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空のエリス  作者: 長部円
第1部 2章
19/98

19 ブラーゼとザントサックと3人の空

19


カリナとベルタの姉妹がパンゲーアの侍女用2人部屋に移り住み、カリナが"アハトシェッツェ"の最後の1人"アハト"になってから2日後、エリスの部屋の1つで、アンネとファニーとベルタが"泡の玉(ブラーゼ)"を飛ばして遊んでいた。

「ファニーねーさま…たくさんのブラーゼ…すごいです…」

「この緑のブラーゼは、わたしたちディアボロスが触れても何ともないですが、人間(アントロポス)が触れると肉体が溶けてしまうのです…うふふ…早く生きた人間(アントロポス)の群れに降らしてみたいです…」

「アンネも…ファニーねーさまみたいにたくさんはできなかったけど…血でブラーゼを作ってみました…」

「アンネお姉さまの、血のブラーゼ…とてもきれいです…」

「ベルタの年齢なら…1つできるだけでもすごいよ…」

アンネが赤、ファニーが緑のブラーゼをいくつも飛ばす中、ベルタは青いブラーゼを1つだけ作って部屋の中に浮かせた。


ベルタが魔力を消耗して疲れた表情を見せると、アンネは彼女の小さな体に後ろから抱きつき、後頭部を撫でる。

「えへへ…アンネお姉さま、ファニーさん…こういう遊びの形でも、実践的な形でもいいので、もっとわたしにいろいろ教えてください…。

 焦る気持ちはありませんが、いつかエリス様が"動かれる"際に、わたしもカリナお姉さまと一緒に、アンネお姉さまの配下としてお役に立ちたいと思っています…」

種族が違いながらも、自分を"疑似的な姉"として慕ってくれる健気な"妹"に、アンネはあえて言葉ではなく、頬へのキスで応えた。

「アンネお姉さま…だいすき…わたしは…アンネお姉さまのもの…わたしの心も体も…すきにしてください…。

 アンネお姉さまのためなら…フフフ…ふへへ…」

"何かの限界"を超えてしまったのか、ベルタの言動が怪しくなった。


「小っちゃくてかわいい3人のイチャイチャ…たまらないわ…」

エリスは3人の様子を見ながら、近しい者以外にはとても見せられないような緩んだ表情をしていた。

「はい…アンネもファニーもわたくしを慕ってくれて…とてもいい子です…。

 でも、何があってもわたくしの一番は…エリ…あなたです…」

メイがそう言いながらエリスに寄りかかると、エリスはメイの白いポニーテールを弄びながら唇を重ねた。


----


1か月後、エリスはイルミナに呼ばれたため、留守番のクロエを除く"アハトシェッツェ"7名を連れてアビュススを訪れた。

「エリス様…今回は"活きのいい獲物"がたくさん手に入ったので、存分にお楽しみいただけます…」

イルミナが独自に定めた幹部集団"ツヴェルフ・ウンディーネン"の1人である"カリュプディス"のウルズラに出迎えられ、エリスたちが指定された部屋に入ると、中には数多くのヴァッサーライヒェとともにイルミナが待っていた。

「今日はウルズラちゃんがかわいいエリスちゃんのために頑張ってくれたから、こんなにいっぱい"ザントサック"がいるのよ…。

 さあ、誰が最初に楽しませてくれるのかしら?」

イルミナの声に応えてレニが前に出た。


レニは右手に持つ、"シアノアイゼン"と名付けられた片刃の片手剣で、瞬く間に4体のヴァッサーライヒェを斬り伏せる。

「魔法で足元に水を生成して連続攻撃を仕掛けるなんて、わたしの配下にぴったり…だったらよかったのだけど…」

「レニは海水の上でも戦えなくはないですが、あれほどの動きはできないので、残念ですけど、今はイルミナお姉ちゃん配下よりノクスお姉ちゃんの下で陸上を駆けるほうが向いているのですよね…」


クラウディアは正方形の下辺をV字状にした形の黄金盾(ゴルトシルト)から、グレーテルは"パンツァーシュテヒャー"から攻撃魔法を放ってヴァッサーライヒェを倒していく。

