6 初めてのプレゼントとツヴァイテたち
6
「おはようございます…エリス様…うふふ…」
エリスが目を覚ますと、メイからの朝の挨拶。
だが、声の主は体をふらふらさせており、目の焦点が合っていない。
エリスはそんな、まだ半分眠っているかわいいエルステの唇を奪う。
「これで目が覚めたかしら…おはよう、メイ」
「エリス様…おはよう…ございます…」
意識が完全に覚醒したメイは顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
「頭の中はどう?」
「はい…わたくしの頭の中は…エリス様で…いっぱいです…」
「そうじゃなくて、昨日頭の中に入れたもののことよ」
「すみません、言葉足らずでした…。
昨日得たたくさんの有用な知識を、どうやってエリス様のために役立てようか、ということで頭の中がいっぱいなのです」
「うふふ…そんな、健気なメイが大好きよ…」
エリスは時間の許す限り、メイの小さな体を抱きしめ、白くて長い髪を撫で続けた。
朝食後、2人はパンゲーアの屋上へ行き、エリスはメイをお姫様抱っこして空中に浮かび上がった。
「メイ…ここなら2人きりよ…」
「はい…エリ…」
「メイの頭の中には、海の向こうにある人間たちの国の情報も入っているのよね?」
「はい、書物に記されていた範囲であれば…」
「今度、人間たちの国の方へ飛んでいく時は、メイにいろいろと案内してほしいな。
そのための足掛かりになる"力"を手に入れたのでしょう?」
「はい…エリに2度"壊された"ことで、"シェプフング"の能力を得ました…。
初めて"創る"ものはもちろん…エリに献上するつもりです」
「それって、すぐにできる?」
「さすがに空中でお姫様抱っこされた状態では無理ですが…屋上に降りてからなら…」
「わかったわ…」
2人は、もう少しだけ空中での"2人きり"を楽しんでから屋上に降り立った。
2人きりの屋上で、エリスが注目する中、メイは手に入れたばかりの能力"シェプフング"を初めて発動。
先ほどまで何もなかったメイの掌の上には銀色の小さな冠が現れた。
「エリス様…これがわたくしの"初めての作品"です。
まだわたくしも"シェプフング"を完全に把握しているわけではないので、不測の事態を避けるため、そのディアデームには何の効果も付与していません」
「でも、メイが"創った"からには、"ただのディアデーム"ではないのでしょう?」
「はい…"今は"何の効果もありませんが、後でいくらでも追加効果を付与できるようにしています…」
「うふふ…メイからの初めての"プレゼント"…ありがたくいただくわ…」
メイからディアデームを受け取ったエリスは部屋に戻ると早速鏡の前で頭の上に乗せ、とても嬉しそうな顔をしていた。
そんな"お姫様"の様子を見ているメイも、自然と笑顔になっていた。
----
数日後、メイといつもの朝の挨拶をして、部屋着に着替えてダイニングへ向かうエリスの後を、クロエもいつも通りついていく。
朝食を終えて部屋に戻ると、エリスは少しメイと会話を交わしてから、部屋の片隅にいたクロエに声をかけた。
「クロエ…大事な話があるのだけど、いいかしら?」
「はい…」
「ならば、メイと一緒についてきて…」
3人で向かった先は、女帝リリスの執務室。
リリスはこの日に3人がこの場所を訪れた目的をすでに知っている。
リリスの前で向かい合ったエリスとクロエ。
エリスはゆっくりと、クロエに語りかけた。
「クロエは私が生まれた時からずっとそばにいてくれて、私が何も言わなくてもずっとついてきてくれたけど、私はそれを当然と思っていて、あなたに何も返さず、エルステにもしてあげられなかった…。
でも、"あの言葉"はあなたを困らせるだけだから、感謝の言葉だけにするわ…クロエ、今までありがとう…。
それと、これからは専属侍女の"2人目"として私のそばにいてほしいの…。
これは、生まれながらのディアボロスであり、ずっと私のそばにいてくれたあなたにしか務まらないのだけど…、受けてくれるかしら?」
クロエは両手を口に当て、涙を流していた。
エリスはクロエの気持ちが落ち着いて、答えをくれるまで待った。
「はい…謹んで…お受けいたします…。
お嬢様が望む限り、どんな形であってもお嬢様のお側にお仕えいたします…」
この後エリスがクロエに抱きついて唇を重ね、クロエは正式にエリスの"ツヴァイテ"となった。
「ねえ、クロエ…ぎゅってして」
「はいっ!」
クロエは大好きなお嬢様の求めに応じて、小柄で愛らしい主人の身体をぎゅっと抱きしめた。
「エリス様、ちょっとよろしいでしょうか」
エリスと2人の専属侍女がリリスの執務室を退出しようとしたところで、呼び止めた者がいた。
「何かしら、ユリアネ」
声の主はリリスのエルステであるユリアネだった。
「エリス様の専属侍女がお2人になられたとのことで、次の"ドリッテ"もしくは"フィアーテ"の候補として、会っていただきたい者がおります」
「その子は、あなたと同じ"ヴァンピーリン"かしら?」
「ご明察の通りです」
ユリアネは"女吸血鬼"で、白い肌に長い銀髪、ブラッディレッドの瞳という容姿。
リリスとユリアネから話を聞いたエリスは、
「ユリアネのような美しさと年相応のかわいさを併せ持つヴァンピーリン…是非とも会ってみたいわ」
明後日にヴァンピーリンの少女と会うことを了承した。
昼食後は2人の姉に、クロエをツヴァイテにしたと報告。
「クロエは良くも悪くも自己主張が控えめだから、ツヴァイテには適任ね」
「クロエちゃん、おめでとう…エリスちゃんへの想いが報われてよかったわね…」
「はい…"ただエリス様のそばにいるだけの侍女"では、ある日突然エリス様と離されてしまうかもしれませんでしたが、今こうしてエリス様の正式な専属侍女にしていただけて、これでずっと大好きなエリス様のお側にいられるという…」
ノクスの評価コメントに続いて、イルミナから祝福の言葉をかけられたクロエは途中で声を詰まらせる。
「…うれしくて…幸せで…」
嬉し涙を流しながら少しだけ今の気持ちを言葉にしたクロエだったが、それ以上は続かなかった。
床にぺたんと座り込んで泣き続けるクロエの背中を、エリスは優しく擦る。
「エイぽん…興味なさそうだけど、スーちゃんと同じようにクロエちゃんとも仲良くしないとだめよ」
「承知しました…イルミナ様のご命令であれば、クロエと仲良くします」
「スアデラはクロエと仲良くできそう?」
「私はあのようなタイプの子も好きですから、いろいろと仲良くしたいと思っていますよ…後はあの子次第ですね…」
2人のツヴァイテはクロエへの興味について対照的な反応を示したが、話をしてみてなんとなく気が合ったのか、スアデラが主導する形で3人は仲良くなった。
当初は3話でクロエをツヴァイテにする予定でした。
諸々の事情で6話まで延びてしまいましたが、ようやくエリスの専属侍女も2人になりました。