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空のエリス  作者: 長部円
第1部 3章
32/98

32 王国の自壊とマリーネの新たな戦場

今回はこれまでの1話分より文章量が少ないです。

また、実質30話目にして"初めてのこと"があります。

32


かつてはアヴァロニア大陸全土を領しながら、アマージエン島から海を渡ってきたディアボロスとの長年にわたる争いで南半分を失ったアヴァロン王国。

南部の大都市ジュリオポリス陥落を契機とする政変でゴーサ家に代わり王座を占めたバンベリ家だったが、ディアボロスたちの国・ヴェルトヴァイト帝国がアヴァロン王国との間で戦争を始めてから、帝国がジュリオポリスを攻略するまでに得た領土とそれ以後に得た領土はほぼ同じながら、要した年月を比較すると、後者は前者の半分以下。

帝国軍の規模が大きくなってきたことを考慮しても、アヴァロン王国から見た戦況は前のゴーサ朝時代より今のほうが確実に悪化していた。

最近では大陸の中央に位置する、建国以来の王都だったセントメアリで"内乱"が発生して国王と王太子が犠牲になったり、王都以外の大都市でもアヴァロン王国からの独立を企てる貴族と王国に忠誠を誓う者たちによる内戦が起こったりと、人間たちの自滅が目立っている。


王都を追われていたが故にバンベリ家の王位継承権を有する者で唯一生き残ったトマスが新王となり、それによって彼の居城だったグラニット城はセントメアリに代わる王城となったが、セントメアリの"早期奪回"を声高に叫ぶ者も少なくない。

トマスの側近と認識されている者たちのうち唯一の女性であるイレインは、グラニット城内にある自室でセントメアリから戻った部下の報告を聞き終えると、自分に寄りかかっている小柄なアイリスに話しかける。

「男どもは"一日でも早く陛下をセントメアリに"と簡単に言うけど、まずは"魔王軍"に惨敗した王国軍を一日でも早く立て直さないと、王国自体が魔王軍に滅ぼされちゃうのにね…」

「今聞いた限りでは、セアラ姫のセントメアリ統治がご自分の意思なのか、魔王に操られているのか、はたまた別の勢力が介入しているのかはわからないけど、男がいないこと以外は平和そのものなのね…。

 それで、魔王軍に夫を殺された妻やその娘がセントメアリに移住していると…」


イレインに報告を行った部下(もちろん女性)は、商人の付き添いを装ってセントメアリに入り、城内の様子を可能な限り探って帰ってきたが、結果はアイリスが(つぶや)いた通りの内容だった。

帝国軍がセントメアリの北でアヴァロン軍を挟撃し、執拗に追撃したことでアヴァロン軍の多数の兵が殺され、それによって多くの家族が母子家庭となった。

トマスの側近の男や各地の領主も王国軍の立て直しが重要であることは当然認識していたが、一部の者たちが夫を失ったばかりの妻や父親を失って間もない娘に独身の男と結婚させる政策を強引に進めようとしたため、当事者である女性たちの大半は反発し、住み慣れた場所を去って、女性しか入れないセントメアリを目指す者たちもいた。

「まるで魔王軍が手を回しているのではないかと思うくらい、自ら王国を内から壊すようなことをしているのよね…」

「陛下が遣わしたマルティナはセントメアリへ行ったきり帰ってこないし、いっそのこと、わたしたちもセントメアリに行く?

 わたしはイレインと一緒にいられればどこに住んでも構わないし、魔族を忌み嫌ってもいないから、セントメアリが"実は魔族の支配下だった"っていう状況でも大丈夫」

アイリスの問いに、イレインは何も答えなかったが、その選択をする可能性はあると考えていた。


----


アヴァロン王国が内側から少しずつ"自壊"しており、それ以外にも帝国による"搦手からのアヴァロン攻略"が着々と進んでいるものの、セントメアリとその近郊でアヴァロン軍に大打撃を与えた帝国軍がツェントラルシュタットへ撤退してから、帝国軍とアヴァロン軍による軍事衝突は"表面上"発生していない。


セントメアリを挟んでヴェルトヴァイト帝国の"ヘーア"とアヴァロン王国が事実上休戦している間に、アヴァロニア大陸の"外"でヴェルトヴァイト帝国が動いた。

すでに海上・海中では"世界征服"を果たしているヴェルトヴァイト帝国の海軍"マリーネ"は、アヴァロニア大陸の"次"に征服する大陸として北にある"テストゥド大陸"を調査していたが、新たな段階の第一歩として"バグロヴァヤ帝国(イムペーリヤ)"最南端の町トリウゴーリニクに侵攻。

バグロヴァヤ帝国は海の向こうにある国々との交流が途絶していて、ヴェルトヴァイト帝国も含めて攻めてくる勢力がなかったため、重要性の低い南部の海沿いの町に防衛戦力をほとんど置いていなかった。

「イルミナ様からテストゥド大陸征服の一番槍を任されたからには、相手がたとえ弱くても侮らずに攻めよ」

指揮官を務める"ツヴェルフ・ウンディーネン"の1人、"メルジーネ"のコルネリアは、そう言って気を引き締めさせてからマリーネの兵たちを攻めかからせた。

ほぼ無傷でトリウゴーリニクを手に入れると、コルネリア率いるマリーネは隣接する海沿いの町を次々と攻め落とす。

バグロヴァヤ帝国にとってはわずかな失地だが、ヴェルトヴァイト帝国にとってはテストゥド大陸征服のための重要な橋頭堡を築いた。


"ズートリヒェス・ドライエク"と名を改めた最南端の町を拠点にして、アヴァロニア大陸を征服した後にやってくるヘーアのための"下ごしらえ"や、ヘーアによるアヴァロニア大陸征服を早めるための"新兵器獲得"などがマリーネのテストゥド大陸におけるこれからの役割。

アビュススでズートリヒェス・ドライエクに留まったコルネリアからの使者による報告を受けたイルミナは、早速パンゲーアにあるノクスの部屋を訪れる。

「お姉様…テストゥド大陸での"足場づくり"は、ネリネリの率いたマリーネによって無事完了しました。

 後はお姉様がアヴァロニア大陸を征服するまでじっくりコトコト"下ごしらえ"をしておきますから…。

 バグロヴァヤの人間(アントロポス)を"兵器"として欲しい場合は遠慮なく言ってくださいね」

「わかったわ。

 マリーネには優秀な子がたくさんいて、頼もしい限りね。

 そんな頼もしい子たちに、アヴァロン王国北部の海沿いを突っついてもらうかもしれないから、準備だけはしていて」

「承知しました、お姉様」

大好きな姉と唇を重ねてから、イルミナはアビュススへ戻っていった。

なんと、今回本文に一度も"エリス"という名前が出てきませんでした。

次回は多分出てきます。

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