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空のエリス  作者: 長部円
第2部 2章
61/98

21 地獄谷防衛戦

21


チュンヤン王国最北端の地であるディユ谷。

チュンヤン軍のルベドたちが守りを固めるこの地に、黒い骨から作った防具で全身を覆った集団が現れた。

ニザヴェリル軍のドヴェルグである。


ウリンに一度滅ぼされる前からチュンヤン王国にとって"北の果て"だった谷の、伝統的な彼我の境をドヴェルグが越えた次の瞬間、ルベドたちは一斉に石礫(いしつぶて)を放った。

石礫は"黒い骨"を貫通し、数発被弾したドヴェルグは仰向けに倒れていく。

致命傷を負うまでにルベドに接近しようと試みるドヴェルグもいたが、その挑戦はあえなく失敗に終わり、ドヴェルグたちは誰一人としてルベドにかすり傷さえも与えられないまま、指揮官による撤退命令を聞くことになった。

ニザヴェリル軍の指揮官が撤退を指示した際に、隣に侍っていた小柄な"補佐官"が特殊能力のようなものを発動させると、倒れていたドヴェルグたちが不自然な動きで起き上がり、仲間とともに撤退していく。

ニザヴェリル軍が撤退した後、地面には"黒い骨"のかけららしきものが残されていた。


ルベドとドヴェルグの戦いを物陰から観察していたミヤとマナは、戦闘が終わるとルベドたちに近寄る。

「アスミ、いい戦いぶりだったね」

「ありがとう、ミヤ」

ルベドたちの部隊を率いるアスミとミヤ、マナはいずれも元ウリンの女性戦闘員で顔見知りだった。

「それで、この黒いかけらはルベドの力で浄化できる?」

「ええ、問題ないけど…やっぱりそのままにしておくとまずいものなのね」

「うん、闇属性の魔力で少しずつ汚染される。

 ミヤの"目"で解析したから間違いないよ。

 谷の向こうはもう手遅れみたい」

ディアボロスになったミヤの目は、見た者の精神を操ったり壊したりできるだけでなく、物質の解析もある程度できるよう、エリスやメイによって強化されている。

ルベドたちはミヤの言葉を信じ、ディユ谷が汚染される前に、ヴェルティアの眷属としての力で浄化を行った。


「あと、奴らが撤退する時の"不自然な動き"だけど…」

「あれも、ヴェルティア様から授かった力で止められるわ。

 ミヤが"情報"をくれたらだけど」

「あげないっていったら?」

「泣いて、女王様に言いつける…」

「アスミの泣き顔を見てみたいけど、冗談はほどほどにするね」

ミヤはアスミに、彼女が必要とする情報を伝えると、マナとともにエリスへの報告のため一旦ヒンメルスパラストに戻った。


ヒンメルスパラストで、ミヤと唇を重ねてドヴェルグの"視覚情報"を得たメイは、エリスにも"口移し"で情報を共有する。

「"図書館(ビブリオテーク)"にも、"黒い骨シュヴァルツェ・クノッヘン"の武装を身に着けた北方勢力について詳しく記した書物がありますので、少しお待ちください」

メイは瞼を閉じて、頭の中にある膨大な"図書館(ビブリオテーク)の知識"から"黒い骨"についての情報を引き出すと、自分が考えていることを加えてから、再び口移しでエリスに伝えた。

「なるほど…これなら、ニザヴェリルが同じような攻め方を続けてきてくれれば、次の次で一網打尽にできるわね」

「今のうちからある程度準備を進めておいて、ミヤが次の戦いで"補佐官"の特殊能力をさらに詳しく解析してきてくれたら、その情報をもとにして"仕上げ"を行います。

 その前にルベドたちにはこれを使ってもらって、ニザヴェリル軍にこちらの意図をギリギリまで悟られないようにしないと。

 ミヤ、お願いね」

「はい、メイ様…」

敬慕するメイからキスをされた嬉しさで表情を緩ませたまま、ミヤはメイからかけられた言葉に応え、"何らかの力"が籠められた球体を受け取った。


----


4日後、再びニザヴェリル軍が国境を越えて侵攻。

片手に黒い骨の盾を持ち、前回と同じ動きで前進するドヴェルグと、同じように見えて微妙に違う動作のドヴェルグがおり、おそらく後者が、前回ルベドたちが"倒したはず"の者たちだろう。

