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空のエリス  作者: 長部円
第1部 2章
28/98

28 天宮

28


アヴァロニア大陸北部のグラニット城から南下してきたマルティナとルーシアが、今のペースであと1日進めば"王都"へ着きそうな所まで来て、今日は次の町で1泊しようと話していたその時、"旧王都"セントメアリではとある"儀式"が行われていた。


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「アインス」

"ヴァイヒェ"にある半分沈んだ塔の頂上で、メイはその言葉とともにセントメアリへ向けて魔力を放つ。

「ツヴァイ」

「ドライ」

「フィーア」

「フュンフ」

エリスがメイとともにセントメアリの場外に設けた"円柱"のてっぺんにはクロエ、アンネ、レニ、クラウディアがいて、メイに続く。

「ゼクス」

"ラボ"の屋上に立てられた円柱からはファニーが魔力を帯びた両の掌を斜め下に向け、

「ジーベン」

ファニーとはセントメアリを挟んで反対側の円柱上にいるグレーテルが"パンツァーシュテヒャー"から、

「アハト」

アンネの反対側の円柱に立つカリナが天に掲げたモルゲンシュテルンから、魔力をセントメアリのある地点へ流す。


8名からの魔力を受け、王宮の正面に程近いソロナ広場は極彩色の光に包まれている。

正確には、8名からの魔力を浴びた、広場の中心にある大きな岩が極彩色に染まっている。

「ズィーゲルブルッフ」

エリスが広場の象徴だったその岩を鎌刃(ジッヘルシュナイデ)で四分すると、9名分の魔力で岩は細かく砕けた。

その直後、"封印"から解き放たれた王宮は振動すると、少しずつ空に浮かび上がった。


予めセントメアリの統治に必要な機能はすべて王宮の外に移して、"普通の人間(アントロポス)"は王宮及び周辺への立ち入りを禁じていたため、ディアボロスにした元人間(アントロポス)か"兵器"と同じ状態にした人間(アントロポス)といった、エリスの息がかかった者しかいない王宮内にて混乱は生じていない。

だが、セントメアリの住人である普通の人間(アントロポス)は流石に驚いていた。


底面が塔の頂上および円柱のてっぺんと同じ高さまで達したところで王宮は上昇を止めた。

エリスは王宮に入ると、レイチェルとの待ち合わせ場所へ向かう。

レイチェルは主であるエリスの姿が視界に入ると、思わず微笑んだ。

この日までにエリスによってディアボロスにされ、完全に身も心もエリスのものになった彼女の瞳は、人間(アントロポス)だった頃の青色から珊瑚色(コラレンロート)へ変貌している。

「エリス様…"ヘルツ"までご案内いたします…」

「頼むわね、ラヘル」

レイチェル改めラヘルはエリスから手をつながれると、頬を赤く染め、表情を緩めた。


ラヘルによって"壁"はすべて取り除かれ、エリスは王宮の"心臓部(ヘルツ)"にたどり着いた。

エリスの長姉ノクスが将来女帝の位とともに受け継ぐパンゲーアに、次姉イルミナがすでに自分のものとしているアビュススには備わっているが、エリスは自分の力で自らの拠点に"それ"を備えないといけない。

だからこそ、自我の覚醒の遅れと引き換えに女神レアから時空魔象(ラウムツァイト)虚無魔象(ニヒティヒカイト)を授かった。

一方で、姉2人は"既存のお下がり"だが、エリスは自分の好きなように設定することができる。

"それ"…すなわち、居城内に無限の空間を生み出す機能が、"王宮の心臓"と称される、間違いなく人間(アントロポス)ではなく神々の業による魔導器(マギーネ)のような機構にエリスの魔力を送り込むことで実装されるという。

"自分の中"からそう教えてくれたエクレアの言う通り、エリスは"王宮の心臓"に両手を触れ、2種類の魔力を送り込んだ。

白く輝いていた"王宮の心臓"が赤黒く染まると、"もういいですの"という声に合わせて魔力の供給を止め、エリスは床にぺたんと座り込む。


一休みしてからエリスは再び"王宮の心臓"に手を触れ、王宮の底面に現れた魔導器(マギーネ)のようなものを通して塔の頂上と7か所の円柱に魔力を飛ばす。

その後、リディアと遊んでいたベルタに、メイたち8人を呼んでくるよう依頼した。


メイたちが王宮に到着すると、エリスはメイに急接近してぎゅっと抱きつく。

「メイ…ついに手に入ったわ、私の拠点…ヒンメルスパラスト…」

「エリ、それはここの新しい名前ですか?」

「そうよ…"本来の主"のお気に召さなかったかしら?」

「いいえ…ここはもうエリのものですし、とてもよい名前だと思います…」

「えへへ…」

エリメイがしばらくイチャイチャしてから、エリスと侍女たちはダイニングで夕食をとった。


----


翌日の朝食後、エリスはメイ、クロエ、アンネ、ラヘルを従えてパンゲーアに戻り、リリスと2人の姉に"ヒンメルスパラスト"について報告した。

「エリスちゃんも自分の城ができたのね…」

「はい…でも、城内は"改装"の途中です…」

「エリスの都合のいい時に、是非私やイルミナを招待してほしいわ」

「はい、もちろんです…。

 ノクスお姉ちゃんとイルミナお姉ちゃんにはいろいろと助けていただいたので、2人にヒンメルスパラストからの景色を見せたいです…」

「それで、その子がアヴァロンのお姫様?」

「はい…見ての通り私たちの同胞(ディアボロス)にして、今はヒンメルスパラストの管理を担当する私の侍女です」

「お初にお目にかかります…わたしはエリス様の侍女ラヘルと申します…」

「エリスちゃんの"侍女"なら、アヴァロンのお姫様だった子だろうと危害を加えるつもりはないわ…。

 困ったことがあったら、エイぽんやフェベたん、キルるん経由で何でも相談してくれていいわよ。

 特にエイぽんはあなたと同じ元人間(アントロポス)だから、口数は少ないけど、優しく接してくれると思うわ…」

「はい…エリス様のお姉様はお2人とも優しそうで、ほっとしました…。

 不束者のなりたてディアボロスですが、よろしくお願いいたします…」

皇女たちと元王女は、主従関係にはなったもののそれ以上に親しくなった。


それから、エリスはパンゲーアの自分の部屋にあったもののうちいくつかをヒンメルスパラストに移したが、大半のものはそのままで、部屋自体も残すことにした。

自我が目覚める前も含めて、生まれてからずっと過ごしてきて、いろいろな思い出の詰まった場所だから。

食事については人間(アントロポス)との戦況を理由に、当分の間エリスたちはヒンメルスパラストで取り、ノクス率いる"ヘーア"がセントメアリより南の支配を安定させたら元の通りにすることを母と姉たちに伝えている。

「エリスちゃんがいないと美味しい料理もあまり美味しく感じなくなってしまうわね…」

「ノクスお姉ちゃんなら、王都を失った人間(アントロポス)など容易く蹴散らせるから、すぐ元通りになるはずです…」

「ええ、その通りよ…1日でも早く、エリスのいるセントメアリまで帝国のものにしてあげるから…」

「はい…」


----


この日の昼食を早目に済ませて"王都"への道を急いだマルティナとルーシアが"王都"セントメアリの西門前に着くと、遠くから見えていた通り、西門の近にはとても大きな"柱"が立てられ、王宮はかなりの高度に浮かんでいた。

<2023/ 5/ 6修正>不要な改行を削除しました

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