4 壁か、規制解除か
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「さて…ここなら、私とエリス、リリス、それに専属侍女たちしかいないから」
「今回の件はただ単純に壁を作るか、特定種族以外出入り禁止を廃止するか、何もしないかの3つでどれがいいかを考えるだけでは足りません。
特定種族以外出入り禁止の区域を今後もずっと維持するのであれば、今回のように人間が誤って迷い込むことを防ぐために、耐久性の高い壁は必要です。
将来廃止予定だったり、どちらか決めかねている場合でも、何もしないのは悪手です。
境界の警備強化や簡易的な仕切りの設置といった再発防止策はとるべきです」
「エリスは壁の設置や警備強化に反対の立場だと思っていたわ」
「私はそこまで人間の味方をするつもりはありません。
ディアボロスも人間も帝国に必要だから、無益な殺生で頭数を減らしたくないだけです」
「エリスの発言は貴重な意見として参考にさせてもらうわ。
あとは…メイが何か言いたそうにしているわね…遠慮なく言いなさい」
「もし、今回の事件を機に壁の構築や境界の警備強化だけをされるのであれば、人間どもや人間に同情的な者たちは不満を募らせます。
人間どもにもある程度の実利を与えて不満を鎮めるべきですが、そのためにディアボロスたちから何かを奪ってしまうようではディアボロスたちを統べる者として失格です」
「メイは難しいことを言うのね…でも、あなたの真意はわかったわ。
エリスやメイの意見は参考にするけど、具体的にどうするかはジーベンヴァイゼンに諮った上で私が最終的に決めるから、エリスもメイも発言の責任を負う必要はないわ」
数日後、ノクスはアヴァロニア大陸のほぼ南半分におけるディアボロス以外出入り禁止について、自分が皇帝であるうちは堅持することを表明、併せてディアボロス以外出入り禁止の区域とそれ以外の境界に"壁"を構築することも明らかにした。
ただし、境界はツェントラルシュタットより少し南にずれ、それに伴って、ツェントラルシュタットの一部の門におけるディアボロス以外通行禁止の規則は撤廃されることとなった。
なお、グリュックドルフなどツェントラルシュタットより南にある都市、町、村は境界の変更による影響を受けず、(広義の)ディアボロスのみが暮らせる地域のままである。
壁の構築は1年で完了し、それとともに、ツェントラルシュタットから一番近いところにはツェントラルグレンツェ、壁の西端にはヴェストグレンツェ、東端にはオストグレンツェという"関所"を併設した町が造られ、ディアボロスでも緊急の場合を除いて3か所のいずれかを通らなければならなくなった。
ただ、ツェントラルシュタットへ用事がある場合を除いて境界をまたいだ人や物の往来はそれほど多くなく、むしろツェントラルグレンツェがボトルネックにならないようさまざまな施設が整備された結果、以前より便利になったと言う者も少なくない。
また、曖昧だった境界を明確にしたため、故意ではない越境は完全になくなり、無謀にも故意に不法な越境を試みた者はすべて失敗。
ノクスの採った施策は大半の国民から称賛された。
エリスと専属侍女たちは壁が完成してから半年が経った頃、魔女に扮してツェントラルグレンツェをお忍びで訪れ、活気に溢れた町の様子を目の当たりにした。
州都ツェントラルシュタットだけでしかできなかった一部の手続きがツェントラルグレンツェに設けられた出張所でもできるようになって、事務処理の迅速化や負荷分散も図られている。
テストゥド大陸やティグリ大陸の征服が本格的に始まる前に大都市として完成したツェントラルシュタットと違い、ツェントラルグレンツェには他の大陸から伝わった建築様式も取り入れられており、それを目的に訪れる者もいた。
町の南端はディアボロス以外の通行を取り締まる関所になっていて、境界部分にディアボロスだけが通れる、高度な魔法で構築された壁がある。
ディアボロスはそのまま突入してもぶつかることなく通過できるが、他種族は壁を通り抜けられない。
関所が造られた当初は面白がって突破しようする他種族の姿を何度も見かけたが、今は取り締まりの厳しさが知れ渡ったため、壁で足止めを食らう者は皆無である。
エリスと専属侍女たちは、ディアボロスたちが何人も壁を通り抜けて南へ向かうところを見ただけで、自分たちが通れるかを試すことなく立ち去った。
2023年の本作の投稿は今回が最後となります。
次回は先延ばしにしていたキャラクタのまとめを投稿し、本編はその次になりますが、2024年の投稿ペースは(今回の投稿日である2023年12月24日時点で)未定です。




