8 ドリッテとねーさま
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アンネは同族であるユリアネや、ロリコンに堕ちた侍女たちのサポートもあって、順調に侍女としての仕事を覚えていった。
エリスは当初、アンネを"事実上の専属侍女"にしながらも、もう1人人間を専属侍女候補として確保してからドリッテかフィアーテにするつもりだったが、他の侍女たちにかわいがられながら健気に仕事をこなすアンネの愛らしい姿に、とうとう我慢できなくなった。
とある日の朝食後、エリスは予め話をつけた上でメイとクロエを伴ってリリスの執務室を訪れ、ユリアネと話し始めた。
先日ブルートシュタイン地区へ行った際はあくまでも例外措置で、本来ユリアネは常時主であるリリスの側にいないといけないため、この場所で会うことになったが、リリスに聞かれたらまずい内容ではなく、リリスとしてもかわいいエリスがいることで目の保養になるという理由をあげ、執務室での話し合いを許可した。
まずはメイが、エリスのエルステとしてもっと強くなるためのアドバイスをユリアネからもらった。
時折メイが顔を赤くし、そのたびにリリス・エリス母娘の"ロリコン指数"が上昇。
リリスは許容値が高く、まだ"ロリコン予備軍"止まりだが、エリスはすでにロリコンとして目覚めてしまっており、今回の行動もそれ故に起こした。
「次の話だけど…明日、アンネを母様の前に連れてくるわ」
「と、いうことは…」
「アンネを"3番目"にするわ…」
「ありがとうございます…。
ブルートシュタイン地区でも申し上げましたが、改めて、私がお勧めしたあの娘を取り立てていただいたこと、厚く御礼申し上げます…」
この後、2人ともすでに見て知っている内容ながら、アンネの健気な仕事ぶりやかわいい仕草についての話で盛り上がった。
「話はもう1つあって…フィアーテの候補についてなのだけど…」
「残念ながら…アンネのように自信をもってフィアーテとしてお勧めできるヴァンピーリンは今のところ把握してません…」
「そうではないわ…。
フィアーテはメイと同じ、元人間にするつもりなのだけど、メイのようにすでに人間を憎んでいたものではなく、そのままでは将来私たちの脅威になりそうな者を何らかの方法で洗脳してフィアーテにすれば、人間の損失かつ我々の利得になる…。
お姉ちゃんたちの専属侍女で例えれば、エイプリよりもミネルヴァのようなタイプが欲しくて…ユリアネには、アンネにそれを任せた際にサポートをお願いしたいの…」
ユリアネは少し考えこんだ後、顔を上げる。
「わかりました…ノクス様の作戦に影響を及ぼす恐れがありますので、ノクス様陣営との調整は必要になりますが、かわいいエリス様とアンネのためなら、喜んで協力いたします」
「さすがは母様のエルステ、話が分かるわね」
ユリアネとの話は以上で終わり、リリスとユリアネにぎゅっと抱いてもらってから、エリスは侍女とともに部屋へ戻った。
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「うへへ…エリスさま…かわいくて…ふわふわ…しゅき…」
エリスたちがリリスの執務室を出て扉を閉めた途端、ユリアネはぶつぶつと独り言を呟きながら床を転がる。
「エリスを抱いたことがあるユリアネがこんなになるくらい、今のエリスの抱き心地は魅力的なのね…」
リリスは"女帝のエルステ"も狂わせてしまう末娘の身体をそう評してから、床で転がり続けるユリアネを正気に戻した。
「ああ、エリス様…リリス様の娘でなかったら全力で魅了して、思う存分あの身体を愛でているところです…」
「その言葉、ノクスやイルミナが小さかった頃にも聞いたわよ」
「だって、あの頃のノクス様もイルミナ様もとてもかわいかったですから…。
お人形さんのように小さな身体の感触を思いっきり堪能して、首筋に咬みついて血を味わいたいという欲求は、ヴァンピーリンとして正常な感覚です。
なので、事情があったとはいえ、エリス様の血を吸ったアンネがものすごく羨ましいです…」
「まぁ、前払いでそんな"報酬"をもらったからには、アンネにもそれ相応の働きをしてもらわないとね…」
「あの娘なら、"報酬分"の働きは十分できるでしょう…」
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翌日の朝食後、リリスとユリアネが見守る中、エリスはアンネの唇を奪い、アンネは正式にエリスの専属侍女"3番目"となった。
