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空のエリス  作者: 長部円
第2部 1章
43/98

3 臙脂色の乙女たち

3


テストゥド大陸で東からバグロヴァヤ帝国を侵略している新興国家・ウリン。

これまで破竹の勢いで進軍を続けていたが、バグロヴァヤの帝都スタリーツァではバグロヴァヤ軍とスタリーツァの住民が激しく抵抗し、最後はバグロヴァヤ軍近衛部隊が"カニェッツ・スヴィエータ"を発動。

ウリン軍はスタリーツァを手に入れられなかったばかりか、主力の多くを失い、戦力と作戦の立て直しを余儀なくされた。


「作戦の立て直しって言ったって、今まで通り西の敵をひたすら蹴散らして、西の端まで行ったら今度は南に進んで、最後はトリウゴーリニクっていう小さな町を取ればこの大陸は私たちのものなんでしょ?」

「相手が"帝国"だけなら今まで通りでいいですけど、最南端の町周辺は"海の魔族"が占領しているようです。

 奴らはこちらから海に近づかなければ襲ってきませんでしたが、陸上の町で奴らがどれくらい強いかは全く分かりません。

 ただ、"帝国"よりも厄介な存在であることは間違いないでしょう」

「魔族にもかわいい子がいたら、お話したり遊んだりしたいな…」

「海の向こうの大陸や海の底ならいるかもしれないけど、こっちにわざわざ子どもを連れてくることはないでしょ」

「子どもじゃなくても、100年以上生きているのに見た目は小っちゃくてかわいい魔族ちゃんとか…ぎゅってしたいな…」

「いるかどうかもわからないかわいい魔族ちゃんの妄想よりも、西の帝国をどう攻めるかのほうが先よ」

「まあ、そこのところはわたしたちじゃなくて賢い男の人たちが決めてくれて、わたしたちはその通りに動くだけよ」

ウリン軍の女性戦闘員数人が集まった部屋では、このような緊張感のない会話が交わされていた。


ここにいる女性は全員、臙脂(えんじ)色のリボンを身に着けている。

臙脂色のリボンは強力な"加護"を持つ者の証で、ウリン軍の各部隊で彼女たちは"リーダー"を任されている。

だが、ある者が愚痴った通り、この"リーダー会議"は形式的なもので、実際の作戦は"参謀会議"で決められる。

作戦に従った上での失敗であれば厳罰に処せられることはないが、作戦や"上層部"の意向に反する行動をとると、すぐに上層部の息のかかった者たちによって"処分"される。

上層部の中で一番"偉い"、ウリンの頂点に立つ男は臙脂色の"加護"による干渉を無効化できる紺色の"加護"を持つため、ウリン内部の"反主流派"が"リーダー"たちを担ぐこともできない。

幸い、"頂点の男"が取り巻きの者たちに"自分の威を借りた不正"を許していないため、一応ウリンの秩序は保たれているが、それは決して強固なものではなかった。


----


スタリーツァ"崩壊"の報告を受けてから数日後、エリスとメイがイルミナに会うためアビュススを訪れると、イルミナは自分の部屋で人間(アントロポス)の女性とイチャイチャしていた。

女性はポニーテールの結び目に臙脂色のリボンをつけており、

「あぁ…エリス様とメイ様…今日もかわいいです…」

入室したエリスとメイを見て表情を緩め、ポニーテールを揺らしながら妖しい動きを始めた。

「ソニアちゃん…エリスちゃんとメイぴょんがかわいいことは真実だけど、わたしとのイチャイチャより優先なんて…いけない子…」

イルミナはソニアを捕まえると、ソニアの頭に魔力を送り込んで意識を奪う。

しばらくして目を覚ましたソニアは、イルミナに体を密着させながら形ばかりの謝罪をした。

「イルミナ様、申し訳ございません…エリス様とメイ様があまりにも愛らしいので…えへへ…」

「うふふ…また少し"壊れた"わね…」

「イルミナお姉ちゃん、このまま順調にいけば間に合いそうですね…」

「そうね…」


アヴァロン王国軍所属の"加護(グナーデ)"持ちだったソニアは、王国が滅びると反政府勢力に身を投じたが、巡視をしていたエリスに捕まり、エリスはイルミナの要望でソニアの身柄をアビュススに移した。

イルミナはソニアを自分の"兵器"にしようとしたが、深淵魔象(アプグルント)だけではうまくいかず、結局はエリスとメイのサポートを受けてようやく自分のものにした。

そういった経緯もあり、ソニアはエリスとメイをロリかわいいと思うだけでなく、イルミナに次ぐ敬慕の対象と認識。

2人の前ではどうしても挙動不審になりがちだった。


エリスとメイがイルミナとテストゥド大陸の情勢について話している間、ソニアは3人に熱っぽい視線を向けていた。

「イルミナ様、ただいま戻りました」

「リンちゃん、ご苦労様」

話が一区切りついたところで、テストゥド大陸方面を偵察していた"ツヴェルフ・ウンディーネン"の1人、ジレーネのロザリンデが入室し、主であるイルミナに帰還の報告をした。

「イルミナ様からありがたいお言葉を頂いただけでなく、エリス様の愛らしいお姿も見られるとは、私…幸せです…」


報告を終えると、ロザリンデは満面の笑みを浮かべていたが、イルミナ、エリス、メイ以外の者の存在に気づくと、慌てて表情を引き締めた。

「あなた、見たところイルミナ様の兵器になったばかりの、加護(グナーデ)持ちの人間(アントロポス)っぽいけど、どこかで会ったことがあるわよね」

「はい…かつて海の上であなたに刃を向けたことは憶えております。

 あの時、あなたの言葉に従って撤退したからこそ、イルミナ様の兵器になって、今ここにいることができております…」

「イルミナ様…この子と少し話がしたいのですが、よろしいでしょうか」

「いいわよ…こちらもエリスちゃんとメイぴょんと3人で話をしている途中だから」

「ありがとうございます」

イルミナから許しを得ると、ロザリンデはソニアを、イルミナたちから少し離れた場所に連れていき、おしゃべりを開始。

2人はかなり会話が弾み、ロザリンデがイルミナの部屋から退出する前に、

「テストゥド大陸の征服が本格的に始まる時は、是非ソニアと一緒に戦いたいわ」

「はい…その時はよろしくお願いします、ロザリンデ様…」

といった言葉を交わすほど仲良くなった。


「リンちゃんとソニアちゃんが仲良くなってくれてうれしいわ。

 実戦で一緒になるかどうかはわからないけど、ペアでの戦闘訓練ならリンちゃんの都合に合わせてできるわよ」

「是非とも、お願いします…」

「私とメイのような最初から相思相愛の関係もいいけど、敵対していた子とイチャイチャできる嬉しさは格別よ。

 ソニアはここで幸せをかみしめているようだけど、ロザリンデは今頃、自分の部屋のベッドで転げ回っているかもね」

生まれてから長い間自我を持てなかったエリスが、微笑みながら感情について語る様子に、イルミナは目を細めていた。

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