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空のエリス  作者: 長部円
第2部 3章
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27 深淵魔象と怪鳥たちの先陣

27


ヴェルトヴァイト帝国は女帝リリスの皇女三姉妹が率いる3つの軍によってアヴァロニア大陸を手中に収め、テストゥド大陸も征服可能な領域はすべて版図に加えた。

テストゥド大陸においてヴェルトヴァイト帝国の領土でない地域は属国であるチュンヤン王国、友好関係にあるニザヴェリルと、ニザヴェリルより北にある小国家群。

チュンヤン王国は大地の女神ヴェルティアが存続を強く望んだため、帝国側は同国が帝国の脅威にはならないよう、表向きは属国だが、実際はエリスの配下たちが支配している。

ニザヴェリルは土の性質を自分たちが住みよいように変えており、一旦変質した土はヴェルティアの加護を持つものでも元に戻せないという。

チュンヤン王国との境であるディユ谷より北はすでに"地質改変"がなされており、帝国としては征服しても帝国領として維持できる見込みがないことから、チュンヤン王国への不可侵も条件に加えてニザヴェリルと友好協定を締結した。

北の小国家群についても、ニザヴェリルの支配地域を越えて征服したところで飛び地となり維持に苦労することから、ニザヴェリルに任せる形で不干渉を決めた。


2大陸での治安維持を除く軍事行動がなくなったことで、次の標的は西にあるティグリ大陸となる。

だが、テストゥド大陸征服の時と同様、海を渡るため、主力のヘーアが動くよりも先に、ティグリ大陸である程度"足がかり"を築く必要がある。

テストゥド大陸征服の際、足がかりを築くための緒戦はマリーネだけで担ってきたが、今回は戦力が充実してきたエリスの"デー・クラフト"も加わることになった。

もちろん攻め込む先の陸上は完全なる敵地なので、イルミナ配下の"ツヴェルフ・ウンディーネン"とエリス配下の"ティーアクライス"からも1人以上参戦することとなった。


幹部会議"ヒンメルスコンフェレンツ"の最初の議題はそのことについてだったが、

「ティグリ大陸への先陣を任せるとしたら、ティジー…あなたしかいないわ。

 行ってくれるわね?」

「はいっ…先陣という大役にご指名いただき、ありがとうございます」

エリスは"ツヴェルフ"のティジーフォネを指名。

ティジーはアマージエン島の防衛を担っていた頃、何度も彼の大陸からの侵略を退けてきたが、攻めに転じる機会がこれまでなく、歯がゆさを感じていたという。

そのため、喜んでエリスからの指名を受諾。

ティーアクライスの他のメンバーはそのことを本人から聞いていたため、今回ティジーが指名されたことに異議はなかった。

さらに、ティジーの姉メゲーレとアレクトも召集され、ハルピューイェの3姉妹は揃って参戦となった。

なお、3姉妹はエリスの魔力を受けて、緒戦では"本来の姿"を隠すことになった。


エリスがアビュススへ行き、配下から参戦する者の主な顔ぶれをノクスとイルミナに伝えると、

「わたしの配下からはリンちゃんが参戦するわ。

 ティジーちゃんたちとは初対面ではないし、きっと仲良くやれるでしょう」

"ツヴェルフ・ウンディーネン"からは"ジレーネ"のロザリンデが出撃することになった。

「それに、メイぴょんが面白いものを創ってくれたから、わたしもここからちょっとお手伝いするわよ。

 エリスちゃんが生まれる前にアヴァロニア大陸南部の征服を少し手伝った時以来ね」

「イルミナお姉ちゃんが本気で放つ深淵魔象(アプグルント)、どれだけすごいものになるのか、楽しみです…」

「私はかわいい妹たちが、ヘーアの上陸に必要な"地均(じなら)し"をいつ終わらせてもいいように、ヘーアの戦力増強と戦闘訓練を進めておくわ」

