18 魔女っ娘と宝
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メイを助けるために単身"トゥルムバウ"へ突入した小柄な魔女っ娘エリス。
行く手を阻む敵はことごとく蹴散らし、最上階に到達。
そこにはトゥルムバウの主であるリーリエと、真っ黒な植物によって拘束されたメイがいた。
「この子を"シュヴァルツェプランツェ"から解放したければ、あなたがこの子にキスするしかないわ。
果たして、あなたに"その覚悟"があるかしら?」
わざわざ敵であるエリスに塩を送るようなリーリエの言葉だが、エリスがメイにキスをする、つまりファーストキスをメイに捧げることにより、エリスが"ファーストキスをしていない"という、魔女っ娘でいられる条件を満たさなくなる。
リーリエの言葉が終わるまで待ってから、エリスは躊躇なくメイに近づき、唇を重ねた。
シュヴァルツェプランツェが消え去り、解放されたメイをエリスが抱きしめると、
「エリ…魔女っ娘としての力よりも、わたくしを選んでくれてありがとう…」
メイは目を潤ませ、微笑みながらエリスに感謝の言葉をかける。
「お礼に、エリをわたくしと同じ…"リーリエンツァウベリン"にしてあげる…」
そう続けてから、額と緋色の瞳に黒い百合の紋様が現れたメイはエリスの唇を奪った。
メイの口から流し込まれる"新たな力"の心地よさに抗えず、エリスは意識を失った。
しばらくして目覚めたエリスの額と漆黒の瞳には緋色の百合の紋様が浮かび、エリスはメイとともにリーリエ配下の"百合魔女っ娘"となったが、エリスとメイはいつまでも…命尽きる時までずっと一緒だった。
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メイが昨夜見た夢は以上のような内容だった。
朝、目覚めてからメイがそれをエリスに伝えると、
「メイったら、夢に見るくらい私とちゅー…したかったのね…。
いいわよ、時間の許す限り…しましょう…」
妖しい笑みを浮かべたエリスに唇を奪われた。
メイは幸せすぎて意識が飛んでしまったので、エリスはファニーを呼ぶ。
「わかった…メイ様に"お薬"注入するね…」
ファニーに"お薬"を注入されたメイは突然動き出すと、先ほどとは逆にエリスの唇を奪う。
メイの額と瞳には、ファニーの"お薬"によって彼女の夢の内容を再現するかの如く、黒い百合の紋様が現れている。
"お薬"が切れるまで続いたエリメイの濃厚な口づけの様子を、ファニーは陶然とした面持ちで見ていた。
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昼、エリスと侍女たちはパンゲーアの屋上へ向かった。
事実上"彼女たち専用"となっている長椅子の真ん中にエリスが腰掛け、右隣はメイ、その隣はファニーが占め、端にはグレーテルが座った。
エリスの左隣はアンネを膝の上に乗せたクロエ、その隣はレニが座り、クラウディアは端から7人を見守っている。
メイとアンネは大好きなエリスに甘えるように寄りかかり、エリスはかわいい2人とクロエに挟まれて表情を緩めた。
「今朝、メイが見た夢の内容を聞いて決めたわ…"アハト"は魔女にする」
メイに寄りかかられながら、遠くを眺めていたエリスは唐突にそう呟いた。
「すぐに調整して、早ければ明日にも"アハト"候補を探しに行くわよ」
「ふぁい…れも…もうしゅこし…このままれいらいれしゅ…」
「ふへへ…メイ様ロリかわいい…もっとかわいくしますね…」
「エリスねーさま…アンネだけで先に行ってきます…」
「頼むわね…私も、この子たちが正気に戻ったら行くから…」
理性を失ってエリスにべったりのメイと、そのメイを"お薬"でさらにおかしくしようとしているファニーを置いていけないため、エリスはアンネとクロエに先行しての調整を依頼した。
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5日後、パンゲーアに招かれ、とある一室で待っていた魔女の姉妹はドアが開くと反射的に立ち上がる。
部屋に入ってきた者たちを見て、妹が声を上げた。
「ふかふかなヴァンピーリンのお姉さま…また会えてうれしいです…」
「エリス様と侍女の方々、お初にお目にかかります…。
カリナ・ヴァルプルギスと申します」
「ベルタ・ヴァルプルギスです…」
全員が着席したところで、姉妹が会釈する。
その後でエリス、メイ、アンネ、ファニーが簡単な自己紹介をし、そのまま"おしゃべり"に移った。
エリスが"アハト"候補の魔女を探す中で、魔女には珍しく近接戦闘も得意にできそうと判断し、有力候補とした者がカリナだったが、カリナの詳細調査の際に、アンネが以前自然公園で助けた、帽子を飛ばされた小さな魔女がカリナの妹ベルタであるとわかったため、姉妹揃ってここへ招くことにした。
「まず、カリナ…あなたを私の侍女とすることについては、承諾したと思っていいわね?」
「はい…皇女様にお仕えできるだけでもうれしいのに、主となるお方が愛らしいエリス様で、しかもベルタの恩人であるアンネ様と一緒なんて…望外の幸せであります…」
「それならよかったわ…前提条件をクリアしたから、話を進めるわね」
それからエリスは皇女の率いる軍と最高幹部フィーア・テュヒティヒステン、それに次ぐドライヴァイゼンについて説明し、
「あなたにはこれらとは違う枠組み"アハトシェッツェ"の1人となってもらうわ」
「はい…」
「もちろん、今のあなたでは私の配下の幹部として能力不足だから、これから身に着けてもらうわよ」
「はい…」
カリナから"アハト"になることの承諾を得た。
「次に、ベルタ…あなたも、近い将来私の侍女にしたいと思っているわ」
「ありがとうございます…カリナお姉さまと同時が無理だということはわかっていましたから、そのお言葉をいただけただけでも光栄です…」
「ベルタのような聡明な子は好きよ…。
それで、私があなたを侍女にできるようになるまでの間、あなたはカリナと一緒の2人部屋で暮らして、たまにアンネやファニーと遊んであげてほしいの。
あなたの年齢を考えると、無理に姉と引き離すべきではないし、"遊び相手"は"双方"に必要だから…」
「はいっ…カリナお姉さまと一緒に呼ばれたので、もしかしたらと期待していましたが、期待以上で…」
そこでベルタは声を詰まらせ、嬉し涙を流し始める。
ベルタが泣き止んでから、エリスとメイとカリナはエリスの部屋に移って姉妹の転居準備などについて話し合い、アンネとファニーとベルタはアンネの部屋でいろいろな遊びをした。
普段は多少背伸びしている感じのベルタだが、あの時以来ずっと思いを募らせてきたアンネには年相応に甘え、アンネもベルタを妹のようにかわいがると、ベルタのアンネに対する好感度は青天井に上昇し、
「えへへ…アンネお姉さま…だいすきです…」
「アンネも…ベルタのこと…だいすき…」
この日のうちに"疑似姉妹"といってもいいほどの関係になった。
「2人はわたしの"お薬"なしでも"らぶらぶ"ですね…というわけでベルタ、わたしとも遊ぶです…」
蚊帳の外に置かれ気味だったファニーも、お姉さまと呼ばれるまでには至らなかったものの、ベルタと仲良くなった。
<2021/12/ 2修正>リリエンツァウベリン→リーリエンツァウベリン