の誘いを受ける。
それを見て、由奈も嫉妬したのか頬を膨らませ、
「あー、私も一緒したい。ね、明日はみっくんと屋台回りたいなー。良いでしょう、お姉ちゃんが奢るから」
「い、行くから、くっつかないでえ……」
通学路であるにも関わらず、由奈も静子も自分に平気でベタベタしてきたので、流石に恥ずかしくなってしまい、顔を真っ赤にっする。
「そういえば、菜月ちゃんは?」
「まだ委員会の仕事があるみたいよ。ちょっと頑張り過ぎじゃないかしらねえ。流石に心配になってきちゃった」
「そうなんだ……」
文化祭の実行委員会の仕事が忙しいのか、当日も夜遅くまで、学校に残って委員会の仕事をしており、何だか露骨に避けられている気がして、光毅も寂しく思い始めてきた。
「まあ、好きでやってるんだし、良いんじゃない。文化祭が終われば、嫌でも時間が出来るわよ」
「そうよ。だから、そんなに落ち込まないで、みっくん」
「べ、別に落ち込んでいる訳じゃ……」
「嘘。菜月ちゃんと最近、会えなくて、明らかに落ち込んでいるじゃない」
「うう……」
実行委員会の仕事があるから、仕方ないと言い聞かせていた光毅であったが、それでも菜月に避けられていたと感じていたので、文化祭が終わっても、同じ様に疎遠のままになってしまうのではないかと心配になっていた。
「もっと、大人になりなさいなんて、菜月ちゃんも無茶言うわねー。みっくんは子供のままが可愛いのに」
「こ、子供のままなんて嫌だよお」
「例えばの話よ。でも、あんまり大人になっても嫌なのは事実かなー」
静子が、光毅の頭を撫でながら、頬を膨らませていた光毅を宥めるが、ずっと子供のままでいてほしいというのも無理とはわかりつつも、本音でもあった。
「みっくんは、もっと菜月ちゃんに甘えたいんだよねー?」
「そ、そういう訳じゃないよ」
「本当? 相手にしてくれないから、拗ねているんでしょう」
「う……別に拗ねては……」
由奈にそう言われて、光毅も顔を赤くし視線を逸らして、口ごもる。
もう中学二年生にもなって、実の姉である菜月にベタベタしすぎるのは恥ずかしいというのは、彼も理解はしており、菜月の突き放すような態度も理解は出来た。
だからこそ、光毅も菜月にどう接すれば良いのかわからず、答えが出ずに悩んでいたのであった。
「あはは、まあ深刻に考える必要はないじゃない。光毅君の好きにしたら良いと思うよ」
「僕の好きに?」
「うん。甘えたいと思うなら、素直にそう言っちゃえばいいのよ。菜月ちゃんも、本音では光毅君のこと、頭ナデナデしたいって思ってるんだから」
「ナデナデって……」
「まあ、強引に行っても良いんじゃない。菜月ちゃん、案外押しに弱そうだし」
別にそんな事をしてもらたい訳ではなかったが、もう少し普通に接したいと思っていたので、菜月に少し強引に行っても良いんじゃないかという、由奈の提案に光毅も少し考え込む。
あまり、引いた態度で接していては、このままズルズルと距離が開いたままになってしまうと考えたので、彼女の提案を聞いて、少し試してみようと思ったのであった。
「ただいま」
「あ、菜月お姉ちゃん、おかえり。遅かったね」
「え? うん、ちょっと色々と雑用押し付けられて」
菜月が家に帰ると、光毅が珍しく自分を出迎えてきたので、ビックリして目を見開く。
「あの、菜月お姉ちゃん……」
「何?」
「えっと、明日は暇?」
「暇な訳ないじゃない。明日が文化祭の本番なんだから、遊んでる暇なんかないわよ」
「そ、そう……えっと、良かった、一緒に文化祭を回りたいと思ったんだけど」
あっさりと、菜月に断られてしまい、光毅もガックリと来てしまったが、菜月も溜息をつきながら、
「もう子供じゃないんだから、光毅も友達と一緒に回りなさい。私だって、弟と二人で回るなんて、恥ずかしいんだから」
「そ、そんな……」
自分と一緒に文化祭を回るのは恥ずかしいとハッキリと言われてしまい、光毅も流石にショックを受けるが、菜月は素っ気ない態度をあくまでも続け、自室へと戻っていく。
「あらあら、良いじゃない、少しくらい。みっくんが可哀相よ」
「由奈お姉ちゃん。可哀相も何も、事実なんだから仕方ないじゃない。私も子供じゃないんだし。由奈お姉ちゃんが光毅を連れて行けば良いじゃない」
「私が行っても良いけど、私も友達との約束があるから、ちょっと明日は都合が悪いのよねー」
由奈が見かねたのか、光毅に助け舟を出すと、菜月もちょっと困った顔をし、
「じゃあ、静子お姉ちゃんでも良いじゃない。何で私が……」
「みっくんが菜月ちゃんと回りたいって言ってるんだから、そうしてあげなさいよ。いいじゃない、みっくんと一緒に行ったって」
「う……」
珍しく、由奈がしつこく食い下がってきたので、菜月も少し考え込む。
しかし、明日は実際に忙しいので、
「明日は忙しいの! 後夜祭の準備もしないといけないんだし、友達でも誘いなさいよね」
「あ……」
と、二人から逃げるように、菜月はそう言って、二階にある自室に駆け込む。
やっぱりダメだったかと、光毅も溜息を付いたが、由奈は彼の肩をポンと叩き、
「気を落とすことはないわよ。文化祭は午後三時半まであるんだから、その間、回る時間はあるわ」
「そ、そうかな……」
由奈にそうは言われても、光毅も明日は自分のクラスの手伝いをしないといけないし、菜月のスケジュールもわからなければ、誘うのは現実的には難しかった。
「まあ、明日になれば何とかなるわよ。菜月ちゃんが相手してくれなかったら、私が一緒に回ってあげるから。ね?」
「うん……」
無理に誘っても、却って機嫌を損ねてしまうと言い聞かせて、今日は諦める事にする。
しかし、明日はどうしても、菜月と一緒に回りたいという気持ちは変わらず、
翌日――
「光毅君、そろそろ休憩入って良いわよ」
「あ、うん」
文化祭の二日目が始まり、光毅もようやく休憩の時間になったので、教室を出て、一息つく。
一般公開の日だったので、昨日とは比べ物にならないくらい、人が多く来ていたので、光毅も忙しかったが、ようやく暇な時間が出来たので、早速菜月を探しに行った。
「えっと、菜月おねえちゃんは……いない」
菜月のクラスに行くが、彼女の姿はなく、学校中を特に当てもなく歩き回るしかなかった。
「うーん、何処に居るんだろう……あっ!」
「あ……」
廊下をしばらく歩いていると、バッタリと菜月に出くわす。
これはチャンスだと思い、光毅が
「あのっ! 今、忙しいの?」
「え? い、今はちょっと休憩中っていうか……」
「じゃあ、一緒に……行こう」
「あ、ちょっとっ!」
突然、光毅に出くわして、困惑していた菜月の手を強引に光毅が引いていく。
ほんの少しでも構わないから、菜月と一緒に回りたいと言う一心で、光毅は彼女の手を引いていったのであった。




