表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
空のエリス  作者: 長部円
第2部 2章
58/98

18 鼎談と離脱

18


ポーラはアヴァロン王国軍の一員として各地を転戦していたため、エリスが"初陣"を飾ったセントメアリにいなかった。

後にアヴァロニア大陸北部でのヘーアとの戦いに敗れて捕らえられ、元人間(アントロポス)でもあるミネルヴァに誘降を持ちかけられても、

「アヴァロン王国からの殊恩に浴したベネディクト家の者として、アヴァロン王国がこの世にある限り、魔族に降るわけにはいかない」

と言っていたが、王国が滅亡し、ミネルヴァが何度目かの説得を行うと、

「アヴァロン王国が滅びた今、あなたからの誘いを断る理由はないわ…」

ポーラは潔くヘーアに降り、元の人格をほとんど残した状態で"兵器(アンドロヴァッフェ)"にされた。


テストゥド大陸における戦いでかなりの戦果を挙げ、ヘーアの中でも一目置かれる存在になったポーラは、エリスのフィアーテ・ファニーの姉であることから、今回ノクスからエリスへの使者に任じられた。

そんなポーラを、ファニーは"お姉様"と呼んではいるものの、人間(アントロポス)だった頃から疎遠で、ポーラがヘーアに加わったことを知ってからも私的な接触は皆無。

姉妹とは思えない、他人行儀な接し方の2人だったが、エリスはあえてそれに触れなかった。


「早速だけど、用件は何かしら?」

「まず、エリス様に3日後、ノルトシュテルンブルクまでお越しいただきたいというノクス様からの伝言です。

 すでにイルミナ様にもお声をかけ、承諾を得ているそうです」

「ならば私も、もちろん行くわ」

エリスに大好きな姉2人との鼎談の誘いを断る理由はなかった。


「次に、レニ殿のことですが…」

レニはもともとノクスの配下で、故あってエリス配下に移り、今はノインラターネンの"フィーア"に任じられている。

「あなたが私の配下となる代わりに、レニを返してほしいと…」

「その通りです」

「即答はできないわ…でも、ノルトシュテルンブルクで必ず回答するわね」

「承知いたしました。

 それと…今の件に少しだけ関連したお願いが…ありまして…」

「何かしら?」

「今日だけでも…かわいい妹と一緒に過ごしたいです…。

 今日はずっと我慢していましたが、あまりにもかわいすぎてもう限界です…」

「主に似たのかしらね…。

 それで、お姉ちゃんからのお願い…かわいい妹はどうする?」

顔を真っ赤にしたポーラと自分の姉を重ね合わせてから、エリスはファニーに尋ねる。

「今日だけなら…いいよ…」

「えへへ…かわいいステフィー…」

下を向きながら姉の願いを受け容れたファニーに、表情を緩めたポーラが抱きついた。


ファニーはヒンメルスパラストの自分の部屋にポーラを案内し、扉を閉めると、今度は自分からポーラに抱きつく。

「ポーラお姉様…ずっと寂しかった…」

「ステフィー…」

「今の私はステファニーではなくシュテファーニエだから、ファニーって呼んで…」

「わかったわ、ファニー…」

長い間疎遠で、その身がディアボロスと兵器(アンドロヴァッフェ)に変貌しても、2人が姉妹であることに変わりはない。

時間の許す限り、ファニーはポーラに甘え、ポーラはファニーを愛でた。


----


翌日、エリスは専属侍女と三賢女(ドライヴァイゼン)を集め、レニとポーラの"交換トレード"について諮ったが、意外にも8人の意見は全員一致したため、ほとんどの時間はノクスへの返答内容の調整に費やされた。


