16 政治の担い手
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アヴァロニア大陸に住む人間は世代交代が進み、アヴァロン王国が健在だった頃を知る者はだいぶ少なくなった。
そのため、大陸の北半部における人間とディアボロスとの共生はかなり進んでいる。
条件付きながら、人間のままディアボロスと結ばれ、子を生した者もいる。
すでにエリスの侍女にも、メイやファニーのような"元人間のディアボロス"ではなく、ディアボロスと人間の間に生まれ、両者の血を引く者は数人採用されているが、来月には初めて両者の血を引く成人女性がセントメアリの行政機関に入所する。
「これを機に、オストシュヴァルツ州でも同じ条件で許可するのですね」
「ええ…」
「メイ様は、どう思われますか?」
「"三賢女"も賛同していますし、わたくしがエリの考えに反対する理由はないです…」
メイはヘレーネからの問いに即答。
エリスのドライヴァイゼンは3人とも、皇族や貴族と接する"宮廷内政治"の心得はあっても、平民相手の政治は未知数。
そのため、あくまでデー・クラフトの参謀という立場からの意見としてエリスに賛同した。
"人間とディアボロスとの共生"関連以外にいくつかの政策を決めたところで"初めての会議"は終了。
エリスはため息をついた。
「それにしても、私の自我が目覚めて間もない頃、お姉ちゃんたちと"お城デート"した後に自分の城を造ると言って、こうしてヒンメルスパラストを手に入れたけど、ヒンメルスパラストの城下町であるセントメアリはともかく、北の大陸をお姉ちゃんたちと分割統治まですることになるとは思わなかったわ…」
「リリスも、エリスに政治を任せることは想定外だったと言っていたですの」
エクレアは一呼吸おいてから言葉を続ける。
「だから、しばらくはエリスが望むことを現地で施行する政策に落とし込む必要があるから仕方ないけど、オストシュヴァルツの統治が軌道に乗ったら、政治的なものはできるだけ私が引き受けるですの。
名目上はエリスの領地ではないから、どうしてもエリス自身が執り行わないといけないことはないですの」
それからエクレアはメイに顔を向けた。
「メイ、本来は次期女帝でない皇女のエルステに任せることではないのだけど、あなたは元人間の王族として、民衆を統べる資格と知識を持っているですの。
エリスに不足している要素は、エルステとしての立場を逸脱しない範囲であなたが補ってほしいですの」
「はい…具体的にどうすればいいかはともかく、エリのためなら…」
エクレアからの要請に、メイは戸惑いながらも応じた。
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オストシュヴァルツ州で実際に各地域の行政を担う官僚・職員は様々な手段で確保したため、不足していない。
一方、州政府の人員はルリの元部下や現地の人間を充てたほか、アマージエン島から女帝リリスの勅命によって数人出向させたものの、それでも管理職が不足していた。
「メイ…あなたが欲しいですの…」
「あの…わたくしはエリのものなので…エリそっくりの顔で言われても…困ります…」
突然エクレアから"あなたが欲しい"と求められて戸惑うメイ。
「言葉足らずだったですの…。
メイをベースにして、オストシュヴァルツ州政府の管理職を任せられる者がほしいですの…。
もちろんメイそっくりの小柄でかわいい子だといろいろと支障があるから、身長と内政の才はヘレーネ、他の要素はメイ、といった感じでエリスに揺るぎない忠誠心を抱く者がいいですの…」
「わかりました…それならわたくしとアンネでできると思いますが、準備にあたって、アンネも加えてもう少し具体的な話をお聞かせください」
結局メイ、アンネ、エクレアだけでなくクロエとファニーも加えて打ち合わせを重ね、エリスの専属侍女4人によって、メイとヘレーネを足して2で割ったような存在が創られ、マリーアと名付けられた。
「メイ様のお姉様と言われたら信じてしまいそうなくらいの、メイ様に似た美しさ…ドキドキが止まらないです…」
そう呟いたファニーをはじめ、メイを慕う者たちはマリーアの美貌に惹かれた。
「自分の任務が疎かになったり、マリーアの仕事の邪魔になったりしなければ、ラヴェンデルシュタットへ会いに行ってもいいわよ」
エリスが許可すると、ほぼ毎日のように誰かがマリーアのもとを訪ね、マリーアもそれによって自然に同僚や民衆と接することができるようになり、"政治のためだけの人形"ではなく、"本物のディアボロス"と遜色ない存在になった。




