4 準備状況の視察と出撃
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ヘーアの準備状況を視察するため、エリスとメイはツェントラルシュタット近郊にある、魔獣の訓練所を訪れた。
「クノスペ!」
「エリス様!」
エリスが声をかけると、アルラウネのクノスペが寄ってきて、小柄な2人はぎゅっと抱き合う。
短時間でお互いの抱き心地を味わった2人は体を離し、準備状況についての情報共有を行った。
クノスペの母であるヴルツェルはヘーアの魔獣部隊を率いるゲネラールの1人で、クノスペも彼女の後継として、すでに一部の魔獣を率いてアヴァロニア大陸征服に貢献していた。
クノスペはエリスより年上だが、比較的年齢の近い2人は、ヴルツェルやノクスの後押しもあって気の置けない仲になり、物理的な距離も、唇を重ねるほどではないが比較的近い。
話を聞いた限りでは、ヴルツェルは今回のテストゥド大陸遠征で第一線から退くとのこと。
クノスペにとっては、母親とともに戦える最後の機会となった。
ヴルツェルにとっても、この戦いが終わったら娘に魔獣部隊を託すことになるが、イルミナからは"クノちゃん"と呼ばれてかわいがられ、エリスとも親しく接しており、戦場における働きも、まだ粗削りな部分があるものの、上司であるノクスの評価では及第点を十分満たしており、今回の遠征でも状況によっては実質的に全軍の指揮をクノスペに任せるつもりだった。
エリスを真ん中にして小柄な3人が並んで椅子に座り、魔獣たちの戦闘訓練を見ながらキャッキャウフフとおしゃべりしている様子に、ヴルツェルはずっと見惚れていた。
「ヴルツェル」
「はっ…ノクス様…」
ノクスに声をかけられて我に返ったヴルツェルは顔を真っ赤にする。
「かわいい妹や娘に見惚れてしまう気持ちはわかるわ…。
私はあなたの想いを尊重するけど、隠居はさせないわよ。
後進の指導やあの子の手足となる魔獣の育成、それに"予備役"としていざという時には"復活"してもらうなど、あなたの仕事はいくらでもあるから…」
「はい…ノクス様から引退勧告をされるまで、精一杯務めます…」
ヴルツェルは頬を赤くしたまま、敬慕するノクスの顔を上目遣いで見つめた。
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数日後、パンゲーアでエリスと一緒にいたノクスはヘーアの諜報要員"ナハトヴァンドレリネン"から、ウリン軍が再び西に進みだしたとの報告を受ける。
「エリス…あなたがずっと待っていた知らせよ」
「はい…ノクスお姉ちゃんとヘーアのみんなに、必ず吉報を…テストゥド大陸征服の本格的な開始を告げに戻ってきます」
小柄なエリスは、彼女の顔を見て察したノクスに抱き上げられ、愛しい姉と唇を重ねた。
翌日、エリスとメイはイルミナと会うためアビュススへ。
「エリスちゃん、"ズートリヒェス・ドライエク"での受け入れ準備は整っているわ」
「ありがとうございます、イルミナお姉ちゃん」
恋愛感情に近い好意をお互いに抱いている2人の間にこれ以上の言葉は必要なかった。
小柄な末妹は大好きな次姉と何度も口づけを交わし、ついでにメイもイルミナに唇を奪われた。
「エリスねーさま…行ってらっしゃい…」
「行ってきます、アンネ…ヒンメルスパラストの留守は任せたわ」
「はい…」
その次の日、エリスはメイ、クロエ、ファニーを従えてヒンメルスパラストを発ち、"アエイオウ岬"経由で海を渡った。




