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空のエリス  作者: 長部円
第1部 3章
33/98

33 破竹の勢いと四面楚歌

33


"マリーネ"によるテストゥド大陸南端部侵攻から数か月経って、ついに"ヘーア"がセントメアリより北へ動き出した。

ほぼ同時に"マリーネが"アヴァロニア大陸北部の海沿いにある町を襲う。

さらに、エリス率いる"デー・クラフト"も空から攻撃を仕掛け、三軍合同のアヴァロン王国征服作戦が始まった。


"休戦中"はヘーアだけでなく、セントメアリ攻めに"間に合わせ"の兵力・兵装で臨んだデー・クラフトも戦力を増強した。

"身体に装着するタイプ"の飛行ユニットは、それによる負荷に耐えうる者しか使用できないため、体格に恵まれない者が比較的多い魔女(ヘクセ)向けに"乗るタイプ"の"ベーゼン"と呼ばれる飛行ユニットを用意。

"身体に装着するタイプ"もセントメアリ攻めで用いた試作版から肉体への負担軽減と飛行速度の向上、空中での姿勢制御機構の改善などが施され、"フリューゲル"と呼ばれる、量産化の前段階レベルの物になった。


それでも、日常生活と同じく地上で活動するヘーアと違う、空中での軍事行動ができる者は多くなく、兵力増強はヘーアやマリーネよりも少ない人数の部隊2つ分にとどまった。

それぞれの部隊の指揮官"コマンデーリン"は親衛隊"シュヴェンツェ"から選んだアンゼルマとブリギッテが務め、"ゲネラール"や"アトミラール"にあたる幹部クラスの階級として設けられた"ゲネラーリン"に、すでに"アハトシェッツェ"の一員となっているレニ、グレーテル、カリナのほかヘルガ、タマーラなどが任じられた。

なお、今のところのゲネラーリンは単独や少数精鋭での行動に秀でたものばかりなので、デー・クラフトの部隊を指揮するゲネラーリンの誕生はアンゼルマやブリギッテの昇格に伴うものとなる可能性が高い。


アンゼルマとブリギッテの部隊は交互に出撃し、彼女たちによる空からの先制攻撃と地上からのヘーアの追撃で、アヴァロン王国の都市や町は次々と陥落。

ヴェルトヴァイト帝国は破竹の勢いでアヴァロニア大陸の征服を進めていった。


----


「姫様、これで残るはサニーサイドとグラニット城だけです」

「ええ…よくやったわ、ブリギッテ。

 順番通り、次はアンゼルマに出てもらうけど、ブリギッテの出番がないとは限らないから、油断はしないでね」

「はい…」

敬慕するエリスからねぎらいの言葉と抱擁を受け、ヘーアとともにサニーサイド周辺を攻め落としてきたブリギッテは、幸せに満ちた表情のままエリスの執務室を退出した。


「こんなに早く、アヴァロン王国を追い詰めるとは…私たちの"亡命"が帝国軍の再始動前で本当に良かったです」

「そうね…私も軍を動かす前に"ヘレーネ"と"イーリス"を手に入れられてよかったわ…。

 そうでなかったらこんな扱いにはできなかったし、ノクスお姉ちゃんが先にあなたたちを手に入れたかもしれないから…」

ブリギッテが去ると、エリスは隣に座るイーリスの髪の毛を弄びながら、そばに立っているヘレーネと話し始めた。


アヴァロン王トマスの側近だったイレイン・キャヴェンディッシュは、同棲していたアイリス・ブラッドフォードの言葉に従い、セントメアリの調査の精度と頻度を上げるなどの名目でアイリスを伴ってグラニット城を去った。

セントメアリに着いてからもアイリスの立てた作戦でセアラと接触し、エリスとの対面が叶うと、2人は揃ってディアボロスの"ヘレーネ"と"イーリス"に変えられ、エリスのものとなった。


アヴァロン王国の上級貴族ブラッドフォード家に生まれたアイリスは賢く、魔法の才能も傑出していたが、彼女の持つ強すぎる魔力が彼女自身の身体を蝕んでおり、それが他人にも影響を及ぼすと誤解されていたため、アヴァロン王国で彼女は忌み嫌われ、イレインとともにトマスの側近を務めることが許されない存在だった。

セントメアリに来てディアボロスの"イーリス"に生まれ変わったことで魔力が制御できるようになり、"人並み"の生活が可能となっただけでなく、神から与えられていたものの制御不能だった魔力で"阻害"されていた"加護(グナーデ)"も使えるようになった。

エリスは"真の能力"を発揮できるようになったイーリスを、専属侍女"フィーア・テュヒティヒステン"に次ぐ存在になれると評価し、それを受けてイーリスは、自分の能力を惜しみなくエリスのために使うと誓った。

