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空のエリス  作者: 長部円
第2部 1章
51/98

11 "西"との小競り合い

11


ヘーアがリューリク平原一帯に侵攻した頃、ヴェルトヴァイト帝国の"本国"では別の"軍事衝突"があった。

アマージエン島の西側を巡回していたマリーネの部隊が不審な武装勢力と遭遇。

相手から攻撃を仕掛けてきたため応戦すると、相手は一旦退いてから再度攻めてきた。

応戦した部隊が相手に誘い込まれるようにアマージエン島から離れていったため、別の部隊が追いかけると、誘い込まれた部隊に相手から魔法のようなものがかけられ、その部隊は追いかけてきた部隊を攻撃し始めた。

追いかけた部隊は"味方"を攻撃するわけにもいかず、防戦一方だったが、武装勢力に操られた部隊は突然同士討ちを止め、武装勢力とともに西へ向かう。


このまま追いかけたら再び同士討ちが始まったり、自分たちも操られたりするという懸念から、ここまで追いかけてきた部隊はそれ以上アマージエン島から離れず、武装勢力を見送っていたが、彼女たちの後ろからジレーネのロザリンデが率いるマリーネの精鋭部隊がやってきて武装勢力に急接近し、今度はロザリンデの能力で武装勢力側が同士討ちを開始。

操られていた部隊の隊員はロザリンデが正気に戻し、3部隊で武装勢力を殲滅した。

もちろん、斃した敵は帝国の"人材"として活用するつもりである。

「フフフ…我らを同士討ちさせようとしたから、こうして同士討ちで滅ぼしてあげたわ…」


ロザリンデたちがアビュススに"戦利品"を持ち帰ると、イルミナが出迎えた。

「お疲れ様、リンちゃん…やっぱり"ヴァイセ・カッツェン"の"偵察部隊"だったようね…」

「はい…生け捕りにはできませんでしたが、これはこれで、我らの役に立ってもらいましょう…」

"ヴァイセ・カッツェン"とはアマージエン島の西にあるティグリ大陸で最大の勢力を誇るマルテル王国の軍を指す。

当のマルテル王国軍は"ティーグル・ブラン"を自称しているが、ヴェルトヴァイト帝国では"虎"ではなく"猫"だとして、"白猫たち"を意味する"ヴァイセ・カッツェン"という蔑称を用いている。

「それはそれとして、今のところは偵察で済んでいるけど、テストゥド大陸からヘーアが戻ってくる前に"ヴァイセ・カッツェン"の主力がやってくる事態だけは避けないといけないわ…。

 リンちゃんたちだけでなく、ティグリ大陸でマルテル王国と対立している国々にも動いてもらうことになるから、お母様にも相談しないと…」

「イルさま、しきゅっ…」

イルミナのもとに駆け寄ってきたパッペルは突然何もないところで転んだ。


「パッペル、そんなに慌ててどうしたの?」

「あの…ルイゼさまが、イルさまに用があるとのことで、イルさまの部屋の前にいます…」

ルイゼは女帝リリスのツヴァイテであり、それほどの者が事前調整なくアビュススまで赴いてイルミナに用があるということはよほど急ぎの用件らしい。

そのことをイルミナも察したのか、

「わかったわ、すぐに行くからパッペルもついてきなさい。

 リンちゃん、それの処理は任せたわ」

「はい」

ロザリンデの返事を待って、イルミナはパッペルとともに自分の部屋へ戻った。

ロザリンデは2人を見送ると、配下に指示を出して"戦利品"を運ぶよう命じたが、"1つ"だけは自分で運ぶことにして、さらに配下の1人には別の指示を出した。


ロザリンデがたどり着いた、底面に少しだけ水が張られた部屋には、

"ツヴェルフ・ウンディーネン"の1人である"カリュプディス"のウルズラが待っていた。

「これの処理、私に任されたのだけれど、あなたに譲るわ。

 バラバラにさえしなければ手段は問わないから、済んだらパッペルのところに連れて行ってくれるかしら」

「わかったわ」

ロザリンデの依頼を承諾し、彼女と少しの間抱き合い、部屋を退出するまで見送ると、

「さて、死んだふりはそろそろ終わりにしてもらうわ…」

ウルズラはロザリンデが置いていった偵察隊員の体を"ヴィルベルシュトゥルム"(つむじ風)で浮かせてから落下させる。

これ以上死んだふりができないと悟った偵察隊員は起き上がろうとするが、

「ヴィルベルンデ・フルート」

部屋の水位が急上昇するとともに、大きな渦潮が発生して偵察隊員を飲み込んだ。

「甘っちょろい人間(アントロポス)どもと違って、そちらの戦闘態勢が整うまで待ってあげるなんてことしないわよ…」

ウルズラは妖しく微笑みながら、偵察隊員が渦潮の中で無様に回り続ける様子を見ている。

なお、偵察隊員はただ回り続けているだけでなく、身動きが取れないまま一方的に水の中からの攻撃を受け続けている。

やがて、偵察隊員が気絶すると、今度こそ死んだふりでないことを確認してから、ウルズラは偵察隊員を渦潮から解放した。


「うふふ…これで、あなたは"ヴァイセ・カッツェン"ではなく我々のものになるのよ…ゲーゲンスピラーレ」

ウルズラが気絶した偵察隊員の額に指を当てて"ゲーゲンスピラーレ"を発動させると、外見上の変化はないが、偵察隊員の中で何かが変わっていく。

しばらくして、偵察隊員が目を覚ますと、ウルズラが声をかける。

「目覚めたのね、我々の新たな"兵器"の素体…ついてきなさい」

「はい、ご主人様…」

ウルズラに従う存在となった"元偵察隊員"は、先に歩き出したウルズラについていく形で部屋を出ていった。


「ウルズラさま、それが新しい"兵器"の素体ですね…早速イルさまを呼んできます!」

パッペルはウルズラが元偵察隊員を従えてやってくると、イルミナを呼んでくると言って入れ替わりに部屋を飛び出した。

「その子、結局ウルるんが堕としたのね…」

パッペルに呼ばれてやってきたイルミナはそう言って現状を把握すると、

「そのままウルるんが"兵器"として使ってもいいけど、一旦わたしのものにするわね」

「はい」

ウルズラに一言告げてから元偵察隊員の唇を奪う。

「さあ、あなたの真の姿と真の名前を教えて」

イルミナが唇を離して命令を下すと、元偵察隊員は"マルテル王国軍の偵察隊員"という仮の姿を捨てて真の姿を現し、

「私は…アストリド…たった今…イルミナ様の…"兵器"になった存在です…」

自らの言葉で"兵器"に堕ちたことを認めた。

「これから、マルテル王国についていろいろと教えてもらうわね…うふふ…」

イルミナは満足そうな顔で、自分のものになったアストリドを見つめていた。

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