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空のエリス  作者: 長部円
第1部 2章
23/98

23 ファニーとザフィッシュマテリエ

23


「メイのポニーテール…しゅき…もふもふ…すりすり…うへへ…」

「エリの…ふわふわの髪の毛…だいしゅきれす…すりすりすり…」

エリスは自分の部屋でメイとお互いの髪の毛を触りあい、相手から触られる心地よさに酔いしれていた。

「ふぅ…エリ…エリ?」

我に返ったメイがエリスを見ると、エリスの目は焦点があってなく、漆黒の瞳が別々の方を向いて小刻みに動いている。

「らいじょうぶれす…わらしは…かわいいメイのものれすから…」

「エリス自身が言っている通り、大丈夫ですの…。

 この状態ならファニーの薬で元に戻るですの。

 でも、メイが時間経過で正気に戻るような薬がエリスに効いたままになる…これはエリスの弱点になってしまうですの…」


ファニーがエリスを薬で正気に戻してから、メイが先ほどまでのエリスの状態を分析する。

「おそらくエリの体には、わたくしたちが備えているような、一部の有害物質を分解するような機能がないのでしょう…」

「それは私が強大な力を持って生まれた代償なのでしょうが、その物質が特定できれば短期的には私の力で防げるし、時間をかければ、メイが私のためにその物質を無効化するものを創ってくれるわよね?」

「はい…エリのためであれば、どんなに時間がかかっても、それを創ってみせます…」

「うふふ…大好きよ、私のエルステ…」


----


エリスとメイが妖しいスキンシップに(ふけ)っていた要因は、ファニーが王都攻めに使用する薬の実験にエリスとメイを付き合わせたためである。

ヴァンピーリンであるアンネは種族固有の状態異常耐性を持っており、他の"アハトシェッツェ"のメンバーも別の準備で忙しそうだったため、対象から外した。

その上で、"被験者"本人には詳細な効果を言わずに"軽い状態異常を起こす薬"とだけ説明して飲ませた。

「愛しいエリス様とメイ様に危ないお薬を飲ませるなんて絶対しません…」

とファニーは語っていたが、ファニーが2人へ向ける少し歪んだ愛情は、とんでもない事態を引き起こしかねないので、エリスとメイはファニーの精神的なケアを絶対に欠かさなかった。


----


ファニーの薬に含まれた状態異常を起こす有害物質をエリスが無効化できるようになり、さらに"一歩進んだ対策"も取れるようになった段階で、エリスはリリスの許可を得ると、メイ、アンネ、ファニーを従えて帝都ヴェルトブルクを離れ、ジーベンプランツェンという大草原に向かった。

4人とも"魔導眼鏡(ツァウバーブリレ)"の他、頭に猫耳(カッツェンオーレン)魔導器(マギーネ)を乗せている。

「猫耳メガネっ娘のメイが…かわ…かわいすぎて…撫でたくなるわ…」

「えへへ…エリ…エリの猫耳メガネっ娘姿も…とてもかわいいです…」

初めて猫耳型魔導器を着けた時はこんなやりとりがあって、エリスとメイはやや暴走気味だったが、今はだいぶ慣れたようで、若干興奮が高まる程度に収まっている。


「これが"ヴェルティアティッシェ・リーリエ"なのね…」

「はい…パンゲーアにあった書物では、この状態であれば"ザフィッシュマテリエ"は放出されていないようです」

リリスからは自生している総量の4分の3くらいまでなら刈り取ってもいいと言われていたため、数日かけて約半分を刈り取り、パンゲーアの倉庫のようになっている一室で保管した。


その後、ヴェルティアティッシェ・リーリエがザフィッシュマテリエを放出する時期になってから、4人は再びジーベンプランツェンを訪れた。

まずは状態異常耐性を持っているアンネを先行させ、"情報"を採取する。

往路は小さな翼をパタパタと動かしながらゆっくり進んだアンネだったが、復路は魔力を通した大きな翼による高速飛行で帰ってきて、頭に乗せた猫耳型魔導器が高速飛行に耐え得ることも証明した。


「アンネは何ともなかったけど、エリスねーさまが"カッツェンオーレン"に籠めた"魔法"には反応があったみたいです…」

「期待通りね…よくやったわ、アンネ」

「えへへ…エリスねーさま…しゅき…」

エリスが上々の結果を持ち帰ってきたアンネの頭を撫でてやると、アンネは愛らしい笑顔を見せて喜んだ。

アンネの"カッツェンオーレン"を見たエリスは、それをもとに調整した魔法をアンネの"カッツェンオーレン"に籠めてから、もう1度アンネにヴェルティアティッシェ・リーリエの群生地まで往復してもらった。


