33 デー・クラフトの進撃と援軍
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エリス配下の三賢女はヘーアの先遣隊の指揮権が一時的にエリスへ移譲されることを前提にマルテル王国への侵攻計画を練っていたが、マルテル王国の"解放軍"を退けた戦いから1か月経っても指揮権移譲の動きがないことから、デー・クラフト単独での実行に修正した計画をエリスに提示した。
「この計画、実際はいつから修正を始めたの?」
「10日前です」
「早めに見切ったことは好判断よ、リエ。
サンゴ帝国が破竹の勢いで大陸南部を征服しているから、マルテル王国は南側も気にしないといけない。
それに便乗するためには、ヘーアの件を待っている場合ではないわ」
「これまでの戦いとアストリド殿を使った"実験"で、彼の地は向こう側にプラスの効果を与えても、我らにマイナスの効果をもたらすことはないとわかりましたので、明日か明後日には動くべきかと」
「ええ…ミーネのいう通り、この計画ならなるべく早く動かないとね。
もちろん私も出るわ」
「ならば、私も戦術担当補佐官としてエリス様とともに参ります。
元"アハトシェッツェ"でもあるので、いざという時にはエリス様も、自分の身も守れますから」
「ディア、頼むわね」
三賢女との話し合いを終えるとすぐにエリスはデー・クラフト出陣の準備を始めさせたが、翌日に終えることができず、その次の日にエリス自らが率いるデー・クラフトはズーセ・ゼーフェストゥングを出発した。
マルテル王国軍はヴェルトヴァイト帝国軍がズーセ・ゼーフェストゥングから打って出ることも想定していたが、デー・クラフトによる空からの攻撃に為す術なく敗北。
数日後にはテストゥド大陸から呼んだ"シュヴァルツェ・フェーダン"も加わり、エリスたちは1か月間でズーセ・インゼルよりも広い範囲の占領に成功した。
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「お姉様…エリスちゃんがヘーアの先遣隊を動かせず、わざわざテストゥド大陸から陸戦部隊を移動させてマルテル王国への侵攻を進めたこと、無視できないレベルの問題になっています…」
「わかってるわ…」
「ノクス様もワタシたち専属侍女も、皇位継承にばかり気を取られてしまい、ズーセ・インゼルの先遣隊については完全に失念していました…」
パンゲーアにあるノクスの部屋ではノクスとイルミナ、それに2人の専属侍女たちが一様に暗い顔をしていた。
イルミナの言葉通り、エリスが長姉からの助力を得られず、ほぼ単独の兵力でマルテル王国から領土を切り取ったことにより、帝国では"末妹のことを顧みない次代の女帝"ノクスへの悪評が広まっている。
「今からでもズーセ・インゼルの先遣隊をエリスへの増援として動かすべきだけど、ダクマーたちゲネラールには私の不手際の責任を取らせたくないわ…」
「それなら、以前エリスちゃんの配下にいたことがある"あの子"に任せてみたらどうでしょうか。
もちろん、あの子はゲネラールではないですから、"特例"を含めていろいろと調整は必要ですが」
「そうね…ゲネラール抜きならそれしかないわ…」
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10日後、エリスのもとに"待望の"援軍がやってきた。
「エリス様…」
「久しぶりね、レニ」
「エリス様へ加勢するため、ヘーアの先遣隊を連れて馳せ参じました。
詳細は後程」
「…あなたたちが来てくれてとてもうれしいわ」
レニはノクスからの命令を受け、ズーセ・インゼルに待機していたヘーアの先遣隊の大半を連れてエリスたちに合流。
シュヴァルツェ・フェーダンとレニが率いるヘーアの部隊を合わせて、エリスが率いる帝国軍はようやく、当初移譲されるべきだった戦力と同等になった。
レニが連れてきた兵たちの再編成を終えると、帝国軍はマルテル王国の征服を再開。
小規模な町だけでなく中規模の都市もそれほど日数をかけずに攻め落としていき、早くもプランタン騎士団の本拠である大都市・サンタントワーヌに迫ろうとしていた。