24 ヘーアの攻勢と最終準備
今回もいろいろあって少し短めです。
[用語補足]
ヘーア:第1皇女ノクス(エリスの姉)が率いる"陸上軍"
ゲネラール:ヘーアの"将官"クラスの軍人
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「ダクマー、わずか2日でスクエアロック砦を攻略するとは流石ね…」
「私だけではなく、ノクス様のために戦った者全員の働きによる結果です…」
ノクスはアヴァロン王国の拠点の1つスクエアロック砦を攻略して凱旋したゲネラールのダクマーを、パンゲーア内にある指令室に招いて功績を称えた。
「オルヒデーエはどうだった?」
「ノクス様が"秘密兵器"としてお貸しいただいた人間は素晴らしい働きでした。
このまま私の配下としたいくらいです」
「気に入ってもらえたようでうれしいわ。
今は難しいけど、エリスが"面白い作戦"でアヴァロンの王都を手に入れようとしているから、それが上手くいけばたくさんの"兵器"の素材が手に入るのよ。
あなたも自分好みの"兵器"を側に侍らすことができるようになるわ…」
「その時はぜひ…エリス様みたいな"愛らしい兵器"が…欲しいです…」
「まあ、それはともかく…明後日に次の指示をするから、それまではゆっくり休みなさい」
「はい、ありがとうございます…」
ダクマーはエリスが生まれる前からノクスに仕えていたが、偶然見かけたエリスに一目惚れしてから、"もっとエリス様に近づきたい"という欲望が芽生え、それが急速な成長を促進。
今では有能なゲネラールとしてノクスから厚い信頼を得ている。
ノクスもダクマーの想いは把握しており、エリスの初陣の際には何らかのサポートができる持ち場を用意するつもりでいた。
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パンゲーアの別の場所では、エリスの専属侍女4人が、"先輩"であるノクスとイルミナの専属侍女たちから教わった方法でエリスの専用武装を"完成"させた。
「できた…これがエリの…専用武装…」
「お姉ちゃんたちのベヘモトやレヴィアタンと同様に、これも本当の完成には長い年月を経て鍛えないといけない…。
今のこれは王都攻めに必要な要素だけを組み込んだ"ヴェアジオーン・ヌル"…。
それでも、メイとクロエとアンネとファニーが4人の魔力を合わせてこれを創り、メイがビブリオテークの本から見つけ、空を飛ぶ私の専用武装に相応しい名前"ジズ"をつけてくれた…ありがとう…」
エリスはメイから順に、4人の専属侍女たちに抱きついて感謝の気持ちを表す。
エリスが早速"ジズ・ヌル"を試着してみると、
「エリ…すてき…」
「お嬢様…お美しい…明日にでも、ノクス様とイルミナ様にそのお姿で空を飛ぶ様子を…」
「エリスねーさま…アンネ…早く"ジズ"を着けたエリスねーさまと一緒に飛びたいです…」
「メイ様とわたしの共同作業によって生まれたものを…エリス様がお召しになっている…」
4人ともしばらくの間、うっとりとエリスを見つめていた。
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翌日の朝食後、クロエの提案通り、エリスはノクスとイルミナを屋上に呼ぶと、"ジズ・ヌル"を身に着けた状態でパンゲーアの上空を飛び回った。
「エリスちゃん…専用武装を着けていてもあんなにかわいいなんて…」
「これで、王都攻めの準備はほぼ整ったわ…後は細部の詰めだけね…」
「お姉様は、あのエリスちゃんを見て何とも思わないのですか?」
「か…かわいいに決まっているじゃない…。
もちろん、初めて"レヴィアタン"を身に着けた時のイルミナも…とてもかわいかったわ。
立派に成長した今でも、かわいい妹のイルミナは…大好きよ…」
ノクスがイルミナの唇を奪い、時間をかけてその感触を味わってから離れると、
「お姉様…」
イルミナの頭の中は最愛の姉のことで占められ、彼女の目にもノクス以外映らなくなっていた。
そして、今度はイルミナから、ノクスの唇に自分の唇を重ねる。
エリスはそんな姉2人のイチャイチャを"特等席"から見ていた。
「ノクスお姉ちゃんもイルミナお姉ちゃんも、屋上まで何をしに来たのですか…」
「エリスちゃん、ごめんなさい…お姉様にキスされた瞬間、完全にお姉様のものになってしまったの…」
「見ていましたから、イルミナお姉ちゃんが悪くないことは…わかっています…」
「エリス…お詫びに、イルミナにしたキスをエリスにもしてあげる…」
「はい…ちゅーで私に…大好きなノクスお姉ちゃんの魔力をたくさんください…」
ノクスはお詫びと称して小柄な妹エリスとも口づけを交わし、エリスはノクスにかわいく甘えるだけの存在と化す。
昼食の時間になるまで続いた姉と妹の妖しいじゃれあいを、イルミナは至近距離で興奮しながら見ていた。
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専属侍女たちはエリスの専用武装"ジズ・ヌル"を創った後も、エリスのものよりはかなり性能が落ちるものの、エリスの初陣に付き従う者の装備として相応しい、飛行ユニットを組み込んだ自分たちの専用武装を創り上げた。
メイのものは"グラウエ・エミネンツ"、クロエのものは"ナハティガル"、アンネのものは"ブルートローテ・プリンツェシン"、ファニーのものは"グリューネ・フルヒト"と名付けられ、親衛隊"シュヴェンツェ"のメンバーとともに飛行ユニットの習熟訓練が連日行われた。
ノクスが率いる"ヘーア"はイングリトやダクマー、ツェツィリアといったゲネラールたちの活躍で、さらにいくつかの砦と小規模の町を占拠したが、王都や大都市にはあえて近づかず、しばらくは奪った砦や町の防衛に徹した。
アヴァロン王国側も何回かは砦や町の奪回を図って攻めてきたが、王都や大都市から距離がある戦場への遠征にかかる負担が大きく、帝国側の攻勢が止まって2か月経つと、王都や大都市における"戦時下"の雰囲気は薄れていった。
そんなアヴァロン王国側の様子を注意深く観察してきたノクスがある決断をすると、女帝リリスと妹2人にそれを告げる。
ノクスの決断を受けて、エリスもシュヴェンツェの配置やヘーアとの連携など、最終確認を行う。
3日後…エリス初陣の前夜に、リリスと娘3人は専属侍女も外させて、4人だけで夕食をとった。
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「エリスちゃん、忘れ物はない?」
「ないです」
「エリス…吉報を待っているわ…」
「はい…それでは…母様、ノクスお姉ちゃん、イルミナお姉ちゃん…行ってきます」
「行ってらっしゃい」
"4人だけの晩餐"の翌朝、大好きな母リリスと2人の姉に見送られて、エリスは"ヴルムロッホ"で通路を生成すると、4人の専属侍女とともに通路を使って初陣の出発点…"ヴァイヒェ"へ向かった。
エリスの初陣まではもう少し時間と話数を掛けたかったのですが、思ったほどアイデアが思い浮かびませんでした…ということで、次回はエリスの初陣です。




