29 皇女と聖女と女神の眷属たち
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セントメアリの西門前に佇むマルティナとルーシアの姿は、西門の近くに立つ巨大な円柱型魔導器"アハテ・ゾイレ"に取りつけられた監視用魔導器を通してエリスとエクレアに見られていた。
なお、セントメアリの周囲にある円柱型魔導器は東から反時計回りに"ドリッテ・ゾイレ"、ファニーの"ラボ"の屋上に設けられた"ゼクステ・ゾイレ"、北にある"フィアーテ・ゾイレ"、北西の"ツヴァイテ・ゾイレ"、西門そばの"アハテ・ゾイレ"、南西の"ジープテ・ゾイレ"、南の正門前にある"フュンフテ・ゾイレ"の7基で、南東の"ヴァイヒェ"にある半分沈んだ塔"エルステ・パゴーデ"と合わせた8つによってセントメアリを覆う"結界"を形成している。
女性は通常、"結界"を視認できないが、デメリットなしで結界内に入れるため、特に不都合はない。
一方、男性にとって"結界"は絶対不可侵領域。
男性と女性が手をつないで"結界"を越えようとした場合は、"不思議な力"で手は離され、"結界"の内外で隔離されてしまう。
また、"結界"だけで男性が打撲や挫傷を負うことはないが、"結界"と別の物体に挟まれた場合にはその限りではない。
マルティナとルーシアはもちろん女性なので、"アハテ・ゾイレ"が少し気になったものの、"結界"を気に留めることなく西門からセントメアリに入城した。
それを見たエクレアは、
「それじゃ、"お客さん"を迎えに行ってくるですの!
エリスはメイと一緒に"役所"で待っていてほしいですの」
と言い残して、疾風の如く去っていった。
「エクレアちゃん、いつになくそわそわしてたわね…かわいかった…」
「はい…とりあえず、お待たせしないよう早く"役所"へ行きましょう」
エリスとメイは表情を緩めながら"役所"へ向かった。
マルティナとルーシアが空に浮かぶヒンメルスパラストを目標にセントメアリの市街地を歩いていると、
「ルー!」
小柄な女の子がルーシアに抱きついた。
「その声は、エ…エクちゃん…」
「ルー…会いたかったですの…」
「エクちゃんと"王都"で会えるなんて…うれしい…」
「今はここで仕事をしているですの…」
「その、"お姫様"みたいなかわいい姿もお仕事の関係?」
「うん…それで、ルーとそこのおねえさまに、今の私そっくりの"お姫様"に会ってほしいですの…」
「私はもちろんいいけど…ティナはどうですか?」
「わたしは…ルーとエクちゃんについていきます…」
小柄な2人から上目遣いで見つめられたマルティナに同意する以外の選択肢はなかった。
"役所"に裏手から入った3人が応接室のような部屋で、主にルーシアとエクレアの昔話でキャッキャウフフしていると、
「エクレアちゃん、時間通り来たわよ」
エリスとメイが部屋に入ってきた。
「黒髪の子…ほんとうに今のエクちゃんそっくり…」
「はわわわわ…ヵヮィィ…」
ルーシアはだらしない表情になる程度で済んだが、"かわいい"の極致であるエリスと、"美貌"と"愛らしさ"が絶妙なバランスで保たれているメイに魅了されたマルティナは、顔を真っ赤にして目を開けたまま意識を失った。
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意識を取り戻したマルティナは4人のロリっ子に囲まれていた。
「マルティナが目を覚ましたようなので、2人にエリスとメイを紹介するですの。
こちらはエリス…ヴェルトヴァイト帝国の第3皇女ですの。
その隣はメイ…ゴーサ家唯一の生き残りで、今セントメアリの名目上の主はこの子ですの」
「エクちゃんもティナに自己紹介して」
「わかったですの…私は…エクレアですの…。
"無"の女神レア様の眷属で、エリスが生まれた時からずっと一緒にいるですの…」
「エクちゃんの本名はエクレアではなくて別の名前なのですが、その名前で呼ばれることを嫌うから、私と同じようにエクちゃんと呼ぶか、エリスのようにエクレアちゃんと呼んであげてください…」
