美貌の少年
放課後。
授業からの開放感を感じながら真生と映画館に向かっていた俺は苛ついていた。
「もう…機嫌直してよ」
真生が苦笑しながら言う。
しかし、俺の苛立ちは収まらない。
こんな事は日常茶飯事なのだが、それでも許せないものは許せないのだ。不感症といっても、譲れないものくらいはある。
「あいつらの目は腐ってるのか?」
「違うよ。瑠偉って本当に綺麗な顔してるもん!」
真生が何故か自信満々にそう宣言する。
「綺麗」という単語を合図に、俺の記憶はまたしても、あの忌々しい出来事を思い出していた。
「ねぇ?君、可愛いね」
「学生?」
俺と真生はふいにかけられた声に振り向く。
男連れの女の声をかけるとは……こいつらのような人間をKYと呼ぶのだろう。
しかし、それだけならまだ良かった。
あろうことか、そいつらは俺の腰に腕を回して耳元で囁いたのだ。
「どっかで遊ばない?俺達奢るからさ」
「はっ?」
俺は一瞬、訳が分からずにポカンとした。
俺は今、学生服を着ている。もちろん男子のだ。
一筋の汗が背筋を伝う。
もしかして…こいつら……ホ―
「それにしてもさ、何で君男子の制服なんて着てるわけ?」
「・・・・・・」
こいつらは馬鹿か?
男子なんだから男子の制服着るに決まっている。
「瑠偉〜!」
制服の裾が引っ張られるのを感じて振り向くと、真生が頬を膨らませていた。
「すぐ行く」
「ちょっと待ってよ!」
俺が馬鹿な男達の横をすり抜けようとすると、一人が俺の腕を掴んだ。
「離せよ」
「まぁまぁ、君、瑠偉ちゃんって言うんだ?可愛いね」
「何言って―」
あろうことかその男は俺にキスしようと顔を寄せてきた。
俺が呆然としていると、キスしようとした男がものすごい勢いで吹き飛んだ。
「…あ、真生」
「あんた達、真生にキスしようなんて調子に乗りすぎじゃない?」
「「ひっ!!」」
そこには、いつもの笑顔ではなく、悪鬼のような冷笑を浮かべた真生がいた。
男二人は殺気をぶつけられ、全身を震えさせている。
「あんた達に教えてあげるわ。今、キスしようとした瑠偉は男よ。おーとーこー」
そんな当たり前の事を真生は喜悦を浮かべながら言った。
しかし、その言葉には絶大な効果があったようで、男達は身体を硬直させた。
「う、嘘だ!」
「あんなに可愛いのに!?」
「そうね。瑠偉は可愛いは。もう殺人的に!ああ〜」
真生の目は完全に危ない人の目だった。
「身長165cm、少女のような華奢な身体、儚げで可憐な容貌、透き通るような声、はぁはぁ、これで男なんて詐欺だわ……いや、むしろ男だからいいのかしら」
そんな事をぼそぼそと呟く真生にさすがの俺も引いた。
そして、事情がようやく理解できた。
つまり、こいつらは俺のことを女だと勘違いしていたらしい。
俺のように男らしい俺を女と間違えるなんてこいつらはどこを見ているのだろうか?
それと同時に苛立ちが沸き上がる。
俺にとって「可愛い」は禁句だ。
こいつらには現実を知ってもらわなきゃならない。
「お前らには教育が必要みたいだな」
俺がそう言いながら近づくと―
「ああ、やっぱり可愛いな…この際男でも…」
「教育してください!姫!」
「死ね!」
容赦は必要ないみたいだ。
そんな訳で今にいたる訳だ。
ちなみに、真生に関してはいくら注意しても「可愛い」発現を撤回しないので諦めている。
そうこうしている内に、映画館に着いた。
「あ〜あれあれ!」
真生が看板の一つを指さす。
そこには、悪魔の絵と映画のタイトルが描いてあった。
『―原罪の悪魔』
夏休み前のテスト関係で、更新が送れてしまい、申し訳ございませんでした。これからはもう少し早く更新できるように、頑張ります!
ご意見・ご感想、どしどしお待ちしております!