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空のエリス  作者: 長部円
第1部 2章
26/98

26 "お宝"とアンネのごちそう

26


エリスとメイはヘンリーとエドワードを討ち果たした後、隠し通路の前で待っていたクロエとアンネを呼び、2つの骸が横たわる隠し部屋へ戻ってきた。

「さあ、アンネ…ごちそうよ…」

「おいしそう…いただきます…」

アンネはエドワードに咬みつくと、一心不乱に血を吸う。

エドワードの血に飽きると、次はヘンリーの血を味わった。

「えへへ…人間(アントロポス)の王と王太子の血なんてめったに味わえないから…。

 エリスねーさまの専属侍女になれて…ほんとうによかったです…」

アンネは口の周りを血塗れにしながら、愛らしい笑顔をエリスに向けた。


アンネの"至福の時"が終わると、4人は別の隠し部屋へ向かう。

メイが壁を消してもとさらに封印された扉があるという厳重さだったが、メイは難なく封印も解除して扉を開けた。

部屋の中の"お宝"は3人の王女。

3人はエリスとメイを見ると顔が真っ赤になり、次女と思われる少女は失神して仰向けに倒れ、一番小さな子は目を開いたまま失神してしまった。

「"囚われの王女様"を助けに来たのだけれど、これはどういうことかしら?」

「それは私が…いいえ、私たちがあなた方に一目惚れしてしまったからです…。

 この子たちはあなた方へ抱いた好意が強すぎて、それによる負荷に脳が耐えられなかったのでしょう…」

「そう…それで、あなたが第1王女ね」

「はい…セアラと申します」

床に横たわっている少女は第2王女のレイチェル、虚ろな目をメイに向けたままの少女はリディアだとセアラから紹介され、

「わたくしたちの自己紹介をする前に、この子たちを目覚めさせますね…」

メイがレイチェルとリディアに触れて魔力を送り込むと、2人の体がびくっと動き、レイチェルは瞼を開いて起き上がった。


エリスはレイチェルとリディアが"目覚めた"ことを確認してから自分と3人の専属侍女を紹介したが、

「エリス様…エリス様…」

「メイさま…メイさま…」

レイチェルはエリスを、リディアはメイをずっと見つめながら名前を繰り返し(つぶや)いていた。


ファニーが王都セントメアリに降らせた泡の玉(ブラーゼ)にはザフィッシュマテリエ以外にもいくつかの"薬"が配合されており、その1つに"外見の年齢が自分と近いディアボロスにより強い好意を抱く"効果を持たせている。

セアラは一番年上で、クロエに一番惹かれたものの失神するまでには至らなかった。

だが、比較的幼いレイチェルとリディアはエリメイに魅了され、目が覚めた今でも頭の中が正常に働いていないようだった。


「私もレイチェルは好みのタイプだから、相思相愛ね…。

 "肩書"をどうするかは後で決めるとして、レイチェルは私が侍女としてもらうわ…」

「わたしたちを助けてくれたエリス様にもらっていただけるなんて…うれしいです…」

エリスの言葉を受けて、レイチェルの表情は満面の笑みに変わった。

「リディアもエリのものになるのよ…。

 ベルタという魔女っ娘(ツァウベリン)の遊び相手として一緒にいてもらうことになるけど、ときどきエリと一緒に様子を見に行くからね…」

「はい…リディアはエリさまもメイさまもだいすきだから…エリさまのものにしてもらえてうれしいです…」

リディアは自分の役割についてよくわかっていないようだが、エリスのものになったことだけは理解したようで喜んだ。


「セアラは、メイの"代理"を務めてもらうわ。

 このセントメアリはメイが"奪回"したけど、メイは私のエルステとしてずっと私のそばにいてもらうから、"女王メアリ5世"としての職務執行は難しい。

 そこで、"旧王家"の第1王女で現状のセントメアリについては私やメイよりも詳しいあなたに、セントメアリを統治してもらうのよ。

 もちろん、必要なサポートはわたしたちや帝国が惜しみなく行うわ」

「はい…忌々しい男どもを滅ぼし、男どもによってここに閉じ込められていた私たちを助けていただいたご恩に報いるため、エリス様に従い、メイ様の代理を…いつか解任されるその日まで、精一杯務めます…」

