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空のエリス  作者: 長部円
第1部 3章
34/98

34 アプフルーク

最終話ではありません。

34


「ノクス、イルミナ、そしてエリス…ほんとうによくやったわ。

 あなたたちと配下の者たちの働きによって、私の代でアヴァロニア大陸征服を成し遂げることができて、とてもうれしい。

 すでに次の征服目標としてテストゥド大陸にイルミナが足掛かりをつくっているけど、未知の要素が多すぎるから、しばらくは情報収集と、アヴァロニア大陸支配を揺るぎないものにすることに努めなさい」

「はい」

ヴェルトヴァイト帝国の女帝リリスはパンゲーアの自分の部屋に集まった3人の娘に労いの言葉をかけると、ノクス、イルミナの順に愛娘を抱きしめながら、個別に言葉を交わす。


イルミナが解放されると次はエリスの番。

「エリス…」

「母様…」

リリスはエリスの小さな身体を、自らの身体で包み込むように抱く。

「本当に、あなたを産んでよかったわ…。

 私やノクス、イルミナにもない飛行能力と、その愛らしい容姿で、アヴァロン王国の力を著しく弱め、最後はあなたのエルステである元人間(アントロポス)のメイがとどめを刺してくれた。

 あなたがいなかったら、私の代でのアヴァロニア征服は成し遂げられなかったわ…」

リリスがエリスの頭とふわふわの髪を優しく撫でると、

「えへへ…大好きな母様のお役に立てて、とてもうれしいです…。

 これからも、母様のために、お姉ちゃんたちと協力して慎重に征服を進めますね…」

エリスは殊勝な言葉を(つむ)ぎながら、緩み切った表情で母に甘えた。


母と妹のイチャイチャを見て、自分もエリスとイチャイチャしたくなったイルミナは、しばらくノクスとおしゃべりしながら待っていたが、待ちきれずに2人へ近づく。

「お母様、そろそろわたしも…って、エリスちゃん…」

「幸せそうな顔して眠っているわよ…」

「イルミナ、また今度にしましょう…」

「はい、お姉様…残念ですけど…このままお母様にお任せします」

ノクスとイルミナが退室すると、リリスはエリスをベッドに寝かせ、時間の許す限り添い寝することにした。


リリスがもう少しで女帝としての執務に戻らないといけない時間になって、エリスが目を覚ました。

「母様…えへへ…母様に抱かれたらつい眠っちゃって…久しぶりに添い寝までしてもらって…母様、だいすき…」

「エリス…あなたは自分の城として"ヒンメルスパラスト"を手に入れたけど、たまにはパンゲーアに帰ってきて、今日のように私に甘えていいのよ…。

 人間(アントロポス)と違って長命な我らディアボロスにおいて、まだエリスは子供なのだから…。

 それに、私もノクスもイルミナも、かわいいエリスの顔を久しく見ていないと寂しくなるの…」

「母様にそんな顔をされたら…でも、ヒンメルスパラストにいる子たちも…ふええ…」

母と姉2人も、専属侍女たちや元王女やイーリスたちも、どちらも大好きなエリスはどうすればいいのかわからなくなった。

混乱したエリスはベッドの上で身悶えした末に、失神して仰向けに倒れた。

意識を取り戻したエリスが退室する前に、リリスは失神させてしまったことを詫びてから、

「私が、女帝としての召集命令を発していなければ、ヒンメルスパラストにいることを優先して構わないわよ…」

と言ってエリスを安堵させた。


----


ヴェルトヴァイト帝国はアヴァロン王国滅亡後のアヴァロニア大陸を、従来からのジュリオポリスを中心とする南部のほか、ツェントラルシュタットを中心とする中部、"グラニートシュタット"を中心とする北部に3分割して統治することとした。

ツェントラルシュタットは大陸のほぼ中央、セントメアリの南にヴェルトヴァイト帝国が新しく築いた都市であり、当然ながら住民はすべてディアボロス。

一方、"旧王都"セントメアリは現状通りエリスとその配下によって統治される、"男子禁制の特別行政区"とされ、ツェントラルシュタットの管轄外になることが正式に定められた。

北部の中心は、アヴァロン王国時代はサニーサイドという都市だったが、ツェントラルシュタット同様新たに都市を築き、近隣で産出されて新都市の構築に多く用いた花崗岩(グラニート)に因んで"グラニートシュタット"と名付けられた。

なお、ヴェルトヴァイト帝国はアヴァロン王国を滅ぼしてアヴァロニア大陸を征服したが、人間(アントロポス)を絶滅させるつもりはなかった。

セントメアリを南限として、アヴァロニア大陸の北半分はディアボロスと人間(アントロポス)が雑居することになった。

そう決めたとはいえ、ディアボロスを忌み嫌う人間(アントロポス)は圧倒的に多く、本格的に同じ町での雑居が始まるまでは長い年月を要するだろう。


統治体制の整備・変更はセントメアリでも行われた。

長らく"城主代理"を務めたセアラに代わってヘレーネが"プレジデンティン"として行政府の長に就き、公職から退いたセアラはディアボロスになった2人の妹ともに、セントメアリが一番進んでいる"ディアボロスと人間(アントロポス)の共生"を他の都市でも推進する活動に従事。