「うふふ…」

三姉妹は揃って不気味に微笑んだ。


----


ロザリンデ、ハルピューイェの3姉妹とマリーネ、デー・クラフトの先遣隊は待ち合わせ場所に指定していたアマージエン島の北端で合流すると、ティグリ大陸方面へ向かう。

ロザリンデとティジーはメイが創り上げた魔道具"魔象玉"を持参していた。

これは、なかなか前線に出られない皇女たちが遠隔で魔象を使えるようにするためのものだが、1組につき遠隔で使える魔象は1つに限られる。

もっとも、イルミナには1つで十分だった。


イルミナから指示された通りの場所に到達したロザリンデは、魔象玉を両手で持ち、ティグリ大陸の方へ向ける。

"準備万端"であることを確認したイルミナがアビュススから魔象玉を介して深淵魔象(アプグルント)"ヴァッサーヴェルト"を発動させると、ティグリ大陸北部の低地に海水が次々と押し寄せ、陸地を浸食。

ついには大陸の北端に近い部分を"海"で分断させた。


「これが、世界の海を統べるイルミナ様の深淵魔象(アプグルント)…」

「比較的小規模な海水プールを造るところは見たことがあるけど、ここまで大掛かりなものはもちろん私も初めてよ。

 イルミナお姉ちゃん…すごい…」

ヒンメルスパラストから"ヴァッサーヴェルト"を見ていたエリスとメイは、深淵魔象(アプグルント)が引き起こした、世界地図が書き換わるほど大規模な地形の変動に驚き、イルミナの恐ろしさを改めて認識した。

ヴェルトヴァイト帝国軍は再びティグリ大陸へ近づくが、大陸側から迎撃してくる様子はない。

"つい先ほどまで陸地だった場所"に到達すると、マリーネは海面下に沈んだ地面に柱を打ち込んで"海上基地"を建てた。


そこから北にある分断された陸地にはハルピューイェの3姉妹とデー・クラフトが攻め込む。

三方から包囲されていても、地続きのままであれば南方からの援軍が期待できたかもしれないが、四方を"海"に囲まれている現状で、それを打破できる者は残念ながらいなかった。

メゲーレが"一番槍"として、"分断された陸地"に陣取るマルテル王国軍を攻撃すると他の者も続き、敵を蹂躙する。

事前にエリスから指示されていた通り、男は皆殺し、女はできる限り生け捕りにした。


デー・クラフトによって制圧された"分断された陸地"は女帝リリスによって"ズーセ・インゼル"と名付けられ、その後海上基地も"ズーセ・ゼーフェストゥング"という名がついてズーセ・インゼルと"地続き"になった。

マルテル王国の民が近寄らず、空き地になっていた海沿いの広大な土地では、リリスの指示でイルミナが指揮を執り、大規模な工事を実施。

完成した港湾都市"ズーサーハーフェン"には早速イルミナとエリスがやってきた。

「お母様が命名した島の名に因んで、エリスちゃんをイメージしたかわいい建物ばかりにしたのよ。

 さすがにエリスちゃんの石像や銅像は、汚されたり壊されたりしたらいやだから屋外には造らなかったけど」

「屋内には造ったのですか?」

「わたしたち専用の部屋だけよ…」

「ノクスお姉ちゃんとイルミナお姉ちゃんと私、それに専属侍女だけしか入れない所なら…いいです…」

「でも、石像のエリスちゃんよりも当然、本物のエリスちゃんのほうがかわいいわよ…」

「イルミナお姉ちゃん…えへへ…」

大好きな姉にかわいいと言われながら抱かれ、エリスは石像のことを忘れてイルミナに甘える。

「さて…そろそろ、お姉様の軍(ヘーア)の受け入れ準備をしないとね…」

「はい、イルミナお姉ちゃん…」

出番を待っている長姉のために、妹2人による、現状"箱物"でしかない港湾都市に命を吹き込む準備が始まった。

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