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空のエリス  作者: 長部円
第1部 1章
9/98

9 帝都散策

9


アンネがエリスのドリッテになってから数日後、エリスは帝都のうちパンゲーアに近い地区をお忍びで散策したいとリリスに訴え、明日ならいいと許可された。


エリスとメイが明日着ていく服装は帝国の"魔女(ヘクセ)"が伝統的に着用している、黒を基調としたものを参考にメイが創る。

なお、ヴェルトヴァイト帝国の皇室はディアボロスの様々な種族と混じりあっているが、ルーツは魔女で、数代前からは純粋な魔女同様、男と交わらずに子を成し、代を重ねている。

ただし、皇室のルーツであろうと、魔女たちへの処遇に他の種族との差はないと言っていい。


「エリス様、服と帽子につけるリボンは何色がいいですか?」

「そうね…私が大好きな、メイの瞳の色がいいわ…」

「わ、わかりました…緋色ですね…」


しばらくして、メイはリボンの色以外お揃いの服2着と帽子2個を創り出した。

エリスの分は彼女の希望通り、緋色のリボンがついている。

早速服を着替え、帽子をかぶってみたエリスに、メイは見惚れた。

「どうかしら…と聞くまでもないわね…」

「ふぁい…きかれるまでもなく…まじょっこえりすさまはかわいいれす…」

かわいい魔女服姿のエリスが至近距離に迫ってくると、メイの中でまた何かが壊れ、彼女は気絶した。


「今度はメイの魔女服姿、見せて」

メイが復活すると、エリスはメイにも魔女服に着替えるよう指示した。

メイの分には彼女の髪色と同じ白いリボンがついており、位置はエリスのものと同じ。

帽子をかぶる際に邪魔になるポニーテールを解いたため、長くてきれいな白髪がメイの背後に広がっている。


「あぁ…魔女っ娘メイかわいい…」

「えへへ…」

メイのように気絶こそしなかったものの、エリスは魔女服姿のメイを見てだらしない顔をした。

メイはエリスからの"かわいい"で笑顔になり、その笑顔がさらにエリスの"メイへの愛"を深める。

我慢できなくなったエリスはメイに抱きついた。

その勢いで2人の帽子がぶつかり、わずかに背が高いエリスのかぶっていた帽子は脱げて床に落ちてしまった。

「私に笑顔を向けてくれるメイがとても愛しくて…我慢できなかったの…」

「こうして素直にわたくしへの好意を…言葉や行動で示してくれるエリス様が…わたくしは大好きです…」

メイは小柄な主の体を抱き返し、ふわふわの黒髪を撫でる。

「メイ…だいしゅき…」

「エリ…わたくしも…」

完全に2人の世界に入り込んだエリスとメイは唇を重ね、

「エリス…そろそろ昼食だから目を覚ますですの…」

というエクレアの言葉で、名残を惜しみながらようやく口づけを終えた。


----


翌日、エリスたちは裏口の1つからパンゲーアを出て帝都へ繰り出した。

パンゲーアの正面口は、何らかの儀式が行われる場合の例外を除いて外来の者が出入りする。

パンゲーアの中で働いている者が外に出る場合は、いくつかある裏口を利用する。


まずはパンゲーアのすぐ南にある"ラズルシュタイン地区"を歩くことにしたエリスたちだが、

「ねえ、あの子たちかわいい…」

「真ん中にいる"灰色の髪"の魔女っ娘と白髪の魔女っ娘、手をつないでる…すごく仲がいいのね…。

 どちらもかわいいから、2人とも連れて帰って私の妹にしたいわ…」

「後ろにいる凛々しいお姉さんが睨みを利かせてなくても、実際にやっちゃだめだからね…。

 それに、うちは妹にするなら赤髮の吸血種の女の子(ヴァンピーリン)のほうがいいな…。

 あんなかわいい子に毎日血を吸われたらダメになりそう…」

早速注目されていた。


お忍びで帝都を歩くにあたって、"とある上級貴族"を装うという策もあったが、それだと気になった者に身元を尋ねられ、皇族とその専属侍女であることを知られてしまうおそれがある。

だが、魔女っ娘姿になっていれば、見かけだけでほとんどの者がエリスとメイを魔女だと思い込み、声をかけてきたとしても身元を尋ねられる可能性はかなり低くなる。

それでも念には念を入れて、エリスの黒髪を灰色に偽装した。

なお、エリスの母リリスも、幼い頃にお忍びで帝都を散歩した際は魔女っ娘姿で身分を隠したという。

その時の魔女っ娘が現在の女帝であることは未だ市井には知られていないため、エリスも同じ手を使えた。


その後も男女問わず注目を浴び続けたエリスたちだったが、魔女、ヴァンピーリンともに、子どもに何かしてしまった場合の大人からの報復を恐れて、接触を図る者はいなかった。