新たに籠めた"魔法"に反応がなかったことでザフィッシュマテリエへの耐性を付与する魔法を見つけたエリスは、早速自分とメイ、ファニーの"カッツェンオーレン"にその魔法を籠める。

それから4人でヴェルティアティッシェ・リーリエの群生地へ向かい、前回の刈り取り前と比べて4分の1が残るよう、収穫量は前回の半分以下に抑えながら、収穫したヴェルティアティッシェ・リーリエを入れた容器からザフィッシュマテリエが漏れないよう、エリスの魔法で特殊な密閉状態にした。

「ファニー、後は任せたわ」

「はい…これで、王都は間違いなくとても愉快なことになるよ…くふふ…」


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アマージエン島に自生する百合の一種"ヴェルティアティッシェ・リーリエ"は、ある時期になると空気中に"ザフィッシュマテリエ"という物質を放出する。

昔は人間(アントロポス)とディアボロスが共存共栄のためにザフィッシュマテリエを利用したこともあったが、その"副作用"で多くの問題を引き起こしたため、当時のヴェルトヴァイト帝国の女帝が規制を強化。

現在はヴェルティアティッシェ・リーリエの刈り取りおよびアマージエン島の外への持ち出し、ザフィッシュマテリエの抽出・使用・アマージエン島の外への持ち出しなど、すべてで女帝の許可を必要とするようになり、実質的にそれらは禁止行為となった。


今回リリスがエリスたちにザフィッシュマテリエの取り扱いに関する許可を出した理由は、エリスやファニーの能力でディアボロスに不都合な"副作用"を無効化できる見通しがエリスから示されたためである。

王都攻めの計画において、ザフィッシュマテリエを使用しても、その効果が無秩序に拡散しないようにするための施策が併せてエリスから提示されており、リリスは専属侍女たちに諮問した上で、不許可にする理由はないと結論付けた。


----


数日後、エリスはザフィッシュマテリエの"改良"で根を詰めすぎているファニーの気分転換と、かつて望んだことを実現させるという大義名分のため、久しぶりに帝都のお忍び散策を決行した。

メイはファニーのために新しく魔女服と帽子を創り、帽子にはファニーの瞳と同じピンク色のリボンがつけられた。

ファニーはもちろんとても喜び、出かける前にもメイの魔女服姿に見惚れるなど、すでに満足している様子だった。


「あら…あの魔女っ娘2人と吸血種の女の子(ヴァンピーリン)、以前見かけたことがあるのだけど、お友達が増えたのね」

「ああ、この後用事がなければ、保護者っぽいお姉さんと交渉してかわいいロリっ子5人と遊ばせてもらうのに…」

通りすがりの女性が"5人"と言ったように、今回の散策にはエリスと専属侍女であるメイ、クロエ、アンネ、ファニーの他、ベルタもついてきた。

エリスは帝都散策のルートを"前回"と変えて、メイやアンネが退屈しないように気遣う。

だが、"自然公園(ナトゥーアパルク)"だけは外さなかった。

「ここが、わたしとアンネお姉さまが出会った思い出の場所です…」

公園の正面口から近い位置にある大樹の前で、ベルタは"恋する乙女"のような顔をして(つぶや)く。

「ベルタはあの時から少し大きくなったけど、アンネも成長したから、あの時と同じこと…してあげる」

アンネはベルタを後ろから抱えると、小さな翼を動かして、"あの時"よりも高い位置まで連れていった。

2人が地上に降り立ってからしばらく経つまで、幸せそうな表情をしたベルタの意識は"別世界"に行ったまま戻ってこなかった。


昼食の場も"前回"と同じ高級レストラン。

「専属侍女4人と一緒に帝都で食事をしたいという望み…叶えられてよかった…。

 次の望みは、"私の城"で専属侍女だけでなく、三賢女(ドライヴァイゼン)もカリナもベルタも含めて一緒に食事よ。

 いつになるかわからないけど、必ず実現させるわ…」

「そのためには、まず王都攻めだね…」

「でも、今日だけはそれを忘れて頭と体を休め、明日からまた頑張ってね、ファニー」

「はい…エリス様…大好き…ちゅっ…」

この時から眠りにつくまで、ファニーはずっとエリスの近くにいてスキンシップをとっていた。

ファニーの口調について、砕けたものと丁寧なものが混ざっている原因は、エリスによるファニーの洗脳に伴って意図的に残された"後遺症"です。

無理やり替えられた小柄な姿を"通常形態"として維持するため、口調は代償としてあえて不安定な状態にしています。

洗脳される前の姿に"戻った"時は丁寧な口調だけになりますが、逆にこの状態は長時間維持できないようになっています。

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