28 騎士団の三姉妹と海上基地の三軍
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イルミナとエリスによって整備されたズーサーハーフェンには、早速ヘーアの部隊が海を渡って上陸した。
ただ、今回上陸した者たちは"先遣隊の第1陣"に過ぎない。
ティグリ大陸の征服が本格的に始まるまでにはかなりの年月をかけて準備を進める必要があり、"本隊"の到来は早くても約25年後を見込まれていた。
先遣隊の隊長に志願したゲネラールの1人・ダクマーは、配下とともにズーサーハーフェン近郊の駐屯地へ移動すると、駐屯地内にエリスの像を建てたいという申請をノクスに出したが、残念ながら却下。
「ズーセ・インゼルの"守護女神"に最も相応しいと思ったのですが、残念です…」
彼女が受けた精神的なダメージは大きく、2日間寝込み、一時は食事も喉を通らないほど酷い状態まで陥ったが、それでもエリスの"女神像"建立は認められなかった。
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マルテル王国最大級の都市・サンタントワーヌの一角にあるプランタン家の屋敷。
「アマージエンの魔族どもめ…卑劣な手段で我らの国土を掠め取るとは…」
「一刻も早く取り戻したいところだけど、拙速な行動は敵を利するだけよ」
「ならば、私が威力偵察をしてきましょう」
「フェリシテ、任せたわ。
マティルド、あなたには"本番"で思いっきり暴れてもらうから、今回は我慢なさい」
「はい…」
マルテル王国側でも領土を削り取られて黙っているわけにはいかず、奪回に向けた動きを始めた。
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ヘーアの"先遣隊第2陣"がズーセ・インゼルに上陸すると、先遣隊のうち半分はダクマーが率いて、マリーネによって建てられた海上基地"ズーセ・ゼーフェストゥング"に移った。
水の上に築かれた場所なのでマリーネにも地の利はあるが、やはり"地に足をつけた"戦いはヘーアのほうが得意である。
ティジーたちとともにやってきたデー・クラフトの部隊も引き続き基地に滞在しており、ズーセ・ゼーフェストゥングにはヴェルトヴァイト帝国の3つの軍が同居していた。
そんなズーセ・ゼーフェストゥングにマルテル王国の威力偵察部隊がやってきた。
プランタン家の次女フェリシテ・プランタンが率いる、プランタン騎士団から選ばれた精鋭である。
威力偵察部隊は矢や射程の長い魔法など、遠距離攻撃を仕掛けながら、ヘーアによってズーセ・ゼーフェストゥングの端に設置された"バリカーデ"に近づこうとする。
だが、ヘーアも相手の攻撃を防ぎながら遠距離攻撃をやり返す。
さらに、マリーネも射程に入ってきた敵に"二の矢"として"ヴァッサーシュトラール"などの"水攻撃"を浴びせる。
デー・クラフトはそれでも敵が前進してきた場合に備えて、空中で"三の矢"となる対地攻撃の準備を整えていたが、その状況に至ることなく、威力偵察部隊は撤退していった。
なお、広域における軍事作戦でヘーア、マリーネ、デー・クラフトの三軍が協調して動いたことはもちろんあるが、今回のような局所における三軍共同の軍事行動はこれが初めてだった。
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フェリシテは一度だけでなく合計3回、威力偵察を行った。
その成果を元に、プランタン家の長女ジャンヌ・プランタンが王都へ赴いて"国土回復"のための派兵を提案。
マルテル王国の上層部はそれを承諾し、王国直轄の軍と国内にあるいくつかの騎士団によって"解放軍"が結成された。
一方のヴェルトヴァイト帝国側では、マルテル王国の元幹部でイルミナの配下になっているアストリドから予めマルテル王国の情報を入手。
アストリドはイルミナの命令でズーセ・ゼーフェストゥング守備隊に加わっており、威力偵察部隊が初めて襲来した日に当該部隊の正体がプランタン騎士団だという報告を上げていた。
「私は"向こう側"にいた時、プランタン家と親しかったので、可能であればプランタン家の女子を私と同じ存在にしたいです…」
そう言って、プランタン家の三姉妹を堕とすための計画に、アストリドは積極的に加わった。
<2023/ 4/ 2修正>サブタイトルの数字(話数)が誤っていたため修正しました(正:28←誤:27)




