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空のエリス  作者: 長部円
第1部 1章
4/98

4 メイと姉と妹

4


メイが正式にエルステになった次の日の朝、エリスが目を覚ますと、

「エリス様、おはようございます」

隣でメイが微笑みながら挨拶をしてきた。

「おはよう、メイ…」

エリスは体を起こすと、メイと"おはようのキス"を交わす。

「えへへ…これから毎朝、エルステの特権としてエリス様とキスできるなんて…うれしいです…」

「私も、毎朝起きたらメイの笑顔が見られて、メイとキスできるなんて…とても幸せよ…」

エリスの言葉を聞くと、顔を真っ赤にしたメイがエリスに抱きついた。

「エリス様…わたくしも…幸せです…」

2人は時間の許す限りイチャイチャすると、やや急ぎ気味に着替えてからダイニングへ向かった。


朝食を終えると、エリスはメイを連れてパンゲーアの屋上へ。

「ここからの眺めも悪くはないけど、メイにもっといい景色を見せてあげたいの。

 私がメイをここまで連れてきた時は、"ディアボリー"の魔法のせいでメイの意識がなかったから…」

「きゃっ!」

急にお姫様抱っこされ、びっくりしたメイはかわいい悲鳴を上げた。

「慣れてない状態で高度を急激に上げるといろいろと良くないから、少しずつ上昇するわね。

 具合が悪くなったら遠慮せずに言いなさい」

「はい…」

エリスは言葉通り、メイをお姫様抱っこしたまま少しずつ上昇していく。

「メイ…怖くない?」

「はい、大丈夫です…それに…素晴らしい景色ですね…」

「これが、私たちの国…ヴェルトヴァイト帝国よ」

しばらく"2人だけの景色"を堪能してから、エリスはゆっくりと屋上へ降り立った。


人間(アントロポス)たちが、"魔王軍"への抵抗や"魔王"が占領した土地の再征服を呼びかける際に使った文句は、やはり嘘だったのですね…」

「多少の価値観の違いくらいはあるだろうけど、概ねその認識で間違いないわ。

 もっとも、私たちも大陸側でやっていることは人間(アントロポス)たちとそれほど変わらないけどね…。

 特にノクスお姉ちゃんの配下のラヴェルナはそういうことが大得意よ」

「そうですか…エリス様、もしわたくしが、そういうことへのお手伝いを躊躇するようなら、遠慮なく洗脳してください…。

 お人形さん(マリオネテ)奴隷(スクラーヴェ)でも構いません…。

 わたくしは身も心もすべて、エリス様のものですから…うへへ…」

自分がお人形さん(マリオネテ)奴隷(スクラーヴェ)にされている場面を妄想しているのか、メイは焦点のあっていない虚ろな瞳を彷徨(さまよ)わせながら、人前で見せられないようなだらしない顔をしている。

そんなメイを見て愛おしいと感じたエリスは、やっぱり姉2人と違って"普通でない"自分には、"同族"を憎むほどに"壊れた"メイのような、普通でない子がお似合いなのだなと思った。

意識を妄想の世界に飛ばしてしまったメイをずっと見ていてもいいが、それだけで昼食前の時間が終わってしまうとそれはそれでもったいない気がするので、エリスはキスでメイを正気に戻した。


「ところで、ここに来る前にメイが、塔のような建物で読んでいたという本は、価値がありそう?」

「わたくしも全部は読み切れていないのではっきりとは言えませんが、人間(アントロポス)を研究するという意味では、多かれ少なかれ価値はあると思います」

「そう…ならば、昼食の時に母様やお姉ちゃんたちに相談して、許しが出たら明日取りに行くわよ」

「そう言われても、あの場所からパンゲーアまでどうやって運ぶのですか?」

「後で母様とお姉ちゃんたちにも説明するけど、メイには先に教えてあげる」

エリスは自分が考えている、"塔"の本をパンゲーアまで運ぶ手口をメイに説明した。


「すごいです…それを応用できれば、対人間(アントロポス)の戦況をかなり有利にできます…例えばこのような…」

「理論上は確かに効果絶大なのだけど、問題は…私に高い負荷がかかることよ…。

 それ以外にも、実現するには課題が多すぎるわ…。

 ただ、少しづつ課題を潰していけば、それを実用化できる日はいつか来るわよ」

「はい…」

メイが少し落ち込んでしまったため、エリスは慌てて話題を変え、昼食に向かう頃にはメイに笑顔が戻っていた。


昼食の場で、エリスが願い出た"塔"からの書物の運び出しは許可された。

昼食を終えると、エリスとメイはノクス、ユノ、スアデラと一緒にノクスの部屋へ向かう。

部屋の中で待っていたミネルヴァを加えてしばらくおしゃべりしていると、イルミナがフェブラとフィアーテのキルシュを従えてやってきた。

アビュススはエイプリとドリッテのフェーベに任せてきたとのことだが、今の人間(アントロポス)は攻め難く守り易い海へまとまった戦力を割く余裕がないため、1日を越えなければ専属侍女に任せて問題ないという。