カリナはモルゲンシュテルンを右手に持ち、魔力を込めた強打でヴァッサーライヒェを次々と砕いた。

そして、ファニーは左手に緑色の(グリューナー)、右手に緋色(シャルラッハロート)短剣(ドルヒ)を持ち、

「うふ…うへへ…元人間(アントロポス)のメイ様から授かったこの刃で…元人間(アントロポス)のわたしが…人間(アントロポス)どもをバラバラに斬り刻んでやるです…」

ピンク色の瞳を妖しく輝かせながらヴァッサーライヒェの群れに飛び込むと、部屋を真っ赤に染め、肉片を撒き散らす。

アンネは小さな翼をパタパタと動かしながら、部屋の各所に斃れているヴァッサーライヒェからひたすら血を飲んでいた。


「アンネ、ファニー、最後にメイの見せ場を残してあげて!」

「はい、エリスねーさま…」

「メイ様が…わかりました…」

自分の言葉に従ってアンネとファニーが引き上げてきたことを確認すると、エリスは虚無魔象を部屋のあちこちに散らばったヴァッサーライヒェの残骸に放つ。

すると、残骸がまだ動いているヴァッサーライヒェにくっついていき、最終的に4体の巨大なヴァッサーライヒェと化した。

「メイ、準備はいいかしら?」

「はい…」

"魔導眼鏡(ツァウバーブリレ)"をかけ、床にぺたんと座ったメイの両肩には大砲(ゲシュッツ)が1門ずつ載っており、"発射準備"はできているようだ。

「ドライ…ツヴァイ…アインス…フォイヤー」

メイが淡々とした口調でカウントダウンをした後に大砲から放たれた"ケルパーブレヒャー"が巨大なヴァッサーライヒェを貫くと、4体はすべて跡形もなく"崩壊"した。

「これで…"後片付け"の手間が減りましたよね、イルミナ様…」

魔導眼鏡(ツァウバーブリレ)を外したメイはイルミナに、普段は見せない邪な笑みを浮かべながら話しかけた。

「ええ…それに、メイぴょんのその笑顔…とてもかわいいわ…」

イルミナも同じような笑顔で返事し、いつもより早く片づけが終わった後は、姉妹や専属侍女同士で時間の許す限りイチャイチャした。


----


エリスが率いる"デー・クラフト"は人間(アントロポス)の支配地域へ侵攻するための戦力がほぼ皆無であった。

エリスとアンネはファニーをスカウトした際に王都付近まで飛んだが、2人だけでは"点"での勝利しか得られない。

かと言って、2人のように高高度を飛べるディアボロスは他におらず、リリスのエルステであるヴァンピーリンのユリアネでもアンネには及ばないという。

また、グライフやハルピューイェといった魔獣は高高度を飛べるため"ヘーア"から"デー・クラフト"へ移籍させたが、リリスの魔力が及ばない帝国領外では能力が著しく低下するため、今のところはアマージエン島の防衛戦力に甘んじている。

そのため、メイのトイフェライ"シェプフング"による飛行ユニットの完成と量産が急務だった。


この度、かつてアンネが使った試作飛行ユニットの改良版がメイとファニーの共同開発によって作られた。

"普通サイズ"とメイやファニーのような小柄な者用の2種類を用意し、まずは後者をメイが試すことになり、パンゲーアの屋上にエリスと"アハトシェッツェ"の全員が集まった。

空中ではエリスとアンネが待っており、メイは2人がいる空を見上げながら飛行ユニットに魔力を通す。

メイの体はゆっくりと屋上の床から離れて浮き上がったが、あともう少しでエリスと同じ高さまで行ける、というところで上昇が止まった。

すかさずエリスが急接近してメイの身体を抱く。

「目標には少しだけ届かなかったけれど、メイは初めて私の助けなしで空に浮くことができたのだから…大きな成功よ…。

 おめでとう…」

「メイねーさま…おめでとうございます…」

遅れてアンネも後ろからメイに抱きついた。

「エリ…アンネ…ありがとうございます…」

2人に挟まれたメイは嬉しさ半分、悔しさ半分の涙を空中で流していた。


この後、普通サイズをカリナが装着し、メイと同じ高さまでは行けることを確認した。

今回の"実験"により、エリスのような特殊能力持ちやアンネのような種族特性かつ高い能力持ちでなくても、幹部クラスの魔力があれば飛行ユニットである程度空に浮けるようになり、これからは使用可能な者を増やすため、必要となる魔力下限と浮くことができる高度上限の緩和がメイたちの課題となった。

冒頭のロリっ子3人の遊びは、使っている素材が物騒なシャボン玉飛ばしです。

<補足説明(2022/ 6/26追記)>女帝リリスの魔力が及ばない帝国領外で、陸上・地中で活動する魔獣はノクスの魔力を、水上・水中で活動する魔獣はイルミナの魔力をそれぞれ得て活動するため、能力の低下はそれほどでもありませんが、グライフ(グリフォン)やハルピューイェ(ハルピュイア)といった空を飛ぶ魔獣は代わりの魔力を得ることができない(エリスがまだ、魔獣に魔力を与えられるようになっていない)ため、能力が著しく低下します。

今後、エリスの成長に伴って魔獣に魔力を与えられるようになれば、デー・クラフトも自軍の魔獣を用いた作戦を行えるようになります。

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