"旧王家"の王位継承が男子に限られていなければ、弟のエドワードではなく彼女が王太子(クラウンプリンセス)として、将来は女王として王国を導いただろうと容易に推測できるほど才知に長けているセアラだったが、ザフィッシュマテリエなどで思考を歪められ、ディアボロスのエリスに忠誠を誓った。


その後、王宮にレニとカリナが交互にやってきて王国軍残党の状況を伝えに来たため、それぞれの最初のタイミングで3人の王女を紹介。

結局、1日で残党の完全制圧はできず、エリスたちはそのまま王宮へ残ることを決め、ヴァンピーリンのアンネ以外はそれぞれ、護衛と監視を兼ねて王女の部屋で寝ることにした。

「おやすみなさい、クロエ様…」

セアラはクロエと一緒に寝ることとなり、クロエに抱かれながら眠りについた。

「エリス様ぁ…えへ…えへへ…」

エリスにおやすみのちゅーをされて失神したレイチェルは、夢の中でエリスに"何か"をされ、妖しげな寝言を発していた。

「メイさま…おやすみ…ちゅっ」

リディアは逆に、自分からメイにおやすみのちゅーをして、メイの左腕に自分の腕を絡めながら瞼を閉じた。


----


翌朝、朝食の時間前にエリス、メイ、クロエと3人の王女が集まっていると、アンネが戻ってきた。

「エリスねーさま、残党は全滅させました…ファニーねーさまにも生存者がいないことを確認してもらいました…。

 ファニーねーさまは、朝食は"ラボ"でとって、それからこちらに来ると言っていました」

「そう…ご苦労様、アンネ…。

 朝食は…もうたくさんとったわよね?」

「はい…でも、一緒にいさせてください」

「もちろんいいわよ…私たちが眠っている間、健気に働いてくれたかわいい子のお願いだもの…」

エリスはアンネの頭を愛おしそうに撫で、アンネは大好きな"ねーさま"の手の感触に目を細めた。


ファニーはそろそろ昼食の準備が整いそうな時間になって、ようやく王宮に姿を現した。

「遅れた理由はあえて聞かないわ。

 それと、吐き出したい感情があるなら、メイと2人きりにさせてあげるから、そこで吐きなさい。

 おそらく、それは元人間(アントロポス)のメイでないと理解できないものなのだろうから…」

「エリス様…ありがとう…」

エリスが後からメイに聞いた話によると、隠し部屋の1つでメイに抱かれながら泣き叫んだらしい。

その詳細を聞いても、やはり生粋のディアボロスであるエリスには理解できなかったが、メイにはファニーをフォローしてくれたことへの感謝を伝えた。


メイとともに戻ってきたファニーはすっきりした表情で、それを見てエリスは安堵した。

4人揃った専属侍女とともにエリスは王女の部屋に行き、昼食へ誘うついでにファニーを紹介。

エリスやメイに対するような、失神するほど強すぎるものではないが、3人ともファニーからしばらく離れたがらないくらい強い好意を抱いた。


----


エリスは朝食後から"旧王室"に仕えていた者たちに準備をさせていたが、昼食時に準備完了の報告を受けたため、予め告知をした上で、1日の8分の5が過ぎたあたりに、かつて国王が何度か使った映像配信装置でセアラに話をさせた。

内容は、今後のセントメアリについて。

自分がメイの代理としてセントメアリを治めることや、男が全滅したことによる影響と対策については早急に調査をして必要な法改正をするが、それまでは原則として以前のままの生活を続けてほしい、などを訴えた。

セアラの話が終わった直後には、同じく準備を進めさせていた臨時の陳情窓口を王宮のすぐそばに開設したが、訪れた者は一番多い日でも10人を超えることはなく、男を滅ぼした後のセントメアリの住人は非常に落ち着いていた。

エリスたちによる王都急襲から3日経つと、セントメアリの住人に十分浸透したザフィッシュマテリエは、セントメアリの空気中から消滅した。

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