一方で、近くを通っていて、バランスを崩して転びそうになった幼女の体を、アンネが急速接近して支えた際には、同行していた幼女の母親から感謝されたほか、幼女からも、

「ふわふわでふかふかのおねえさま…ありがとう…」

と頬を赤く染めながらお礼を言われて、アンネはとてもうれしそうにしていた。


この日の昼食の場はさすがに一般国民と同じではなく、高級レストランのVIP向け個室だったが、それでもエリスにとっては"パンゲーアのダイニング以外"での食事も、"大好きな専属侍女3人と一緒"の食事も初めて。

いつも食べているものと比べても遜色ない料理の味とともに、エリスの大切な思い出となった。

「またいつか、この4人で…それか、まだ見ぬ"フィアーテ"を加えた5人で一緒に食事したいな…」

「はい…フィアーテが加わったら、是非5人で食事をしましょう…」

時期未定ながら"2度目"の食事会開催を決めてから、4人は高級レストランを後にした。


次にエリスたちが立ち寄った場所は"自然公園(ナトゥーアパルク)"。

この地に帝都が築かれた当時の"環境"を保存しており、今ではここにしか生息していない貴重な動植物も存在する。


4人が公園の正面口から入ると、入口に近いとある大樹の前に、黒い服を着た女の子が立ち止まっていた。

彼女の見上げる先には、大樹の枝に引っ掛かった黒い帽子。

アンネがその"魔女っ娘"に尋ねると、公園の外で男の子たちにいたずらされて、あそこまで飛ばされてしまったという。

大樹のそばには"登ってはいけません!"という警告板も設置されている。

また、公園内での魔法の使用は一部の例外を除き許可制で、魔女っ娘にはなす術がなくこの場に立ち尽くすしかなかった。

だが、アンネは魔女っ娘と会話を交わした後、魔女っ娘を後ろから抱えると、翼を動かして浮かび上がり、魔女っ娘を帽子のそばまで連れていった。

魔女っ娘が精いっぱい手を伸ばして、彼女の大切な帽子を掴むと、アンネはゆっくりと降下し、魔女っ娘と一緒に着地。

魔女っ娘は無事、大樹に登ることなく帽子を回収できた。


「かわいくてやさしくてふかふかなヴァンピーリンのお姉さま…ありがとうございます…」

目を潤ませながら、魔女っ娘はアンネに感謝の言葉をかけると、アンネの頬に口づけした。

「あらあら、素敵なご褒美をもらったわね…」

「お姉さまと一緒にいる、わたしと同じ服装のお2人は、おそらく高貴なご身分の方々だと思われますが、お姉さまが不快に思わないよう、余計な詮索はいたしませんので、ご安心ください。

 また、わたしにいたずらをした者どもは魔女の掟に(のっと)って対処します」

尖った部分の先端近くに青いリボンがついた帽子を大切そうにかぶると、魔女っ娘はそう言い残して、もう一度アンネの顔を見つめてから公園を去った。

エリスたちは自然公園で少し長めに滞在してから、パンゲーアに戻った。


「えへへ…アンネが、おねえさま…」

「そうよ…アンネに助けられたあの子たちにとって、アンネは尊敬すべき年上の女の子だもの…」

「でも、アンネがあの子たちに尊敬されるようなことができたのは、エリスさまのおかげです…」

「そう言えば、アンネに助けられた自然公園の魔女っ娘、かわいいのに大人びた口調で、メイに少し似てたわね…」

「わたくしの内面は…あの子よりも幼いです…」

「でも、私はそんな…無理に背伸びをしていないメイが大好きよ…」

「そんなこと言われたら…エリス様に甘えたくなってしまいます…」

「好きなだけ甘えていいわよ…エルステであるメイの特権だから…」

「えへへ…エリ…だいしゅき…」

「私も…メイが…だいしゅき…」

なし崩し的にエリメイのイチャイチャが始まり、

「やっぱりあの子たちとは比べ物にならないくらい、エリスさまとメイねーさまは最高にロリかわいいれす…」

アンネも2人によって堕ちかけていた。

なお、この日から、2人きりでなくても専属侍女しかいない場であれば、メイはエリスを"エリ"と呼んでいいことになった。

アンネのどこがふかふかなのかはご想像にお任せします(本文で詳細に描写すると年齢制限がかかってしまうので…)。

なお、アンネに助けられた幼女と魔女っ娘は後にアンネの配下になる予定ですが、本作品中で2人の再登場があるかどうかは未定です。

<2021/ 8/28修正>魔女っ娘の一人称が混在していたため、"わたし"に統一しました

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