盾で防げないほどの高速度で飛んできた石礫を受け、前者は次々に倒れていくが、後者は石礫を何発受けても倒れず前進する。

ほかの遠距離攻撃も試したが、有効打にならなかった。

だが、ルベドたちの部隊でアスミの"副官"を務めているユカが、数人のルベドたちとともにヴェルティアへ祈りを捧げると、それまでどんな攻撃を受けても倒れなかったドヴェルグたちが一斉に崩れ落ちた。

動いているドヴェルグの数は攻めてきた当初の8分の1くらいまで減り、たまらずニザヴェリル軍の指揮官は撤退を指示。

"補佐官"がユカたちの祈りで動きを止めたドヴェルグと今回新たに倒されたドヴェルグを、さらに強力な"闇の力"で操り、北方に引き上げていった。


"補佐官"だけをずっと観察していたミヤは、ニザヴェリル軍が完全に撤退するとアスミたちのもとへ駆け寄る。

「今日はこの前のような浄化ではなく、エリス様から預かったこれを使ってほしいの…」

「いいわ…使い方を教えて」

メイから預かった球体で闇の魔力が抑制されたことを確認し、アスミたちに伝えてから、ミヤはディユ谷から離れた。


帰還したミヤと唇を重ね、"補佐官"の特殊能力を把握したメイはファニーにも情報を共有し、翌日、2人による"仕上げ"が施されて対ドヴェルグ用の"秘密兵器"が完成。

ミヤは"秘密兵器"の使用者に設定されたマナを従えてディユ谷に戻ると、ルベドたちとともにドヴェルグ迎撃の準備を進め、それが済むと、2度の戦いのときと同じ場所へ潜んだ。


3日後、三度(みたび)襲来したニザヴェリル軍は、指揮官と"補佐官"以外のドヴェルグ全員が、ルベドたちの攻撃をものともせずに前進してくる。

前回の戦いで大半のドヴェルグを止めた"ヴェルティアへの祈り"も効果はなかった。

だが、闇の力で操られて前進し続けたドヴェルグたちがもう少しでルベドたちとぶつかりそうなところで、マナは"秘密兵器"を発動。

ドヴェルグたちの前進が止まると次の瞬間、同士討ちが始まった。

一転して窮地に陥った指揮官は逃げることもできずに、味方だったはずのドヴェルグに襲われてあっけなく絶命。

"補佐官"は地面にぺたんと座り込んで、自分の周りに障壁を展開してドヴェルグの物理攻撃を防いでいるが、気が動転してそれ以上何もできない状況だった。


マナに指示して彼女が"秘密兵器"で支配しているドヴェルグに"補佐官"を包囲させたまま、ミヤは武装"ゲルベ・カッツェ"の一部である"猫の爪(カッツェンクラレン)"で"補佐官"の障壁と身に着けていた黒い骨の武装を破壊。

武装を強制的に解除された"補佐官"の素顔は、エリスに少し似た感じの小柄な女性だった。

小柄な女性は障壁と武装が容易く破壊されたことにショックを受け、眼球を上転させて失神してしまった。


「この子を含めてドヴェルグは全員ミヤたちが持ち帰るけど、いいよね?」

「ええ、持って帰ってくれたほうが助かるわ」

「もし"第2陣"が来そうだったらすぐにラヴェンデルシュタットまで知らせてね」

「わかったわ」

ニザヴェリル軍の侵攻を防ぎ切ったルベドたちに、"第2陣"への警戒を忘れないよう釘を刺してから、ミヤとマナは"戦利品"のドヴェルグたちとともにディユ谷を出発し、ラヴェンデルシュタットへ向かった。


ミヤたちがラヴェンデルシュタットに到着すると、チュンヤン王国へ派遣されずに残っていたシュヴァルツェ・フェーダンの全軍が出迎えた。

マナと彼女が支配しているドヴェルグたちはシュヴァルツェ・フェーダンが軍施設へ誘導し、小柄な女性をお姫様抱っこしたミヤはベルタが州政府庁舎の地下に案内。

地下の会議室にはエリスと4人の専属侍女が勢揃いしていた。

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