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空のエリス  作者: 長部円
第2部 2章
55/98

15 戦後処理とこれから

第2部2章の本編はサブタイトル通り、戦後処理から始まります。

15


テストゥド大陸の大半を征服したヴェルトヴァイト帝国は、アヴァロニア大陸と同様、新たな領土をいくつかの州に分けた。

まず、ズートリヒェス・ドライエクを含む、本格的な征服が始まる前から帝国が占拠していた地域は"プレヤーデン州"と名付けられ、アヴァロニア大陸のミッテルアヴァロニア州北部と同様に人間(アントロポス)とディアボロスの雑居は許可されているが、法律もアヴァロニア大陸とほぼ同じものが適用される。

プレヤーデン州の北にはヴェストシュヴァルツ州、東にはオストシュヴァルツ州が設けられ、この2州で適用される法律はバグロヴァヤ時代の法をもとにしつつも、かなりの部分に帝国の手が加えられた。


一方、密約によってバグロヴァヤから譲られた地域とウリンが一時的に支配していた地域は"ノルトシュヴァルツ準州"という仮称がつけられているものの、実際は文民による州としての統治が確立されておらず、ヘーアによる軍政が布かれている。

これは、当該地域の民心を掌握しきれていないこともあるが、今後しばらくはバグロヴァヤによる"失地回復"の動きに備える必要もあるため。

ウリンの領域が大陸北部の狭い範囲だけに縮小すると、密約に含まれていなかった被占領地域について、バグロヴァヤ国内で多数の有力者が"我が国の固有領土であり、魔族どもは速やかに明け渡すべきだ"と主張しているが、こうなることはノクスも、女帝リリスも承知の上で密約を結んでおり、ヴェルトヴァイト帝国からバグロヴァヤへ侵攻するつもりはないものの、バグロヴァヤ側から"準州"へ軍が動くようであれば応戦できる体制を整えていた。


なお、プレヤーデン州は本格的な征服が始まる前からマリーネの軍政が布かれていたこともあり、今後もマリーネの関係者が行政を担い、事実上"イルミナの所領"とされることになったが、州都はズートリヒェス・ドライエクではなく新たに築いた城郭都市カステンブルクにした。


オストシュヴァルツ州は、復活したチュンヤン王国に様々な支援を含めて関わることを考慮して"エリスの所領"とされ、ヘレーネの見立てで、ウリンから寝返らせたルリの部下のうち何人かが州や主要都市の行政を担う立場へ転身。

ルリを隊長とする"元ウリン人部隊"も、実質的にはほぼそのままだが"シュヴァルツェ・フェーダン"という名称を与えられ、普段はオストシュヴァルツの州都としてメイが造った"ラヴェンデルシュタット"に駐在するようになった。

デー・クラフトの構成員のうち飛行ユニット"ベーゼン"と"フリューゲル"を扱える"空戦隊"は未だ半分にも満たない。

シュヴァルツェ・フェーダンも、将来は全員が飛行ユニットを使えるようにした上で空戦の主力にするつもりだが、当分は今まで通りの陸戦部隊として運用しつつ、飛行ユニットの習熟訓練を行わせるようにしていた。


"ノクスの所領"とされたヴェストシュヴァルツ州では大きな沼の畔に拠点が築かれ、当初はその地をノイエンドルフと呼んでいたが、規模が大きくなると、正式な町の名を沼に因んだ"グロースズンプ"に改称。

ノクスはヴェストシュヴァルツの州都に定めたグロースズンプのほか、オストシュヴァルツ州との境に近く、テストゥド大陸の重心となりそうな位置に城郭都市ノルトシュテルンブルクを築かせ、さらにノルトシュテルンブルクとその周辺をテストゥド大陸に駐屯するヘーアの拠点"ミドガルド特別自治区"とした。


----


セントメアリでマルティナとルーシアを誘ってデートをしていたエリスとメイがバンベリ家の墓地の前を通ると、墓地から出てきたラヘルとリューディアに遇った。

エリスたちがしばらく墓地の前で足を止めていると、メイの表情が少しだけきついものになる。

メイにとってバンベリ家は仇敵とも言える者たちで、ラヘルとリューディアがセントメアリやエリスの側にいることを許されている以上、死者に鞭打つ行為をあえてして彼女たちを悲しませるつもりは毛頭なかったが、当然のことながら墓地への立ち入りだけは拒み続けていた。

そんなメイの元人間(アントロポス)らしい感情の発露をエリスはとても愛おしく思った。


ディアボロスは人間と比べてかなりの長寿であり、ディアボロスによって"兵器(アンドロヴァッフェ)"にされた人間も主であるディアボロスから魔力を供給されている限り、兵器にされた時点での若さを保ったまま生き続けることができる。

だが、セアラ・バンベリは妹2人のようにディアボロスと化すことも、マルティナのような"兵器"にされることもなく、アヴァロンの王族バンベリ家で"最後に生き残った人間"として天寿を全うした。


メイに殺されたヘンリー4世と"最後の国王"トマス、エリスに殺されたエドワードの扱いはセアラに任され、生前のセアラは質素な墓に父と弟を葬った。

セアラの墓は妹たちによって他の王女と同様の規模で造られたが、墓地を訪れた者は、彼女の墓前は常に塵芥1つない清潔な状態が保たれていて、彼女の父や弟の墓だけでなく歴代の王や妃の墓よりも立派に見えたと語る。


漸くエリスたちは墓地の前から移動すると、"行政府庁舎"の1つとしてエリスたちが自由に使える建物の一室に入った。

全員が入室したことを確認し、ドアを閉めると、エリスはすぐにメイの唇を奪う。

「メイ、ごめんなさい…」

「エリ、あなたの思いは理解しました…」

エリスが口づけを通してメイに、自分が抱いていた様々なものを伝えたため、2人の唇が離れた後、メイはエリスに陰りのない笑顔を見せた。

セントメアリの"プレジデンティン"で、オストシュヴァルツ州の行政顧問も兼務しているヘレーネが恋人のイーリスを伴ってエリスたちの前に参じると、"エリスの所領"の今後の統治方針を決める会議が始まった。

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