「そういえばメイぴょん、昼食の時に何か言いたそうだったけど」

「はい…ダイニングでは少し話しづらそうな内容だったので…」

イルミナに促され、メイは"塔"からの書物の運び出しの手口を応用した対人間(アントロポス)の作戦案を話した。


「案としては悪くないし、実現できればかなり愉快な状況になるわ…」

「だけど…これではエリスちゃん1人に依存しすぎるわね…。

 どうにかして負荷を分散させる手段が確立されない限り、わたしは賛成できないわ…」

「そうね…後で母上に、メイからの提案として話はしておくけど、メイ単独やエリスと2人だけで進めたらだめよ。

 さっきの母上の許可はあくまで書物の運び出しだけだから、それ以外のことをするなら改めて許可を取りなさい」

「はい…私も、どれくらい魔力を消費するか予測できないので、予定外のことはしないつもりです…」

「わたくしも…作戦の件はノクス様にお任せして、決して独断で進めたりはしません…」

「ふふ…2人ともいい子ね…」

エリスを心配する余り顔を曇らせていたノクスとイルミナだったが、愁眉を開いてエリスとメイの頭を撫でた。


この後は予定通り、ユノとフェブラがメイに、エルステの様々なことを教えることになっており、早速3人で会話を始めていた。

エリスはエルステ3人の勉強会が終わるまで、大好きな2人の姉とずっとイチャイチャしていた。

キルシュはイルミナについてきただけで、イルミナのそばにいる以外やることがなかったが、同じフィアーテであるミネルヴァが話しかけてくれたため退屈せずに済んだ。


夕食の時間になると3姉妹とユノ、フェブラ、メイ、スアデラ、キルシュは一緒にダイニングへ向かい、夕食が終わるとイルミナ、フェブラ、キルシュは先にアビュススへ戻った。

ノクスはリリスと一緒に女帝の執務室へ向かうようだが、その前にユノがメイに声をかけてきた。

「メイちゃん、また明日ね」

「はい…ユノ姉様…」


「ユノを"姉様"と呼ぶなんて…短時間でずいぶんと仲良くなったのね」

「はい…ユノ姉様はディアボロスとしても、女性としてもわたくしが憧れてしまうような方なので…えへへ…。

 あっ…でも…わたくしにとってはかわいい妹のようなエリス様が一番であることに変わりはないですから…」

「私も、見た目が良くて、才能もあって、親しい幼馴染もいるユノは羨ましいし、お姉ちゃんがいなかったらユノを疑似的な姉として慕うこともあったかもしれないけど、私にはもっとすごい、実のお姉ちゃんが2人いるから…」

「ノクス様とイルミナ様は…わたくしをかわいがってくれますが…身分が違うので…」

2人がそんな会話を交わしていると、エリスの部屋に着いた。


2人並んでベッドに腰かけると、

「メイが私のこと、かわいい妹のように思ってくれているのなら、今夜は…小さなお姉ちゃんに甘えようかな…。

 メイお姉ちゃん…だいすき…」

エリスはメイに寄りかかりながら言葉を(つむ)ぐ。

メイの頭の中で、"何か"が音もなく壊れた。

「エリ…エリ…エリかわいい…」

"壊れた"メイはエリスを主人ではなく"かわいい妹"と認識し、ふわふわの黒髪で覆われたエリスの頭を優しく撫でる。


「メイお姉ちゃん…もふもふ…」

「えへへ…エリ…しゅき…」

エリスはメイのポニーテールに頬擦りし、その感触でさらにメイの言葉や表情が異常性を増す。

"疑似姉妹"の妖しいイチャイチャは、エリスが満足するまで続いた。


エリスがメイを正気に戻すと、メイは正気を失っていた自分がエリスに無礼を働いたことを謝罪したが、

「私が望んでメイにさせたことだから、謝罪は必要ないわ。

 その代わり、2人きりの時は…いつもじゃなくていいから…さっきみたいに"エリ"って呼んでほしい…。

 特別な存在(エルステ)であるメイにそう呼ばれることは無礼な言動とは認めないから…」

「わかりました…2人きりの時だけなら…エリス様の望む通りにします…」


----


「エリス様の…元人間(アントロポス)をエルステにしただけでなく、あえて"人間らしい要素"を残された意図が最初は理解できなかったのですが、あのようにエルステの"特権"を活かしながら少しずつ"壊す"ことで、最終的には一度に"壊した"元人間(アントロポス)よりも有能な存在にすることができる…。

 さすがリリス様の娘ですね…」

「あの子がそこまで意図したかどうかはわからないけど、ディアボロスとして完成の域に達しているノクスとイルミナに比べて、まだ自我が芽生えてそれほど経っていないエリスの言動は面白くて、見ていて飽きないわ…」

「そんなエリス様の専属侍女に、是非"あの子"を推したいです…」

「クロエがツヴァイテになった後ならいいわよ…」

リリスと彼女のエルステであるユリアネは、エリメイのイチャイチャを覗きながらそんなことを語り合っていた。

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