第十九話 お姉ちゃんとの将来の事で悩み始める
「えっと、由奈お姉ちゃん。これで良い?」
「どれどれ……うん、全部正解よ。偉いわ、みっくん。流石、私の弟」
「えへへ……由奈お姉ちゃんが教えてくれたからだよ」
「やーん、可愛いこと言ってくれて。みっくんの呑み込みが早いからよ」
夏休みも終盤を迎え、光毅は由奈に宿題を見てもらい、教えてもらった所は全部正解となり、由奈は彼の頭を撫でて褒めちぎる。
これで、宿題はすべて終え、光毅も一安心となったが、由奈はまだ彼に構ってもらいたかったのか、
「ねえ、みっくん。お姉ちゃんと一緒に遊ぼうか」
「え? でも、由奈お姉ちゃんも宿題とか受験勉強は……」
「そんなの後でも良いの。てか、宿題はとっくに終わらせたわよ。私もたまにはみっくんと気分転換したいし。ね、良いでしょう?」
「うん、いいよ」
由奈はもう受験の大事な時期だというのはわかっていたので、光毅もあまり自分に付き合わせるのは悪いとは思っていたが、由奈に促されて、姉の誘いに乗る。
「じゃあ、何処に行こうか? みっくん、何処か行きたい所とかある?」
「うーん……よくわからない」
「そう。みっくんはもうちょっとワガママ言っても良いんだけどなあ」
「ワガママって言われても……」
光毅の頭を由奈は優しくなでていくが、何だか露骨に子供扱いされているのが、光毅も段々と恥ずかしくなってきていった。
(菜月おねえちゃんは僕に大人になってほしくて……)
下の名前で呼び捨てにし、姉貴と呼べと言って、男らしくなって欲しいのだと徐々に菜月の思いを理解するようになり、光毅も彼女の思いに答えるべきかどうかまた悩み始める。
「んーー、どうしたのみっくん?」
「由奈お姉ちゃん。僕、そんなに子供っぽいかな?」
「うーん、子供っぽいと言えば子供っぽいかなあ。そんな所も可愛いから好きなんだけどね」
「はううう……」
今更過ぎる質問であったが、由奈もあっさりと肯定し、光毅の顔を胸に埋めて、ハグをしていく由奈。
中学生にもなって、姉にこんな事をされるのはやっぱりおかしいし、自分もいつまでもこうではいけないと強く思い始めていったが、
「良いのよ、みっくんは、みっくんで。別に子供っぽくたって良いじゃない。菜月ちゃんの言う事を少し申告に考え過ぎよ」
「し、深刻に考えている訳じゃ……でも、僕、ずっとこうじゃおかしいよね?」
「おかしいと思うなら、おかしいんじゃない? 私は良いと思っているんだけどなあ」
由奈はあくまでも、今の光毅の年齢以上に幼い所が可愛くて好きなので、今のままで居て欲しいと言う気持ちが強く、光毅の自立を好ましく思ってはいなかった。
しかし、大人になっても、こんな事ではいけないのは、由奈も静子もわかっているため、だからこそまだ幼さが残る年齢の内に可愛がってあげたかったのであった。
「ふふ、みっくんも男らしくなりたい?」
「う、うん」
「でも、男らしいみっくんとかちょっと違うしなあ。まあ、お姉ちゃんとしてはみっくんは今のままが良いと思ってるんだけど」
「そ、そんなの……」
由奈に頭を撫でられながらそう言われ、やっぱり恥ずかしかったのか、光毅も顔を真っ赤にして頬を膨らませる。
もう彼も中学生で、同級生からも女の子みたいとか可愛いとかよく言われていたが、それだけ自分が姉以外からも子供っぽく見られているのだろうと思い、やっぱりこのままではいけないという気持ちが強くなっていった。
「じゃあ、一緒に遊びに行こうか。今日は静子ちゃんのバイト先にでも行こうか。ちょうど、クーポンも貰っているしさ」
「うん」
由奈に連れられて、静子のアルバイト先のファミレスに一緒に向かう。
夏休みは静子にとっても稼ぎ時なので、特に集中してアルバイトを入れていたのであった。
「いらっしゃいませー」
「やっほー、来たわよ」
「あ、光毅君とお姉ちゃん。来たんだ」
静子がバイトしているファミレスに向かうと、ちょうど静子が二人を出迎え、彼女に案内されて、窓際の席に向かう。
「くす、みっくんも来てくれたんだ」
「う、うん……」
案内された席に座るや、静子は光毅の頭を撫で、周囲の目を気にして、光毅も顔を赤くする。
「大丈夫よ、今、空いてるじゃない」
「うん。平日だしねー。ま、もうすぐ閉店だしー」
「ん? 閉店って、まだ午後三時じゃない」
「ああ、そうじゃなくてさ。この店自体、来月に閉店になっちゃうのよ。てか、店の入り口にポスター貼ってあったけど、見てなかった?」
「え? 閉店になっちゃうんだあ。ここ、よく利用していたんだけどなあ」
あっけらかんと静子がバイトしているこのファミレスが来月になくなってしまう事を告げ、光毅もちょっと驚く。
常連というほど、足繁く通っていた訳ではなかったが、小さな頃からあったお店だったので、なくなってしまうと聞かれると聞かされ、ちょっと寂しい気持ちになっていった。
「まあ、しょうがないよ。最近、似たようなファミレス増えてきたし」
「へえ、残念ねー。静子ちゃん、どうするの?」
「考え中かなあ。まあ、閉店までは出来る限りバイト入れて頑張るよ。まだ一年くらいだけど、ついてないかなーって」
「くす、頑張ってね。じゃあ、何か奢ってくれない?」
「奢りかあ……あんま高い物は奢れないけど、パフェはサービスしておくね。みっくんは、チョコパフェで良いよね?」
「ありがとう」
何だか悪い気はしたが、静子の好意をありがたく受け取り、他にドリンクバーやポテトなどを頼む。
「ふーん、ここ潰れちゃうんだ。何だか寂しいわね」
「うん。静子お姉ちゃん大丈夫かな?」
「そんなに深刻に考えることはないわよ。あの子なら、また新しいバイト先をすぐ見つけられるわ。菜月ちゃん、高校生になったら、ここでバイトしたいとか言っていたんだけど、残念だなあ」
「え? そうだったの?」
「うん、知らなかったの?」
菜月が静子のファミレスでバイトしたいという話は初めて聞いたので、光毅もビックリしてしまう。
確かにこのお店は制服が可愛いということで評判ではあったのだが、真面目な菜月がここでアルバイトをしたいと言うのは少し意外な気がしたのであった。
「私もさ、二年の冬休みに神社の巫女のバイトしたんだけど、受験が無事に終わったら、またやろうかなあ」
「菜月お姉ちゃんもここでバイトしたかったんだ」
「そうよ。聞いてなかったんだ。前にチラっと言っただけどね」
「うん」
店内を回っているウェイトレスさんを見て、菜月が同じ制服を着ている姿を光毅もちょっと想像してみる。
意外に似合っている気がして、菜月にも合っているのではないかと思われたが、自分も高校生になったらアルバイトをして、お金を得るようになり、そうすれば大人になれるのかなと思うようになっていった。
「みっくん、将来の事で悩んでいるんだ?」
「そう言う訳じゃないけど……」
「ふーん、じゃあみっくんが高校生になったら、私と同じアルバイトする?」
「は、恥ずかしいよ、そんなの……」
「くす、私は良いと思うけどなあ」
なんて由奈に言われたが、それも悪くないという思いもあり、光穀も由奈と一緒にバイトする姿を想像していったのであった。




