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空のエリス  作者: 長部円
第1部 2章
27/98

27 アヴァロニア各地での動き

サブタイトルは"これだ"、というものが思いつかず、当たり障りのないものになりましたが、いろいろと進展します。

27


エリスたちによる急襲から10日後、セントメアリはほぼ日常を取り戻しつつあった。

力仕事を含めて、セントメアリで女ができないことはないと認識されていたため、住人は1人として、男がいなくなったことによる"中長期的な重要課題"に気づいていなかった。

一方、"為政者側"であるエリスたちはもちろんその重要課題への対策をセントメアリを攻める前から検討しており、どういった政策をとるかは帝国軍の主力"ヘーア"の働き次第としている。


"王都で内乱が発生し、国王と王太子を含めた男性全員が殺された"という凶報は10日間で王国の主要な都市に伝わり、各都市の統治を任されていた貴族たちは当然ながら動揺した。

ジャーディンはセントメアリに男性の使者を派遣したが、使者はセントメアリへの入城を認められず、何の方針も決められないまま帝国軍に攻められ陥落。

帝国軍の最前線から離れているカーボニアやホープオールは王国を見限り独立を表明したが、王国に忠誠を誓う者たちが反発して内乱に発展。

カーボニアでは城主のブライト家を中心とした独立軍が勝ち"カーボニア王国"を建国、王国派は北方へ落ち延びた。

ホープオールでは王国派が城主のイズリントン家を降したものの、状況は内乱前より悪化しただけで、結局北方へ使者を派遣することとなった。


カーボニアで敗れた王国派とホープオールからの使者は同じ場所を目的地としていた。

アヴァロニア大陸北部にあるグラニット城である。

ここには"北方の守りを任せる"という名目で、王太子エドワードによってセントメアリから追い払われた第2王子がいた。

主要な都市よりはわずかに遅れたものの、"王都の内乱"については比較的早く情報を得ており、カーボニアからの"難民"とホープオールからの使者の訪問にも驚くことはなかった。


グラニット城の主である第2王子トマスは、王都にいた頃からエドワードと王位を争うつもりはなく、王都を追われてからも同様だったが、父王と兄を失い、執事のサミュエルや多くの側近からも"決断"を迫られては、それを拒むことはできなかった。

"正式なもの"は王都を奪還してから改めて執り行うこととし、トマスはグラニット城でアヴァロンの王位を継いだ。


ホープオールからの使者はグラニット城の近郊にあり、事実上の城下町となっている北部最大の都市サニーサイドに滞在していたが、サミュエルから新王の書状を受け取ると、喜び勇んでホープオールへ戻っていった。

その翌日、新王からの授かり物をサミュエルから渡され、1人の侍女がグラニット城から旅立った。

正確には、いろいろあってその侍女には天使が"お供"としてついていくことになった。

「ルー…行きましょうか…」

「はい、ティナ…目指すは王都です…」


----


2人が出発する前日、トマスの侍女マルティナはグラニット城内にある、女神ヴェクトラが祀られた神殿を1人で訪れた。

この日に限らず、ヴェクトラの信者であるマルティナはほぼ毎日この神殿で祈りを捧げていたが、それも"今日"を含めてあと2回だけになってしまうことから、この日はいつも以上に時間をかけて祈っていた。

すると、マルティナの前に愛らしい天使が現れ、目を閉じたままのマルティナに顔を近づけると、そのまま唇を奪った。


突然のキスにマルティナは目を開けて天使を見たが、気が動転していてそれ以上体が動かない。

「女神ヴェクトラ様はあなたの篤い信仰に報いるため、私にあなたのお供を命じられました…。

 私は天使のルーシアと申します…これからよろしくお願いしますね、マルティナ…」

「ルーシア様…」

「様などと呼ばず、親し気に"ルー"と呼んでください…」

「わかり…ました…ルー…あぁ…ルー…かわいいです…」

ルーシアは先ほどのキスの際に、マルティナの精神に干渉する魔法を籠めていて、それによりマルティナは初対面のルーシアを"ルー"と呼ぶようになったが、魔法が少し効きすぎたせいか、マルティナは暴走してルーシアを愛で始めた。