一方、アヴァロン王国の上級貴族キャヴェンディッシュ家の当主だった父の補佐を早くから務めていたヘレーネは内政に長けており、エリスの指示で当分の間密かにセアラの補佐をしつつ、近い将来のセントメアリの統治体制変更に備えていた。


イーリスは他の合法ロリっ子侍女と同様に、エリスに呼ばれて今のように隣に座らされ、"健全な接触"を受けることがある。

ただ、ヘレーネとの仲を知られているため、エリスには原則として日中にしか呼ばれず、夜は2人の時間が確保されている。

イーリスはエリスがそういう割り切った関係で止めてくれているので、安心してエリスに心も身体も委ねていた。

「エリス様…」

"ディアボロス化"によって色が薄紫から淡紅色(ヘルマゲンタ)に変わった瞳でエリスの漆黒の瞳を見つめ、うっとりとしていたイーリスは、エリスが不意に唇を奪っても、ヘレーネ以外からの口づけを嫌がるどころかむしろ悦んだ。

ヘレーネも、愛しいイーリスがエリスと唇を重ねている様子に興奮し、身悶えていた。

「エリス様とイーリスのイチャイチャ…たまらない…」


イーリスはエリスの専属侍女"フィーア・テュヒティヒステン"とも親しくなっていった。

特に、メイがアヴァロン王国の"旧王家"出身だと知ってからは彼女を"メイ様"と呼んで敬慕し、いろいろなことを教わると、メイもイーリスを妹のようにかわいがった。

ファニーとは、自分と同じく元人間(アントロポス)で、かつメイを敬慕する"同志"として意気投合し、ヘレーネやメイが忙しい時はファニーと一緒にいることも少なくなかった。

メイが造った専用武装"イリズィーレンデ・シュヴェーアトリーリエ"をエリスから授かると、飛行ユニットなしでも空を飛べるアンネと一緒に飛行訓練を行い、自分と同じように魔力を制御できず苦しんだことのあるアンネと急速に仲を深めていった。

唯一、クロエとだけは積極的に接することが少なかったため、それほど親密になっていなかった。


----


アンゼルマから明日にもサニーサイドを攻略できる、という報告を受けると、エリスはファニー以外の専属侍女とイーリス、ヘレーネ、親衛隊"シュヴェンツェ"に出撃準備を命じた。

なお、ファニーとシュヴェンツェの半数はブリギッテの部隊とともにセントメアリの"留守番"として、不測の事態に備える。

エリスたちの行き先はサニーサイドではなくグラニット城で、ヘレーネは城内の道案内を、イーリスはファニーの代役兼ヘレーネの護衛を務めることになった。

「グラニット城でずっとイーリスのことを守り続けていた私が、イーリスに守られる側になるなんて…」

そう(つぶや)いたヘレーネは、イーリスをぎゅっと抱きしめながら微笑んでいた。


数日後、空を飛んだエリスたちはグラニット城に到着。

どうしても魔王軍にだけは屈しないというアヴァロン軍の兵士たちだが、四面楚歌の状況で満足に食事をしていないのか、立っているのがやっとのような状況で、エリスたちは形だけの抵抗をするアヴァロン兵たちを難なく屠っていく。

そして、ヘレーネの案内でついにエリスたちはアヴァロンの国王トマスのいる部屋に到着した。

トマスの側近たちは"もはやこれまで"と思いながらも、使い慣れない武器を持つと、エリスたちに向かって突撃してくる。

アンネとイーリスがそれらをすべて討ち果たすと、エリスたちと向かい合って立つ者はトマス1人だけ。

周りの者たちの都合でセントメアリから追放され、王位に就けられ、"魔王軍"との戦いに巻き込まれたトマスは、もはや抵抗する気力もなかった。

「エリ、最後はわたくしに…やらせてください」

「ええ、ここはあなたが…一番ふさわしいわ…」

メイの申し出をエリスが受諾すると、メイはトマスの前に立つ。

「あなた個人に恨みはありませんが、ゴーサ家の生き残りとして、あなたたちバンベリ家への復讐を果たすため、ここであなたの命をいただきます」

トマスがゴーサ家とバンベリ家の"因縁"を知っていたかどうかはわからないが、トマスは一度、首を縦に振る。

専用武装"グラウエ・エミネンツ"を展開したメイの、トマスに敬意を表した全力の攻撃で、トマスの身体はバラバラの、もの言わぬ骸と化した。

この日、アヴァロニア大陸にあった人間(アントロポス)の国・アヴァロン王国は最後の国王の死とともに滅亡した。

ヘーアとマリーネには意図時に描写はしていませんが男性も所属している(設定の)ため、幹部クラスの階級名は女性でも"ゲネラール"や"アトミラール"としていますが、デー・クラフトは女性限定なので幹部クラスは女性形の"ゲネラーリン"としています。

<2022/ 1/ 9修正>イーリスの専用武装の名称を修正しました

<2022/ 2/11修正>グナーテ→グナーデ

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