8 海の支配者の系譜
なんとか予定日に間に合いました。
8
エリスたちがリオグランデ州を訪れていた日の昼間、パンゲーアでは公務の合間に休憩していた女帝ノクスと第1皇女リリスがおしゃべりをしていた。
「母上、私もエリスお姉さまのようなかわいい妹が欲しいです…」
「私だって、エリスのようなかわいい子をたくさん産みたいけど…。
私の母上がエリスを産んだ時は、母上もエリス自身も様々な代償を払ったのよ。
それに、エリスはただ愛でられるだけの存在ではなく、対人間の戦力として生まれた。
私やあなたは女帝として陸上を統べ、イルミナの後を継いだヴェパルは海を支配するという役割がある。
イルミナはヴェパルにほとんどすべてを譲った後の居場所をうまく確保できていたけど、イルミナの前任者…母上の妹はどうなったか…」
先帝リリスの妹タラッサは、イルミナに海の支配権を譲った後も相談役のような立場でアビュススに留まっていたが、イルミナも彼女の侍女たちも非常に有能だったため、数年も経つとタラッサに相談することはなくなった。
先帝リリスとタラッサの母だった、リリスの前の女帝フラウスも、フラウスから帝位を譲られたリリスも、人間との戦争に忙殺されてタラッサのことまで気に掛けることができなかった。
タラッサは結局誰にも相談せず、かつて彼女が使い、イルミナに譲った専用武装"レヴィアタン"の"糧"となる形でこの世から姿を消した。
以後、ヴェルトヴァイト帝国でタラッサについて語ることは憚られるようになった。
しかし、ティグリ大陸征服戦の序盤においてイルミナが深淵魔象"ヴァッサーヴェルト"を発動させた際に用いた"魔象玉"は、製作段階でレヴィアタンの機能も使用したため、対になる玉のうちイルミナが使う方はメイが"タラッサ・クーゲル"と命名。
イルミナはメイがあえてその名にした意味を理解し、タラッサから受け継いだ力で見事に遠隔でのヴァッサーヴェルト発動を成功させた。
そのタラッサ・クーゲルはイルミナがアビュススの主だった間は大切に保管していたが、今はレヴィアタンなどとともにヴェパルへ譲られている。
また、イルミナはヴェパルに、タラッサと同じ結末を迎えないため、第2皇女であるうちに"海の支配者"でなくなった後の居場所を作っておくよう言い聞かせている。
タラッサ自身は非業の最期を遂げたが、彼女の"犠牲"は無駄にならなかった。
「人間との戦争が終わり、サンゴ帝国とも友好関係を維持していて平和が保たれている現状では、皇位継承者と海の支配者の後継以外に皇族を増やすべきではないの。
もし帝国がエリスのような子を欲するとしたら、その子はエリスの役割を引き継ぐ存在であるべきよ。
そして、それはエリスを抜きにして決めることはできないわ。
なぜなら、エリスは女神レア様と深いつながりがあるから。
私はエリスが望まなければ3人目を産むつもりはないし、あなたも帝位を継いだらそのつもりでいてほしい。
もちろん、この世界に不測の事態が生じた場合はその限りではないけど、意図的にそのような事態を引き起こさないでね」
「はい、母上」
「エリスのような皇族を増やすことはできないけど、皇族以外でエリスのようなかわいい子を見つけて侍女にするなら構わないわよ。
いないなら、エリスの専属侍女に頼んでかわいい人形を創ってもらうという手もあるわ」
「それなら、エリスお姉さまを呼ぶ口実もできますね…えへへ…」
妖しく微笑んだリリスは早速、かわいい人形を創ってもらうためにエリスを呼ぶことにした。
かわいい姪に迫られて、エリスはリリスからの人形製作依頼を承諾した。
ただし、エリスそっくりの人形を創ってほしいという要望だけはいろいろと問題があるため拒んだ。
エリスが専属侍女4人とともに数日かけて創った人形をリリスに引き渡すと、リリスはとても喜び、"ザーラ"という名をつけて侍女にした。
ザーラの容姿は、かつてセントメアリで城主代理を務め、人間のまま天寿を全うした元王女に似ていた。
ヴェルトヴァイト帝国の女帝の系譜は
[先々代]フラウス→[先代]リリス→[当代]ノクス→[次代]リリス
海の支配権を持つ者の系譜は
[先々代]タラッサ→[先代]イルミナ→[当代]ヴェパル→[次代]?
となります。
なお、9話の投稿は3月10日頃予定としておきますが、繰り下がる可能性は少なくないです。