暴走したマルティナは比較的短時間で落ち着いたが、その間にたくさんかわいがられたルーシアもマルティナに好意を抱き、

「ルー…わたしのことも、ティナと…呼んでください…」

というマルティナからの申し出を断れなかった。

「はい…ティナ…」

ルーシアは熱っぽい視線をマルティナに向けると、再び唇を重ねた。


----


昨日出会ったばかりの2人は、すでに手を恋人つなぎにしながら歩いている。

ルーシアはトマスやサミュエルの前だけでは天使であることを隠さなかったが、それ以外はどうしても必要な時を除いて正体を隠すようにしている。

そのため、2人は幼いお嬢様と年上の侍女のように見られることが多かった。

「ルーお嬢様のお手々…とてもかわいいです…うふふ…」

「ティナ…だいしゅき…ずっと…そばにいてください…」

灰色のふわふわロングヘアを腰まで伸ばした少女と、黒いセミロングヘアの女性は、ラブラブな雰囲気を醸し出しながら王都への道のりを進んでいった。


----


アヴァロニア大陸北部での動きは、ほとんどがヴェルトヴァイト帝国の女帝リリスと皇女たちが想定した範囲内。

そのため、帝国の対応も的確だった。

ホープオールはグラニット城へ遣わした使者が援軍ではなく書状1通しか得られず、その使者も道半ばで帰る場所を失った。

アヴァロン王国では五指に入るほどの大都市だったホープオールも、内輪揉めで疲弊したところを"ヘーア"の精鋭に攻められてはひとたまりもなく、帝国の軍門に降った。

ホープオールを攻略したヘーアはアヴァロン王国から独立した"カーボニア王国"の領内にも侵攻しており、同国が短命に終わることは避けられない情勢だった。

ただ、トマスの"王位継承"で北部に残るアヴァロン王国の勢力が士気を高めていることを考慮して、ヘーアを率いる第1皇女ノクスは"旧王都"セントメアリより北へそのまま攻め込むつもりはなかった。


一方、空からセントメアリを急襲してアヴァロン王国を大混乱に陥れたエリスは、一旦帝都に戻って母や姉たちにたくさん褒められたが、翌日からほぼ毎日"ヴルムロッホ"を使って専属侍女たちとともにセントメアリとの間を行き来している。

朝食後に出かけて夕食前に帰ってくることもあれば、2日間や3日間セントメアリに滞在することもある。

セントメアリでエリスはメイと一緒に、城壁の外における大きな魔導器(マギーネ)の設置と、城壁の内側における大規模な"改装"を行っており、セアラの執務室も"改装"に伴って王宮から、"空き家"になった屋敷を利用した"役所"へ移転した。

レイチェルとリディアは王宮に留まり、エリスとメイが王宮に泊まっている日の朝と夜は2人とイチャイチャしているが、日中は魔女っ娘ベルタが帝都からやってきて遊び相手になっている。


ベルタは希望していた王都攻めへの参戦こそ果たせなかったが、年相応の役割でエリスに貢献していた。

ある日、アンネからセントメアリで2人きりのデートをしたいと誘われ、迷うことなく承諾。

人間(アントロポス)たちの都でアンネお姉さまと2人きりのデート…わくわくしすぎて、当日まで眠れないかも…」

そう言っていたベルタは本当に眠れないようだったので、アンネがベルタの意識を吸血種固有の能力で眠らせた。


前夜に十分な睡眠を取れたベルタはデート当日、いつもよりはしゃいでいた。

その様子を見てアンネもうれしそう。

「あの大きな帽子をかぶった元気な女の子、とてもかわいいわ…」

「一緒にいるツインテールの子も、歩くたびにツインテールと背中の翼がぴこぴこ動いてすごくかわいい…」

「2人とも私の妹にしたいくらいよ…」

デート中のアンネとベルタはセントメアリの住民から一切ちょっかいを出されず、優しく見守られた。

アンネを"四天王"の序列3位(ドリッテ)にした理由は、エルステやツヴァイテのような、"よほどのことがない限り常にエリスの側にいる義務"を負わなくて済むためです。

エリスの血を吸ったことによって能力の制御ができるようになったアンネは、現時点(27話時点)での戦闘力なら四天王"最強"という設定です(メイが今後の成長によってアンネを上回る可能性はあります)が、四天王"最年少"でもあり、アンネから"ねーさま"として慕われているエリスとしては、"妹"にできる限り年相応の振舞いをさせてあげたいと考えています。

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