また、セアラはアヴァロンの王家だったバンベリ家で"最後に生き残った人間(アントロポス)"として、自分が不老や不死の存在に変えられることを望まず、セアラの妹であるラヘルやリューディアもセアラの意思を尊重し、遠くない将来に大好きな姉と別れる瞬間が訪れることを受け容れた。


----


アヴァロニア大陸全土の征服を機に、リリスはエリスに、アヴァロニア大陸の各地を巡視させると告げた。

エリスがそれを侍女たちに話すと、セントメアリに縁のある者が1名、エリスに"あること"を申し出た。

「この前、エリス様がアヴァロン王国を滅ぼしに北へ行った際、留守番をしていて考えたの…。

 エリス様がわたしを専属侍女のフィアーテにした目的はセントメアリにあるヒンメルスパラストを入手するため…。

 その目的が果たされた今、エリス様の専属侍女最弱であるわたしの役割は、このヒンメルスパラストを護ること…。

 人間(アントロポス)の頃からセントメアリで暮らしてきたから、専属侍女最弱のわたしでもそれならできるよ…。

 ずっとエリス様、メイ様のそばにいられなくて寂しいけど、お2人が後顧の憂いなく各地へ赴けるようがんばるから」

「私はあなたを、ヒンメルスパラスト入手だけのために専属侍女にしたつもりはないわ」

今後は原則として外出するエリスやメイに同行せず、ヒンメルスパラストにとどまることを希望したファニー。

寂しげな表情をした健気なフィアーテを、エリスはぎゅっと抱きしめた。


「あなたの申し出は受け容れるけど、あなたが専属侍女最弱だとか"用済み"だとかは完全に否定するわ。

 ヒンメルスパラスト入手だけのためなら、人間(アントロポス)のままパッペルのような"兵器"にすれば済むもの。

 それに、戦闘能力ならともかく、あなたの"得意分野"なら間違いなく最弱ではないし、"総合的な評価"をするにしても、どこを重視するかで何らかのバイアスがかかるから、完全に公平な強弱の判断などできやしない。

 あと、ヒンメルスパラスト入手後も、あなたが私についてきてもらわないといけない場所や用件はたくさんあるわよ。

 長期の外出に耐えられないくらい身体が(なま)らないよう、体調管理はしっかりしなさいね」

「エリス様…」

エリスはファニーの耳に口を近づけると、彼女にしか聞こえないくらいの声で(ささや)く。

「大好き、ファニー…」

その言葉の直後にエリスがファニーの耳に口づけすると、ファニーの顔は真っ赤に染まり、

「えへへ…エリ…」

脳内で何かが過剰に分泌されたため、ファニーはエリスに抱かれたまま瞼を開いた状態で失神してしまった。

普段は自分の"加護(グナーデ)"によって作り出した薬でエリスや帝国の役に立っているファニーだが、ここでは予め作り置きしていた"気付け薬(リーヒザルツ)"が自分自身に使われることになった。


----


ヴェルトヴァイト帝国が第3皇女エリスによるアヴァロニア大陸巡視の実施を発表してしばらく経ち、ついに"第1回"の実施日を迎えた。

付き従うメイ、クロエ、アンネ、イーリスは専用武装を身に着けているが、エリスは"ジズ"を使わず通常の服装。

「武装した凛々しいメイ様も素敵だけど、やはりエリス様のかわいさは比べ物にならない…」

ファニーはエリスに熱い視線を向け、ラヘルとリューディアもエリメイに見惚れている。

他の侍女も皆顔が少し紅潮しているが、それぞれの視線の先は過半数がエリスで、以下クロエ、アンネの順に数が多く、意外にもメイとイーリスは"同数で最下位"だった。

なお、セントメアリの"プレジデンティン"ヘレーネも"初回だけは"という条件でヒンメルスパラストにやってきて、ずっとイーリスとイチャイチャしているため、イーリスの"不人気"の原因はおそらくこのイチャイチャだろう。

「イーリス、そろそろ行くわよ…ファニー、留守番は任せたわ」

「はい…行ってらっしゃい、エリス様…」

ファニー以下多数の侍女に見送られ、エリスは専属侍女3人およびイーリスとともにヒンメルスパラストから飛び立った。

もう最終話でいいや…となりそうですが、"あらすじに書いたイチャイチャはこれからだ!"なので"第一部 完"にもせず、まだまだ続きます。

<2022/ 2/11修正>グナーテ→グナーデ

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