「わかりました…えっと、エクちゃんがルーの親友で、エリスちゃんが"魔族"のお姫様で、メイちゃんが"内乱に乗じて王都をバンベリ家から奪い返したゴーサ家"のお姫様、でいいかしら?」
「ええ、概ね合っているわ」
「それで、エリスちゃんが真ん中にいるなら、エリスちゃんにお願いするべきよね…。
エリスちゃん…いいえ、エリス様…わたしを、ルーといつまでも一緒にいられるようにしてください…。
その、たった1つのわがままを叶えていただけるならば、わたしの心と体はエリス様に捧げます…」
「急展開だけど、その前に…マルティナにはいろいろ聞かせてもらうわね…」
マルティナはエリスの求めに応じて、自分とルーシアがセントメアリに来た目的や、アヴァロニア大陸北部で存続しているアヴァロン王国の内情を知る限り教えた。
「あなたは現在のアヴァロン国王に仕える侍女だったのに…いいの?」
「わたしはトマス様やアヴァロン王国といった俗世のものへの忠誠より、ヴェクトラ様への信仰を優先していましたから、トマス様の侍女としての出世は諦めていましたし、ヴェクトラ様から遣わされたルーとずっと一緒にいられるなら、手段は選びません…うふふ…」
「ヴェクトラ様への信仰に疑いの余地はなさそうだけど、もう1つあるでしょう…」
「はぃ…だって仕えるなら大して好きでもない男よりかわいいエリス様の配下になってルーと一緒にかわいいエクちゃんやかわいいメイ様を愛でたいれすから…はぁはぁ…」
エリスの"最後の一押し"で頭の中の何かが壊れたマルティナはロリコンに堕ちていることを白状した。
「エリスねーさま、遅れてごめんなさいです…」
「メイ様…忘れ物をお持ちしました…」
「フフフ…丁度いいタイミングでマルティナの好きなタイプの子が2人増えたわね」
「きゅ…きゅう…」
「あなたがエクレアさまのお友達の天使さまですね…ヴァンピーリンのアンネです」
「メイ様と同じ、元人間のシュテファーニエと申します…」
ロリっ子が6人に増え、短時間に"ロリかわいい"を過剰摂取してしまったマルティナは再び気絶。
アンネとファニーはマルティナのことを全く気にせず、ルーシアに自己紹介をしていた。
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ロリコンに堕ちたマルティナの頭の中を、彼女が目覚める前にエリスが虚無魔象で見たところ、すでにロリかわいい主人への絶対的な忠誠が深く刻み込まれているようだった。
だが、エリスは念のため最低限の"調整"を施して、マルティナを"人間形の兵器"扱いとした。
マルティナの額と瞳にはブラウベーレやビルネと同じ"エリスの紋様"が刻まれているものの、人格は"兵器"にされる前とほとんど変わらない。
エリスに侍女として仕えながらルーシアとイチャイチャし、たまにエリスの専属侍女であるアンネやファニー、それにルーシアの親友であるエクレアを愛でて表情をだらしなく緩めていた。
セントメアリは表向き"バンベリ朝アヴァロン王国"の"王都"という体裁を保っているが、本来の主である"国王"は不在。
実質的な支配者であるエリスの意を受けた前国王の第1王女セアラが"城主代理"を務め、グラニット城で"即位"した弟で"新国王"のトマスに対しては旗幟不鮮明のままでいるため、トマスは"内輪揉めの漁夫の利"を"魔王軍"に占められないよう、軍事力を伴わない"偵察"に止めている。
一方のヴェルトヴァイト帝国も、甘く見ていたカーボニア王国の抵抗が予想以上に激しく、"ヘーア"の進軍速度は低下。
休暇を取らせた有能なゲネラールを急遽呼び戻すかどうかを検討するなど、戦略の見直しを迫られている。
自身の介入で混迷の度を深めた地上の情勢をよそに、エリスはヒンメルスパラストでロリっ子たちとイチャイチャしていた。
エリスが自分の城とロリ天使(とおまけの聖女)を手に入れたところで2章は終わりとします。
次回は2章で新たに登場したキャラクタの情報をまとめ(全キャラを網羅するとは限りません)、3章は次々回からの予定です。




