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空のエリス  作者: 長部円
第2部 1章
49/98

9 リューリク平原での再戦と禁断の密約

9


バグロヴァヤ軍とウリン軍による2度目の"リューリク平原の戦い"は、ウリン軍で"最も先鋒に適した人材を集めた"と豪語する男性部隊がバグロヴァヤ軍の右翼に攻めかかったことで始まった。

前回と違い、両軍とも男性の戦闘員を戦場に投入しているが、バグロヴァヤ軍は男女混成、ウリン軍は男性部隊と女性部隊を明確に分けている。

前回のバグロヴァヤ軍の男性不在、今回のウリン軍の男女別編成は、いずれもヴェルトヴァイト帝国の"横槍"によるもの。

だが、そのヴェルトヴァイト帝国は戦いそのものに手を出すつもりはなく、戦況を見つめるヘーアの諜報要員"ナハトヴァンドレリネン"が数人いるだけだった。


前回は思いがけない相手の"仲間割れ"で勝利を拾ったバグロヴァヤ軍だったが、今回は実力通り、人数は多くても、ウリン軍の加護(グナーデ)を持つ者たちに次々と斃されて数の優位も揺らぐ。

兵力が開戦時の半数を切ると、クレーストグラードの防衛戦力を少しでも多く残すために司令官は撤退の指示を出した。

だが、撤退戦の途中で指揮官のいる中軍がルリたちの女性部隊による強襲で壊滅。

命からがら戦場から逃げのびた伝令がバグロヴァヤ帝国の皇帝にリューリク平原での惨敗を知らせた頃、テストゥド大陸の南部はかなりの部分がヴェルトヴァイト帝国に蚕食されており、国家存亡の危機に瀕した皇帝はついに精神的な病で倒れてしまった。


----


「ノクス様…バグロヴァヤはほぼ我らの要求通りの条件を受け容れました…」

ノクス配下のゲネラール・ラヴェルナはテストゥド大陸からツェントラルシュタットに戻ってくると、休む間もなくノクスのいる宮殿を訪れ、ノクスにバグロヴァヤでの交渉結果を報告した。

特殊能力によってゲネラールまで上り詰めたラヴェルナは、交渉事に長けている一方、戦場にはめったに立たない。

それでも、敵中を1人で突破できるほどの戦闘能力は持っている。

「よくやったわ、ラヴェルナ…」

「ノクス様…」

ノクスがラヴェルナにねぎらいの言葉をかけてから唇を重ねると、ラヴェルナの緊張が解れる。

ノクスとラヴェルナの唇が離れると、ラヴェルナは主の名を呼んですぐに気を失った。

「誰か、ラヴェルナを空いている部屋のベッドに運びなさい!」

ノクスの配下たちによって運ばれるまで、完全に力が抜けたラヴェルナはノクスの腕の中で安らかに眠っていた。


ラヴェルナがバグロヴァヤ帝国と結んできた、ウリンに対抗するための密約は、ある程度バグロヴァヤの顔を立てたものの、ヴェルトヴァイト帝国に有利な内容が多かった。

そのうちの1つは、クレーストグラードの衛星都市であるいくつかの町を境に、それより南をヴェルトヴァイト帝国に割譲するというもの。

これについては、ただ両国間で領土を譲る形にすると、住民が新しい支配者に従わないことを懸念して、バグロヴァヤ側の戦力の移動も兼ねて一芝居打つことになっている。

他に、クレーストグラードとテストゥド大陸北西部を死守するために魔族と手を結ぶという禁断の選択をしたバグロヴァヤに報いるため、ヴェルトヴァイト帝国によるさまざまな支援策が盛り込まれた。


ノクスから密約の内容を聞いた妹2人はそろって喜んだ。

「じゃあ、バグロヴァヤとの戦争は終わりですか…。

 後は私たちがウリンを潰せばいいのですね」

「わたしは表立って動けないけど、戦争が早く終わるように、エリスちゃんのサポートはしっかりやるわ」

「私はバグロヴァヤから譲られた土地の"接収"でヘーアを動かすけど、ウリンに引導を渡す役目は…エリスに任せるわ。

 もちろん"ナハトヴァンドレリネン"にも引き続きサポートさせるから、心配は無用よ…」

「はい…」


----


リューリク平原での戦いでバグロヴァヤへ致命傷に近いダメージを与えたウリン軍はクレーストグラードに向かって進軍。

その途中で、進路をやや外れるものの、比較的近い場所にあるバグロヴァヤ領の町ゴルボイスクで守備兵が脱走し、戦力がほとんど残っていないという情報を得たため、水や食料などの補給も兼ねて一部の男性部隊はそちらへ寄り道することにした。


偵察部隊からの報告で、本当にバグロヴァヤ兵は数えるほどしか残っておらず、占領は容易だと確信したウリン軍は、完全に油断した状態でゴルボイスクへの道を進んでいたが、ゴルボイスクの小さな門がかなり近づいたところで、急に目の前の地面が隆起。

隆起した土は粘土の巨人たち(テーナナリーゼン)に姿を変えてウリン軍の行く手を阻み、巨人の腹に穴が開くと、そこからたくさんの魔獣が出てきてウリン軍に襲いかかった。

テストゥド大陸にはもともと魔族や魔獣は存在しないため、当然ながらウリン軍でそれらと戦ったことのある者はおらず、なんとか抵抗を試みるも、その甲斐なく蹂躙されていく。

いつの間にか退路にも粘土の巨人たちが現れていて、寄り道をしたウリン軍の部隊は魔獣の挟撃を受けて全滅した。


戦闘、というより魔獣による一方的な殺戮が終わった後、数人の配下とともに姿を現したゲネラール・アルラウネのクノスペは、魔獣たちを粘土の巨人に収容して土の下に送ると、自分たちが守ったゴルボイスクに歩を進める。

町の門は開け放たれていて、バグロヴァヤの兵士や行政関係者は"首尾よく"全員逃げ出した後だった。


「ウリン軍を追い払ったけど、バグロヴァヤの者どももいなくなったから、ここは我らヴェルトヴァイト帝国がいただく」

クノスペによる"領有宣言"は意外にもあっさりと住民に受け容れられた。

「私たち力なき民を守っていただけるのであれば、ここを捨てたバグロヴァヤではなく、あなた方に従います…」

住民の1人がそう言うと、他の住民も続いた。

クノスペたちは別の町でも、ウリン軍を誘い込んで男性部隊1つを壊滅させつつ、バグロヴァヤの者を逃げさせて町を占拠。

さすがにウリン軍が警戒してきて3度目以降はなかったが、バグロヴァヤ兵がいなくなった後の町の接収は、それまでの町での"実績"を知った住民の協力もあって順調に進んだ。


一方、ウリン軍本隊は男性戦闘員が減少したものの、ほぼ予定通りの進軍でクレーストグラードに迫り、クレーストグラードの衛星都市とされる町の攻略を開始したが、バグロヴァヤ側の予想以上に激しい抵抗で、門を突破して市街戦に持ち込むことさえできずにいた。

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