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空のエリス  作者: 長部円
第2部 3章
80/98

40 スール・ドゥ・ラファール

40


「お…ねえ…さま…」

デジレは一言つぶやくと上半身を起こし、再びエリスに視線を向ける。

「デジレは…おねえさまのものです…」

無表情のまま、抑揚のない声で自分はエリスのものだと言うデジレ。

「デジレ!」

デジレの言動が自分の知っている普段の様子と明らかに違うため、ロロットは叫ぶようにデジレの名を呼んだ。

「ロロットおねえさま…無事でよかった…」

ロロットの声に反応して、大好きな姉に笑顔を見せたデジレは完全に目を覚ましたように見える。

「あなたもよ、デジレ…心配したわ…。

 エリス様のおかげで目を覚ますことができたのよ」

「おねえさまは、エリスさまというのですか?」

「そうよ…」

「ありがとうございます、エリスおねえさま…」

また少しデジレの言葉に違和感を覚えたロロットだったが、ここではあえて指摘せずにいた。


「お嬢様…本当によかったです…」

ロロットに続き、デジレの侍女たちが主の目覚めを喜び、ベッドに近づこうとする。

「お前たち、誰?」

侍女の声を聞いたその瞬間、デジレは侍女たちに鋭い視線を向けた。

「デジレはエリスおねえさまのものだから、エリスおねえさまに逆らうなら、お前たちはデジレの…敵…」

ベッドから降りると、デジレは右手に魔力を集め、攻撃魔法を放てる状態にして侍女たちへ"警告"する。

「やめなさい、デジレ。

 この場に私と敵対する者はいないわ」

「わかりました、エリスおねえさま…」

エリスにたしなめられて、デジレはあっさりと"警戒態勢"を解いた。


「デジレ、あなたに何年も仕えている侍女たちがわからないの?」

「はい、あの者たちがそばにいたという記憶は…全くないです…」

「どうやら、目を覚ましたばかりで混乱しているだけというわけではなさそうね…」

「とりあえず私とロロットでデジレがどうなっているか調べるから、一旦下がって」

エリスがデジレの侍女たちを退室させると、エリスの隣にエクレアが現れた。

「わっ…エリスおねえさまにそっくりなかわいい子…」

「私はエクレアですの…ちょっとあなたのことを調べるですの…」

エクレアは目に魔力を籠めてデジレの体を見る。

デジレはエクレアに見惚れて大人しくしていた。

「この子は疾風の女神ブリゼア様の影響を受けているですの。

 詳細は後でまたエリスと一緒に調べるけど、侍女についての記憶はブリゼア様から何かを得た代償として奪われた可能性が高いですの」

「おそらく、この子が自発的にそんなことをするとは思えないから、国王かその取り巻きが、デジレを"都合の良い政略結婚の道具"にするために呪術の類を使ったのでしょうね…」

「そんな…」

「ロロット…あなたが脱走したせいでデジレがこうなってしまったと決めつけないでね。

 あなたが留まっていても、2人とも"道具"にされて地方領主に与えられていたかもしれないのだから」

「そうね…エリス様、ありがとう…」


----


エリスとエクレアがデジレについて"精密検査"をした結果、マルテル王国第1王子アルセーヌの側近の1人が疾風の女神ブリゼアに、デジレの記憶を代償にして彼女に"グナーデ"よりも強力な特殊能力を付与するよう願ったことと、それと合わせてアルセーヌに仕える呪術師が、"自分が解除するまで意識を失い眠り続ける"術と"目覚めて最初に見た者を恋慕した上で主と認識させる"術をかけたことがわかった。

前者の術がエリスによって強引に破られ、後者の術は最初に見た者がエリスだったからか、それとも術が不完全だったからか、デジレはエリスを恋愛対象ではなく姉として認識している。


また、デジレの"他人との面識"はロロットを除いてすべて失われており、王族としてのマナーや人間としての常識・倫理といったものもかなりの部分が欠落していた。

そのため、予め"この者は敵ではない"ことを教えておかないと、先ほどのように警戒態勢をとってしまう。

地方領主の妻のように、めったに外部の者と顔を合わさず、いざという時は家を守る戦力となるのであればそのままでいいが、エリスにとってはあまり都合がよくないため、本人と相談した上で"頭の中を弄る"つもりでいる。

なお、エクレアによると、代償として奪われた記憶は元に戻せないらしい。


「お嬢様が記憶を失っても、私たちはしっかりとお嬢様と過ごした日々を憶えております。

 お嬢様にお許しいただけるなら、あらためてお嬢様のお側にお仕えしたく存じます…」

「ありがたい言葉だけど、デジレはもうお嬢様じゃないから」

「そうね…デジレはすでに私の侍女で、メイのように陪臣を持てる立場ではないから。

 でも、あなたたちも私の侍女にして、"同僚"になったデジレと一緒にいられるよう配慮するくらいならできるわよ」

「エリス様…ありがとうございます…」

デジレの"元侍女"たちは、王女と侍女という関係にはもう戻れないが、それでも再び共に歩めることを喜んだ。

スール・ドゥ・ラファール(sœur de rafale)はフランス語で"疾風の妹"という意味です。

毎週投稿は今回までで、次回からは隔週ペースに戻ります。

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