昼食後にノクスの部屋で、アンネがドリッテ就任の挨拶をする。
「エリスさまのドリッテになりました、ヴァンピーリンのアンネです…よろしくお願いします」
ノクスもイルミナも、彼女の専属侍女たちも、ドリッテになる前のアンネの働きぶりは一方的に見ていたので、アンネが専属侍女になったことを歓迎した。
「エリスちゃんが1人で目の前にいるだけでもかわいいのに、メイぴょんとアンネちゃんが隣にいると数倍かわいい…。
フェーりんが止めてくれなかったらいろいろといけないことをしてしまうところだったわ…」
そう言いながら、イルミナはアンネのツインテールを両手でもふもふ弄ぶ。
もふもふされているアンネも気持ちよさそう。
「アンネのそんな顔を見てしまったら、私も何か変な気持ちになりそうよ…」
「エリスちゃん、メイぴょんが"わたくしのポニーテールをもふもふしてください"って顔、してるわよ…」
イルミナに言われてメイの顔を見た瞬間、エリスの理性は崩壊した。
「えへへ…もふもふ…すりすり…」
ノクスが2人の妹を強制的に止めさせるまで、妖しいもふもふは続けられた。
夕食後、エリスの部屋に戻ると、浴室で身体を洗い、就寝の準備をする。
ナイトウェアに着替えている途中、
「メイさん、クロエさん…お願いがあるのですが…」
アンネが2人に話しかけた。
「あの…お2人を…"ねーさま"とお呼びしてもいいですか?」
「わたくしを…"ねーさま"と呼んでくれるのですか…うれしいです…」
「私も…アンネのようなかわいい"妹"は大歓迎よ…」
「えへへ…ありがとうございます…メイねーさま…クロエねーさま…」
メイは一人っ子で、クロエも妹はいなかったそうなので、アンネのようなかわいい子に"ねーさま"と呼ばれて甚く喜び、"妹"の小さな身体をぎゅっと抱きしめた。
メイは"いつものように"エリスと一緒のベッドで横になった。
クロエとアンネは隣の部屋に移動して、通常はそれぞれのベッドで寝るのだが、アンネのベッドは明日運び込まれる予定なので、まだなかった。
「今夜はクロエねーさまのベッドで…一緒に寝てもいいですか?」
「いいわ…いらっしゃい…」
「アンネたちヴァンピーリンは、必ずしも毎晩眠らなくてもいいのですが…今夜は特別なので…」
アンネはベッドで横になると、クロエが眠りについてだいぶ経ってから、
「おやすみなさい…クロエねーさま…」
"姉"の頬に口づけをして、瞼を閉じた。
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次の日の朝食後、エリスと専属侍女たちはパンゲーアの屋上へ向かった。
「アンネ、まずはその"通常サイズ"で飛んでみて」
「はい、エリスさま」
エリスから指示を受けたアンネは、背中の小さな翼を動かして屋上から少しだけ浮くと、その高さを維持したまま、エリスの周りを飛ぶ。
「落とし穴の回避とか、人通りの少ない場所で早く移動する時には使えそうね…それにパタパタしてる翼がかわいいわ…」
「えへへ…」
一旦屋上に降りたアンネは、大好きなエリスから"かわいい"と言われて素直に喜び、微笑んだ。
「今度は"大きくして"飛んで」
「はい…」
アンネが翼に魔力を通すと、徐々に大きくなっていき、アンネの腕と同じくらいの長さにまでなった。
その大きな翼で上昇していくアンネだったが、高度を上げるとバランスを取りづらいのか、"横移動"はゆっくり行っていた。
エリスはメイをお姫様抱っこしながらアンネと同じ高さまで上がってくると、"高さ"に慣れていないアンネを気遣う。
「そうね…高いところでの移動は少しずつ慣らしていけばいいわ…」
「はい…」
「それより、景色を見る余裕はあるかしら?」
「なんとか…」
そう言われて辺りを見渡したアンネ。
「アンネがずっと住んでいたブルートシュタイン地区はあそこよ…」
エリスの説明を聞きながら、アンネは初めて見た高いところからの景色に感動している。
「エリスさまと一緒に…エリスさまと同じ高さで…こんな素晴らしい景色を見られて…アンネは幸せです…」
感極まったアンネはぼろぼろと涙をこぼしていた。
その場では平静を装ったエリスだったが、アンネの泣き顔がとてもかわいくて、内心ではキュンキュンしており、結局、部屋に戻ったところで我慢できず、メイと一緒にアンネを長時間抱き続けた。