39 エシェッケマット
マルテル王国の第3王女シャルロットについては、今回以降表記を「ロロット」に統一します。
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王都モンドールの内部をよく知る3人が加わってモンドール攻略作戦が立てられ、準備がある程度軌道に乗ると、エリスとメイはロロットをヒンメルスパラストに連れていき、"フォルシュテンディゲ・ディアボリー"を施した。
ロロットは完全なディアボロスと化した自分の姿を確認すると、そばにいたメイに笑顔を向ける。
「私…メイ様と同じディアボロスになれたのですね…」
「そうよ…これであなたはわたくしたちの同胞…」
「私があなたに"ディアボリー"を施したのだけどね…。
ちなみに、エルステであるメイには及ばないけど、陪臣にしてはなかなかのものを持っているようね。
"当日"は存分に働いてもらうから、それまでに"新しい体"に慣れておきなさい」
「ええ、そうするわ。
これまで血縁だったことが恥ずかしいくらい愚かな人間どもを、残らずモンドールから駆逐してやる…うふふ…」
ディアボロスになってもエリスとメイへの態度は変わらないロロットだが、"かつての"血縁に対しては憎しみを露にして"復讐"を誓った。
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当日、王都の防衛にあたっていた王国軍兵士の一部が"突然"反乱を起こして門を開き、反乱に加わらなかった者たちと小競り合いをしている間に、門から少し離れたところで待っていた帝国軍が突入。
ダクマーが陸戦部隊を率い、空からはデー・クラフトの部隊が援護射撃をして次々と王国兵を斃していった。
言うまでもなく、王国軍の同士討ちは先行して王都に潜入したユヴェーレンによって予め仕込まれていたものである。
王宮とその周辺では近衛兵がせわしなく動いていた。
ある者たちは王宮の入口を封鎖し、別の者たちはベルナデットの指示で国王夫妻のもとへ急行。
だが、前者はレニを隊長として突撃してきた陸戦隊の精鋭によってあっけなく全滅、後者もユヴェーレンに討たれた。
王子2人は側近とともに帝国軍に制圧された王都から脱出できたが、国王アルベールはユヴェーレンに拘束され、妃は乱心した側近に刺されて落命。
そして、ベルナデットは妹"だった"ロロットに追い詰められていた。
「ロロット、なぜ魔族に堕ちてまで姉に逆らう?」
「私が姉として慕っていた人間はアガット姉様だけ…お前は私の姉などではない…。
アガット姉様を裏切ったお前の人生をここで終わりにしてやりたいところだったが、私の主となったお方に生け捕れと命令されてしまったから、許される範囲ぎりぎりまで痛めつけた上で生け捕りにしてあげるわ…」
儀礼や競技レベルの剣術しか使えないベルナデットでは、ディアボロスになって形にとらわれない戦い方を身につけたロロットに敵わない。
できる限りの抵抗はしたものの、自傷行為さえもできないくらいきつく拘束された。
ロロットは"姉だった者"をユヴェーレンに預けると、報告のためメイのもとへ駆けていった。
他の王族や側近たちもすべて帝国軍に捕縛され、王国軍は完全に敗北。
たった1日で王都モンドールが陥落したこの日、マルテル王国は事実上滅亡した。
王女4人のうち、後継者争いに敗れて幽閉されていた長女アガットは彼女の母親のような目に遭うことなく、帝国軍が保護。
次女ベルナデットはアルベールとともにズーセ・インゼルまで送られ、ノクスに身柄を引き渡された。
その際、妃の亡骸も一緒に引き渡されている。
末っ子のデジレは王宮の地下にて意識を失った状態で発見され、命に別状はないものの、しばらく様子を見ても目を覚ます兆候がないことから、姉のロロットは心配そうに何度も妹を見舞いに来ていた。
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エリスは慎重にデジレが眠り続ける原因を解析し、その結果、デジレは"呪い"のようなもので意識の覚醒が妨げられていると判明。
エリスは王宮のデジレの部屋にメイとロロット、それにデジレの侍女たちだけがいる状態で原因と、これからベッドに横たわるデジレへ施す内容を説明した。
「これから、この子にかかっている"呪いのようなもの"を解除するけど、何が起こるか分からないから、この子が目を覚ますまでは誰であろうと絶対に近づかせないで」
「承知しました」
自分とデジレのそばに誰か近づこうとしたら阻止するようメイに命じると、エリスは虚無魔象を使ってデジレにかけられていた呪いを"破る"。
デジレがそれを待っていたかのように身じろぎを始め、エリスに顔を向けた状態で瞼を開いた。
エシェッケマット(échec et mat)はフランス語でチェックメイト。