第ニ話 学園でもお姉ちゃんたちに甘やかされる
キーンコーンカーンコーン……
「みっくん、いたいた。おーい」
昼休みになり、お弁当を食べる前にトイレに行き、教室に戻る途中、由奈お姉ちゃんに声をかけられる。
「どうしたの、由奈お姉ちゃん?」
「へへ、よかったら、お姉ちゃんと一緒にお昼食べない? ちょうどいつもお昼食べてる友達が休んでて」
「うん」
わざわざ中等部の校舎まで来たから、何事かと思えば、由奈お姉ちゃんにお昼に誘われてしまい、教室でお弁当を取りに行って、お姉ちゃんに付いていく。
「はい、ここに入って。あ、静子ちゃん」
「ヤッホー、由奈お姉ちゃんに光穀君も」
由奈お姉ちゃんが所属している部活の部室に案内されると、静子お姉ちゃんも既に来ており、窓際の椅子に座ってパックジュースを持ちながら、僕達に手を振ってきた。
「菜月ちゃんは?」
「今日は友達と食べるって。弟と一緒なんて恥ずかしいって言ってたけど、本当は一緒したいくせにねー」
そう言いながら、由奈お姉ちゃんは机とを並べて、昼食の準備をし、お弁当を開く。
菜月お姉ちゃんは居ないと聞いて、ホッとしたのと同時に、少し残念な気持ちにもなりながら、椅子に座ってお弁当とお茶をカバンから取り出した。
「ふふん、はい、みっくん、あーん♡」
「あの、恥ずかしいし……」
「なんでよ、今、部室には私達しか居ないよ?」
お弁当を広げてすぐに由奈お姉ちゃんは、タコさんウインナーをあーんしてたべさせようとする。
誰も見てないとかそういう問題ではなく、お姉ちゃんにこんな事をされるのが恥ずかしいんだけど……。
「ずるいよ、由奈姉。ほら、私のも食べなさい。光毅君は、ただでさえ、小さいんだから、もっと食べないと大きくなれないぞ」
「はううう」
由奈お姉ちゃんに対抗するように、静子お姉ちゃんも椅子を密着させてきて、僕にあーんして食べさせようとする。
家でも毎日、こんな感じなのに、学校でまでこれじゃ気が休まらないよ……。
「食べないの?」
「う、うん。パク……」
体を密着されて無理に引き離すことも悪いと思ったので、仕方なく、お姉ちゃんたちが差し出したおかずを食べる。
美味しいと思うけど、恥ずかしくて味がわからないよ。
「んもう、やっぱり可愛いなあ、みっくんは。こんな弟出来て、うれしいよ、お姉ちゃん」
「ありがとう。僕も由奈お姉ちゃんがいて嬉しいよ」
「きゃーー、超うれしい。今の聞いた、静子ちゃん?」
「うんうん。流石、天然女殺し。こりゃ、将来が恐ろしいわね」
素直にそう答えると、由奈お姉ちゃんは大喜びし、僕を抱き寄せて、顔を胸元に押し付ける。
うう、柔らかいけど、苦しい……。
「ふふ、じゃあお昼食べたら、お姉ちゃんが、秘密の個人授業してあげようか♪」
「個人授業?」
「うん。保健体育の授業を……」
「はいはい、そこまでー。私が見ていること、忘れないでね」
「きゃん、もう」
由奈お姉ちゃんが頬を赤らめて、そう迫ってくると、静子お姉ちゃんが咄嗟に引き離す。
「邪魔しないでよー」
「流石にねえ。あんまお痛が過ぎると、菜月ちゃんに怒られちゃうし」
「大丈夫よ、今は居ないんだし。こんなことしても、平気だもんね。ちゅっ♡」
僕に顔を近づけて、由奈お姉ちゃんの唇が頬に触れた瞬間、部室のドアが開き、
ガラっ!
「ああ、やっぱりここに居たあ! って、何やってるのよ、由奈お姉ちゃん!」
「あ」
教室で食べていた菜月お姉ちゃんが、何故か部室に入ってきて、血相を変えて駆けつける。
「もう、何やってるのよ、由奈お姉ちゃん! 学校でこんなはしたない事!」
「むう、別に良いじゃない。てか、菜月ちゃん、どうしてここに?」
「ちょっとバレー部の部室に用事があって、茶道部の部室を通りかかったら、話し声が聞こえたから、もしかしてと思って……キイイ、学校でもみっくんにいやらしいことしないでよね。静子お姉ちゃんもニヤニヤしながら見てないで、止めてよ」
「はいはい。じゃあ、そろそろ私も教室に戻るね。んじゃねー、光毅くん。ちゅっ♡」
「はう」
「なっ!」
黙って見ていた静子姉ちゃんにも、菜月お姉ちゃんが注意すると、静子お姉ちゃんも僕の頬にキスをして、部室から足早に去る。
「くす、静子ちゃんも大胆ねー、珍しい」
「ああ、もうっ! ほら、みっくんもボーっとしてないで、早く食べて教室戻る! 昼休み終わるよ!」
「う、うん」
呆然としていると、顔を真っ赤にした菜月お姉ちゃんに急かされて、慌てて弁当の残りを食べる。
トホホ……また、菜月お姉ちゃんを怒らせちゃったよ。
放課後――
「あ、みっくん」
「菜月お姉ちゃん」
昇降口を出ると、珍しく菜月お姉ちゃんにバッタリ会う。
「もう帰り?」
「うん。部活休みになって。一緒に帰る?」
「うん」
菜月お姉ちゃんの部活が休みになったようで、帰りが早くなり、しばらくぶりに一緒に下校する。
「静子お姉ちゃんと由奈お姉ちゃんは?」
「由奈お姉ちゃんは部活で、静子お姉ちゃんは友達と約束あるって」
「ふーん」
二人とも忙しいんだ。
「あのさ、昼休みの事、怒ってる?」
「え? 何で?」
「邪魔しちゃったみたいだし……」
そのことか。
「ううん、怒ってないよ」
「そ、そう。ならよかった。二人ともキレイだからって、みっくんデレデレしてたからつい」
そんなにデレデレしていたかな……むしろ、菜月お姉ちゃんを怒らせてないか心配ったんだけど。
「二人と学校で仲良くするのは悪くないと思うの。でも、その……ふ、分別はつけなさい」
「う、うん」
「わかればよろしい。くす、ほら、行こう。帰ったら、夕飯の買い出し行かないとね」
そう頷くと、頬を赤くして菜月お姉ちゃんは僕の手を握り、家へと急ぐ。
色々あった気がするが、今日も平和に終わって安堵したのであった