そして2日後、3姉妹はノルトシュテルンブルクの中心に建つ宮殿"グローサーヴァーゲン"に集まった。

鼎談を行う部屋には3姉妹とそれぞれのエルステだけが入室を許され、他の者は別室で待機している。

もちろん鼎談の内容は大半がテストゥド大陸に関することだが、唐突にノクスが話題を変えた。

「そういえばエリス、レニのことは考えてくれた?」

「はい、ノクスお姉ちゃん…レニとポーラの件ですが…お断りします」

「なぜ?」

「レニは純粋なディアボロスで、ノクスお姉ちゃんの下にいた時から重用されていた者。

 私もこれまで高い地位につけていました。

 たとえポーラが兵器として有能でも人間(アントロポス)ですから、帝国での"立場"を考慮すると釣り合いません。

 このまま行うと、ディアボロス軽視として関係者全員が(そし)りを受けるでしょう。

 ただ、レニがノクスお姉ちゃんの下に戻るだけであれば話は別です。

 私としては、このまま留まってほしいですが、本人が望むのであればそれを尊重します」


「及第点ね」

「やはり、私を試していたのですね…」

「最近のエリスちゃん、人間(アントロポス)のために動いていることが多かったから…」

「この大陸でもアヴァロニア大陸でも、数で言えば我らディアボロスよりも人間(アントロポス)のほうが多いです。

 帝国による2つの大陸の支配を確かなものにするためには、人間(アントロポス)寄りに見える政策を進めてでも、人間(アントロポス)を我らにとって使い勝手の良い存在にする必要があります。

 ただ、母様の後継者となるノクスお姉ちゃんの立場では人間(アントロポス)寄りの政策はやりにくいので、母様の専属侍女を介して母様の意を()み、私の権限が及ぶ範囲で行っているのです。

 もちろん、できる限りお姉ちゃんたちには秘密にしておくよう言われていましたが、もう隠し立てはできないですね…」

「それは母上からではなくて、エクレアから言われたのよね?」

「はい…その通りです」

「神々のご意思であれば仕方ないわね…」

レニとポーラの件はそこまでで終わりとなり、次の議題に移った。


鼎談が終わると、3姉妹はレニたちが待機していた部屋に移動。

すでにレニはノクスから復帰を打診されており、エリスの返答次第で話が進むことも聞いていた。

「エリスはあなたの意思を尊重すると言っていたけど、レニは私とエリス、どちらを選ぶ?」

「ノクス様を選びます…」

「そう…残念だけど、あなたがそう決めたなら仕方ないわ。

 もしノクスお姉ちゃんの配下でいづらくなったら、いつでも戻ってきていいわよ。

 ノインラターネンの地位は保証できないけど」

「はい…今までお世話になりました…」


レニが部屋から退出すると、今度はファニーがノクスに近づいた。

「ノクス様…ポーラお姉様のこと、ありがとうございました…。

 "あの日のポーラお姉様"は"仮初(かりそめ)の人格"でしたが、それでも姉妹らしい接し方ができて、うれしかったです…」

「喜んでくれて何よりだわ。

 あなたが望むなら、これからもたまに"姉妹でのイチャイチャ"をさせてあげてもいいわよ」

「…お願いします…」

「欲望に正直なところはディアボロスらしくていいわね…」

「えへへ…」

それからしばらく、ノクスはファニーを愛でていた。

「お姉様…羨ましい…わたしもファーにゃんとイチャイチャしたい…」

イルミナもノクスと交渉して、一定時間ごとに交替でファニーをかわいがる。

2人が満足したところでファニーは解放され、エリスたちは姉たちより先にノルトシュテルンブルクを後にした。


----


レニの離脱で、ノインラターネンの欠員はフィーア、ゼクスの2名となった。

現メンバーの構成は魔女(ヘクセ)が2名、元人間(アントロポス)が5名。

エルステのメイを筆頭に多数の元人間(アントロポス)を重用しているエリスでも、さすがにノインラターネンの9名中7名を元人間(アントロポス)が占めることは好ましいと思っていない。


女帝リリスのエルステであるヴァンピーリンのユリアネに相談したが、

「将来有望なヴァンピーリンはいるのですが、すぐにノインラターネン候補として推薦できるほどの子は残念ながらおりません…。」

 エリス様から戦力拡充についての相談を受けた旨は陛下にお伝えしておきます」

期待通りの回答は得られなかった。


すでにエリスの配下にいるディアボロスで昇格させるあてもなく、やはり人間(アントロポス)から人材を確保するしかないという考えに傾きかけたある日、エリスはリリスから呼ばれてパンゲーアにやってきた。

エリスがメイとクロエを従えてリリスの私室に入ると、リリスは左右にユリアネとツヴァイテのルイゼを従えて待っていた。

「エリス…条件付きで私から、あなたにふさわしい戦力を譲るわ。

 ルイゼ、エリスたちを案内しなさい」

「かしこまりました」

ルイゼに先導されたエリスたちが、これまで足を踏み入れたことのないパンゲーアの深層にある部屋にたどり着くと、部屋の中にいた、天使のような風貌の女性たちがエリスたちに視線を向ける。

部屋の中央付近で振り返ったルイゼが、"天使たち"をエリスたちに紹介した。

「この方たちは、陛下が神々から預けられた"ゲファレネ"です」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