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空のエリス  作者: 長部円
第2部 3章
72/98

32 シャインヴェルト

32


マルテル王国の"解放軍"は王国直轄軍と騎士団の"混成"であるため、各部隊の様々な事情で何度か動きを止めることがあり、ズーセ・インゼルの"対岸"への到着は当初の予定より1か月以上遅れた。

その間に、エリスは迎え撃つ準備を着々と進め、頃合いを見て虚無魔象"シャインヴェルト"を発動。

解放軍が自分の仕掛けた"罠"にかかるその時を待っていた。


解放軍はエキノックス騎士団の部隊とプランタン家の三女マティルド・プランタンが率いるプランタン騎士団の部隊が先陣として攻めかかる。

しかし、魔法などで遠距離攻撃を行う者たちが足を止めて攻撃の準備を始め、近接戦闘を担う者たちだけになってから、ヴェルトヴァイト帝国側の防壁(バリカーデ)へたどり着く直前に意識が一瞬途切れるような感覚に陥った。


解放軍の先陣の大半はすぐに元の感覚を取り戻したようで再び前進したが、一部はその場で動けなくなり、少し経つとエキノックス騎士団の数名が錯乱して味方を襲い始めた。

何とか防壁に達した者たちにも異常が表れ始め、棒立ちになって帝国側の遠距離攻撃をまともに受けたり、突然来た道を引き返したりして、攻め手は少しずつ減っていく。

マティルドも、防壁の向こうに"いないはずの美少女"が見えるという幻覚に囚われ、

「何、あの子…魔族なのに…かわいくてドキドキする…。

 もっと…近くで…愛らしい姿を見たい…」

魅了されたマティルドはふらふらと歩きながら近づく。

そんな彼女の前にプランタン騎士団員が立ちはだかり、無防備な状態で敵の方へ向かうことを止めようとした。

"幻覚の美少女"に心を奪われているマティルドは、味方であるはずの団員を"邪魔者"と誤認して武器を向ける。

団員はふらふらのマティルドが振り回す武器を容易く避けたものの、上官の乱心に驚いた。

解放軍を惑わした幻覚はマティルドが2度目の攻撃をする前に消失。

マティルドは正気に戻ると、プランタン騎士団の部隊が半減、エキノックス騎士団の部隊がほぼ壊滅している現状を把握し、慌てて部隊を立て直し撤退した。


だが、イルミナのヴァッサーヴェルトと同等の、"ヴェルト"と名のついた魔象の効果はその程度で終わらない。

一度抱いてしまった"幻覚の美少女"への恋心のような感情は、マティルドの中に残り続けた。


緒戦の結果を受け、次に解放軍は遠距離攻撃のみで帝国側の防壁を崩そうとしたが失敗。

その翌日、帝国軍はデー・クラフトの兵数名が防壁から出て、緒戦で斃れた騎士団員の遺体を解放軍陣地と防壁のほぼ中間に運んだ。

当然、解放軍側は罠ではないかと疑ったが、いろいろと調べてもそれらしき要素が見つからなかったため、遺体を回収してそれぞれの騎士団の本拠へ送った。


「もしかして、"あの子"が魔族側の高い地位にいて、やさしい子だからあのことをお願いしてくれたのかな…。

 ますます好きになっちゃう…」

遺体移送の手続きを済ませたマティルドはその日の夜、勝手な思い込みでさらに"幻覚の美少女"への恋慕の情を深める。

それでも、人前ではその想いを悟られないよう必死に隠し続けた。


結局、もう一度遠距離攻撃を仕掛けたものの成果の上がらなかった解放軍は、遠征の長期化を(いと)う各騎士団からの訴えを王国軍が受け入れて解散することとなった。

マティルドたちプランタン騎士団もサンタントワーヌへ引き上げたが、

「絶対、また会いに来るから…」

シャインヴェルトの影響により、頭の中がほとんど"道ならぬ恋"の妄想で占められているマティルドは、撤退前に独り言で再訪を誓った。


----


「うふふ…まだ今は狭い範囲ですけど、エリのシャインヴェルト…すごいです」

「もしかして…メイ、自分に使ってほしいの?

 物好きね…でも、まだ完全に制御できているわけではないから、だめよ」

エリスがメイから向けられた妖しげな視線の意味を指摘すると、メイは頬を赤く染めたが、お願いを断られてしゅんとしてしまった。

なお、今回解放軍を迎え撃つにあたって、エリスはズーセ・ゼーフェストゥングのバリカーデを1区画分後ろに移設し、ティグリ大陸に一番近い区画を大陸の地面とほぼ同じ高さまで下げてシャインヴェルトを仕掛けた。

遠距離攻撃を担当した者や後陣の者は端の区画が大陸と地続きに見える幻覚だけで済んだが、実際に端の区画へ足を踏み入れてしまった者たちは強度の幻覚に襲われ、正気を失った。

様々な手段で解放軍の動きをすべて把握していたエリスは、すでに"次の段階"に向けた準備を進めていた。

<2023/ 5/27修正>不要な改行を削除しました

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