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空のエリス  作者: 長部円
第2部 1章
50/98

10 落日

10


バグロヴァヤ帝国に侵攻しているウリン軍の司令官は、あからさまに女性を蔑視していた。

リューリク平原での戦いでは数的不利を覆すため"やむなく"女性部隊も動かし、結果としてルリたちの部隊も活躍したが、今進めているクレーストグラード攻略戦では、女性部隊を実質的に何の役割も与えないまま後方に待機させていた。


だが、その状況こそ、すでにミヤの支配下に堕ちているルリたちには好都合だった。

男性たちが後方の女性部隊を顧みず、前方のバグロヴァヤ領を攻めあぐねている間に、ルリたちは他の女性部隊に所属する戦闘員たちもマヤのグナーデで堕としていった。


ノクスのヘーアは"旧バグロヴァヤ領"の接収を実質的にほぼ完了し、すでに"その次の動き"に備えていた。

そして、メイはファニー、イーリス、ペペ、ミヤを従えてキフネよりも東のウリン領へ潜入。

搦め手からウリンを侵蝕するため、敵地深くで蠢動した。


----


バグロヴァヤ軍、ウリン軍、ルリたち、ヘーア、メイたち、それぞれの動きを総覧したノクスとエリスはある日、"機が熟した"と判断し、ナハトヴァンドレリネンを使って指示を伝える。

それに従い、まずルリたちウリン軍の女性部隊が、クレーストグラードの衛星都市を攻めていた男性部隊に襲いかかった。

バグロヴァヤ軍も自分たちの味方になったルリたちを援護するため、城内から文字通りの援護射撃を行う。

ほぼ無傷の女性部隊と、長期間に及ぶ攻城戦で成果が出ずに疲弊していた男性部隊では当然ながら前者に分があり、次々と男性部隊は壊滅していった。


ルリたちの"裏切り"から少しタイミングを遅らせて、ヘーアはウリン軍が占領していたリューリク平原一帯に南から侵攻。

占領していたと言っても、バグロヴァヤの民を殺害、追放のどちらかでしか扱わず、支配下に置かなかったウリン軍は最前線からスタリーツァ跡地周辺までの間は最低限の人間しか置いていなかったため、ヘーアに対してまともな抵抗ができなかった。

これでウリン軍の男性部隊は退路を断たれたが、まだそれに気づく余裕もなく、味方だった女性部隊の攻撃から逃げることもできずにいた。


メイたちはウリンの主要都市に、近日同国内各地で行われる"お祭り"の仕掛けと称して"ブンター・パピーアバル"を持ち込み、お祭りの当日になると一斉に打ち上げた。

各地の住民は当初"花火(フォイアーヴェルク)"かと思ったが、花火と違って町の上空で静止したままの謎の球体を不審に思った守備隊が撃ち落とそうとする。

「フフフ…あの玉が割れた時、わたくしたちの"お祭り"が始まるのよ…」

ウリンの首都・エイケイの北東にあるタク地区に潜んでいるメイは、不敵な笑みを浮かべながら"その時"を待った。


最初に玉が割れた都市は首都・エイケイ。

割れ目からは紙吹雪(コンフェティ)が町に降り注ぎ、ウリンの民や守備隊がそちらに気を取られている間に、ファニー特製の無色透明の"お薬"数種類も撒かれた。

その中には"ザフィッシュマテリエ"や男性の能力を全体的に弱めるものが含まれており、ザフィッシュマテリエによって思考を歪められた女性たちは弱体化した男性に襲いかかる。

セントメアリ、リューリク平原に続く"3度目の惨劇(トラゲーディエ)"が幕を開けた。

エイケイ以外の都市でも玉が割れると同様の事態に陥り、暴走した女性たちによって男性の戦闘員や政治家が斃されると、都市としての機能を失っていった。


"デー・クラフト"ではすでに一般の兵士がザフィッシュマテリエで暴走しないよう、食事による"体質改変"を行っており、当然幹部クラスもザフィッシュマテリエが効かないように様々な処置を施していた。

メイたちは大混乱の坩堝(るつぼ)と化しているエイケイを駆け抜け、ウリンの支配者たちがいる"テンオウ宮殿"へ突入。

ウリンを支配していた"上層部"の男たちはどこかに転移したのか、宮殿内で見つけることはできなかったが、地下の一室で、何かの儀式に利用されていた女の子2人を保護し、儀式に使われていた祭壇やその他諸々をメイが破壊した。

2人の扱いは後でエリスに判断を仰ぐことにして、メイたちはエイケイの制圧を進めた。


ウリンの"上層部"だった男たちはテンオウ宮殿から逃げ出し、エイケイの北にある町ノムギの近くに転移していたが、ノムギにたどり着く前に4人の"魔族"が彼らの進路を塞いだ。

「結果的に、私たちが一番美味しいところを頂くことになったわね…。

 逃げられてしまう前に、ここで死んでもらうわ…」

エリスとドリッテのアンネ、アンネ配下のノインラターネン・アハトのカリナとノインのベルタは男たちに襲いかかり、瞬く間に4人を屠る。

ウリンの首魁だった男はアンネ相手に善戦したが、それでも"最後の1人"になる前に斃れ、アンネに血を吸い尽くされた。

首魁が斃されたことを知った転移の加護(グナーデ)の使い手は、自分1人だけで加護(グナーデ)を使いどこかへ逃げたが、それはエリスの想定内。

首魁も、逃げる手段も失った男たちを、エリスたちは存分に破壊し尽くした。

これ以上飲めない、というところまで男たちの血を飲んできたアンネが、小さな翼をパタパタさせながら笑顔でエリスのもとに戻ってくると、エリスはかわいいドリッテの頭を撫でる。

「さて、メイたちに合流して"後始末"をするわよ」

エリスたち4人はメイたちが待つエイケイに向かった。


エイケイでメイたちと合流したエリスが、テンオウ宮殿の地下にいたという女の子2人を取り調べたところ、"ウリン"によるクーデターで亡びた"チュンヤン"の王族の生き残りだという。

そのため、2人の扱いを含めた今後の対応はリリスや姉2人とも相談した上で進めることとなった。

ウリンの首魁はアヴァロンの王族と違って、エリスや彼女の近くにいる人物との因縁がそれほどないため、固有の名前をつけませんでした。

(今後の話の広がりによっては、もしかしたら後付けするかもしれませんが。)

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