43 王子と元王女
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「マルテル王国の王子アルセーヌとベルトラン、ようやく見つけた…」
エリスの"ドリッテ"であるヴァンピーリンのアンネは、エリスのものになったロロットとデジレを連れて2人の兄たちを探していたが、ある日とうとう彼らの隠れ家を発見。
「さあ…アンネのために、目の前にいる人間どもを処分して」
「はい、アンネ様」
「アンネおねえさまをお待たせしないよう、さっさと殺すね」
すでにエリスやアンネの同胞となっているロロットとデジレは何の躊躇もなく、兄だった人間に襲いかかる。
アルセーヌとベルトランは、ロロットが"魔族に堕ちた"ことを知っていたものの、デジレについては知らず、さらに疾風の女神ブリゼアの影響でデジレの動きは彼らの目に捉えられないほど素早くなっていたため、一方的にデジレからの攻撃を受け続けていた。
ロロットもメインの攻撃役をデジレに任せ、自分はサポート役に徹することにした。
アルベールは王として必要な資質が不足していたため国を失うことになったが。武芸に関する才能はあった。
彼の息子2人も父譲りの才能で、これまで"妹だった存在"からの猛攻に耐えてきた。
だが、それもついに終わりが訪れた。
「これでとどめ…」
先にベルトランがデジレのとどめの一撃でバラバラに切り刻まれると、
「デジレは"ただの人間"として1人を処分したけど、私はアガット姉様の心を壊した憎むべき敵として…お前を私ができる最も凄惨な手段で殺す…」
やや遅れて、アルセーヌも憎しみで増幅した力を籠めたロロットの執拗な連撃によって絶命。
2人の亡骸は原形をとどめていなかったが、それでもアンネは美味しそうに血を吸っていた。
この後、パンゲーアにてベルナデットがミネルヴァのものに堕ち、アルベールがフォルトゥナに殺されたことで、マルテル王国の王位継承権を持つ者はベルナデットのほか、すでに俗世との関わりを絶ったアガット、ディアボロスになったロロットとデジレの4人だけとなった。
当然、4人とも王位継承の意思はなく、マルテル王国は名実ともに滅亡した。
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ディアボロスが認識する世界において人間が支配する最後の国であるシエロ王国については、一部の地域を除いてサンゴ帝国が侵攻とその後の支配を担うことで両帝国が合意していた。
ヴェルトヴァイト帝国がその合意で権利を得た地域は、シエロ王国北部のリオグランデ地方。
海に面しているだけでなく、川や湖などの水場が豊富な地域で、ヴェルトヴァイト帝国にとって飛び地になるにもかかわらずその地を欲したのは、言うまでもなくイルミナの強い要望によるもの。
エリスのマルテル王国遠征に帯同していたアストリドが復帰すると、彼女を数日休ませてから、イルミナが率いるヴェルトヴァイト帝国のマリーネはリオグランデ地方征服に向けて動き出した。
アストリドを貸してくれた返礼とばかりに、エリスの配下からは元王女のロロットとデジレが助っ人として参加。
「エリスおねえさまから、イルミナさまのためにいっぱい人間を殺すよう命令されたの」
「期待してるわ…でも、わたしのものにしたい人間の女の子がいたら、その子は傷つけないでね」
「わかった…イルミナさまが殺してほしくない人間の女はロロットおねえさまに任せる」
「その分、デジレちゃんには…不要な人間をたくさん殺してもらうわ」
「うん…イルミナさまに喜んでもらえるように、たくさん殺すね」
その言葉通り、戦場でのデジレは目にもとまらぬ速さで敵を次々と斬り殺していった。
助っ人2名の活躍もあり、マリーネは予定よりも早くリオグランデ地方の征服を成し遂げ、後は万が一の援軍要請に備えつつ、サンゴ帝国によるシエロ王国征服を見守った。
第2部は次回が最終回になりますが、まだ完結ではありません。
<2023/ 9/20修正>不要な改行を削除しました




