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空のエリス  作者: 長部円
第3部
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3 グリュックドルフ事件

3


ヴェルトヴァイト帝国がアヴァロニア大陸に設けた3州のうちの1つ、ミッテルアヴァロニア州は征服された時期の違いで南北に大きく二分される。

ほぼ中央に位置する州都・ツェントラルシュタットより南は、ディアボロス(女吸血種(ヴァンピーリン)魔女(ヘクセ)などを含む、広義のディアボロス)以外の種族の居住や町や村への出入りについて、特別な許可を得てないと違法行為とみなされるが、ツェントラルシュタットより北ではそこまで厳しい制限はない。

南北の境界であるツェントラルシュタットでは南側の門をディアボロス以外通行禁止にすることで、違法行為を未然に防いでいた。

ツェントラルシュタットの外には境界を表すようなものを設けていないが、州内で整備された道は必ずツェントラルシュタットを通るようになっていることから、アヴァロニア大陸がヴェルトヴァイト帝国によって統一され現行の法律ができて以来、大きな問題は起きてこなかった。


だがある日、人間(アントロポス)の母親と娘がツェントラルシュタットの北側の門から出た後、進む方向を誤って南側に進入、ツェントラルシュタットより南にある町グリュックドルフへ足を踏み入れてしまった。

当然ながら町は騒然となり、人間(アントロポス)の母娘は町に駐在するヘーアの守備兵が拘束。

守備兵は過去の事例を確認し、それに従って母娘を公開処刑しようとするも、処刑はエリスの介入で中止された。


現行の帝国法では、特定種族以外の通行・出入り禁止に違反した場合は皇室が身柄を預かって処分を下すことになっている。

ただし、アヴァロニア大陸が統一される前からあったこの条項は、法律通りに皇室へ身柄を送致することが現実的に不可という状況に限り、現場で処断するという付則がかつて定められていた。

帝国によるアヴァロニア大陸統一が成り、大陸内の政情が安定すると、アヴァロニア大陸はこの付則の対象外となった。

そのため、守備兵がやろうとしたことは皇室に対する越権行為である。


「あなたたちがこの2人を拘束したことは正しいけれど、2人をどう処分するかは皇室で決めることよ。

 2人は私たちがパンゲーアへ連れて行き、その際に越権行為についても陛下へ報告します。

 誰が関与したかすでに把握しているから、ごまかしても無駄よ」

専属侍女を従えたエリスはそう言って母娘をヒンメルスパラスト経由でパンゲーアへ連行すると、姉のノクスに以後の扱いを委ねた。

結局、2人は洗脳を施された上で、母親は奴隷に近い扱いに落とされ、娘はリリスが気に入ったため事実上彼女専任扱いの侍女となった。

また、越権行為に関わった者は左遷された。

しかし、この件は関係者の処分だけでは収まらなかった。


この機に、南北を壁などで物理的に隔てるべきと主張する者たち、帝国によって統一された大陸にそぐわない法律は廃止すべきと主張する者たち、それに今回の件はあくまでイレギュラーだとして現状維持を主張する者たちによって、何度も議論が交わされた。


「ところで、エリスはどうすべきだと思う?」

ノクスから呼ばれたエリスがパンゲーアへ参じると、やはりこの件について(はか)られた。

「私がいずれかに加担することによる影響を考えると、この件について私からの発言は控えます」

帝国の版図拡大に多大なる貢献をしたエリスは、その愛らしい風貌も相まって国民の間で絶大な人気を誇る。

そんなエリスの発言が自分の意見と異なる場合、または女帝の意見と異なる場合、最悪国を割る事態に発展しかねない。

「セントメアリ以外の"領地"を惜しげもなく手放すような、野心のないエリスならそう言うと思ったわ。

 最良の回答よ」

「ノクスお姉ちゃんに褒められてうれしいですけど、私を試している場合ではありません」

「わかったわ、それなら別の件…ザンクトアントーニアのジュリー・プランタンをゴルトベルク州の知事にしようと思うのだけど」

「プランタン家はティグリ大陸で最も信頼できる家の1つ…ゴルトベルクのような要地を任せるにはうってつけです」

ティグリ大陸にある大都市ザンクトアントーニアはマルテル王国時代サンタントワーヌという名だったが、帝国がマルテル王国の征服を完了してから改名された。

プランタン家はサンタントワーヌの騎士団長を務めてきた名家で、エリスがサンタントワーヌを落とした後はサンタントワーヌの領主も兼務していた。


他にもいくつかの件で会話を交わしたノクスとエリスだが、

「エリスお姉さま…えへへ…ふわふわ…」

駆け寄ってきたリリスが抱きつき、エリスのふわふわロングヘアに顔を埋めると、

「かわいいエリスとリリスのイチャイチャは見世物ではないわ…2人とも、するなら別の場所でしなさい」

ノクスはそう言って、2人を連れて奥の部屋へ向かった。

もちろん、リリスの行動はノクスの意図を察してのものだった。

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