12 木蓮と鳳仙花
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エリスは3人の専属侍女とともに"書類"でドライヴァイゼンの候補者を絞り込んだ後、エリスがリリス配下の侍女、ノクス配下の侍女、イルミナ配下の侍女、それ以外の侍女それぞれ3人ずつと1対1で面接を行った。
今からリリスと2人の姉に結果を伝えに行く。
「母様、"私のドライヴァイゼン"はこの3名にしました。
"儀式"の調整をよろしくお願いします」
「わかったわ。
マグノーリエはちょうど隣の部屋にいるから、エリスから"採用"を伝えてあげて」
「はい、母様」
リリスが隣の部屋からマグノーリエを呼ぶ。
マグノーリエが姿を見せると、
「マグノーリエ、正式には3人揃ってからになるけど…あなたが私のドライヴァイゼンの1人目よ」
エリスは微笑みながらマグノーリエに"採用"を告げた。
「私を選んでいただき、ありがとうございます…」
「母様に長年仕えてきた経験にも期待しているけど、私が軍を動かす際に母様との連携は不可欠だから、連絡体制やその他諸々の整備も頼むわね」
「はい…」
"それ以外"枠から選んだ1人には夕食後、エリスの部屋を訪ねるよう伝言を依頼してから、エリスは次にノクスの部屋へ向かった。
「ノクスお姉ちゃん…ドライヴァイゼンの選考結果はこの通りです…」
ノクスがエリスの手渡した書簡に目を通したところで、エリスは泣きそうな表情で言葉を続ける。
「ノクスお姉ちゃん、ごめんなさい…せっかく推薦してくれたのですが、3人の枠に入れることはできませんでした…」
「エリスがそんなに悲しそうな表情をする必要はないわ。
主に人間と戦っている私の陣営から人材を引き抜くことを遠慮したのでしょう?
そういうエリスの気遣いが、私は嬉しいわ…」
ノクスは小柄で健気な妹を優しく抱きしめる。
「私の意図を察してくれて…ありがとう…ございます…ノクスお姉ちゃん…大好き…です…ふぇぇ」
エリスは我慢できず、ノクスの胸に顔を埋めて泣いた。
泣き止んで、気持ちを落ち着かせてから、エリスはノクスの部屋を出てアビュススへ向かう。
「イルミナお姉ちゃん、お待たせしました…。
私が選んだドライヴァイゼンはこの3名です」
「そう…エリスちゃんはミーネちゃんを選んだのね…。
あの子なら、必ずエリスちゃんの良き参謀になれるわ。
"儀式"の件はミーネちゃんの都合を聞いた上でお母様と調整しておくわね」
「はい、ありがとうございます…イルミナお姉ちゃん…」
「ところでエリスちゃん、お姉様のところで泣いたの?」
「はい…」
「詳細はあえて言わないけど、エリスちゃんはお姉様思いの優しい子ね…ぎゅってしてあげる…」
イルミナがエリスをぎゅっとしたため、エリスの顔はノクスの胸に続いて、イルミナの胸にも埋まることになった。
「そうだ、ミーネちゃんにも結果を伝えてあげて」
イルミナはエリスの返事を待たずに、仕事中だった"ミーネ"ことバルザミーネを連れてきた。
「バルザミーネ、イルミナお姉ちゃんが仕事の邪魔をしてしまったようでごめんなさい…」
「いいえ…謝るべきはエリス様ではなくイルミナ様ですから…」
しばらく3人でドライヴァイゼンと関係ない会話が続いた後、
「ごめんなさい、バルザミーネ…イルミナお姉ちゃんのせいで真っ先に伝えるべきことを忘れていたわ…。
あなたを…私のドライヴァイゼンの2人目にするわ…」
エリスはバルザミーネに"採用通知"をした。
「えっ…エリス様はイルミナ様と違って気軽に嘘を言うお方ではないから本当に私がちっちゃくてかわいくてしゅきしゅきだいしゅきなエリス様にお仕えできるドライヴァイゼンに選ばれたですか…」
「そうよ…正式には母様の前で3人同時に任命してからだけど…」
「うれしいです…これからかわいいエリス様と、エリス様の軍を育て、導くことができるのですね…」
嬉しすぎて、一時的に言葉遣いが怪しくなったバルザミーネだが、すぐに元に戻って嬉しさを言葉に表した。
アビュススから自分の部屋に戻るためパンゲーアの通路を歩いていたエリスは、曲がり角にて急いで左折してきた女性を避けられずぶつかってしまった。
エリスより背は高いものの小柄な部類に入る青い髪の女性が、エリスを押し倒したような体勢になっており、エリスの上に乗っている青い髪の女性は混乱しているのか、口をパクパクさせるばかりで身体を動かそうとしない。
ヴェルトヴァイト帝国の第3皇女であるエリスを押し倒すという、手討ちにされても文句が言えない無礼な行為をしてしまったのであるから無理もないのだが、エリスはそれを咎めず、顔を真っ赤にして女性の顔を見つめていた。
やがてエリスは至近距離にある女性の頬に両手を当てると、唇を奪った。
エリスが唇を離すと、青い髪の女性はゆっくりと体を起こして立ち上がり、エリスのそばで直立不動の姿勢をとる。
遅れて立ち上がったエリスは青い髪の女性にいくつか問いかけると、女性を従えてノクスの部屋へ向かった。
「エリス、どうしたの?」
「レニについて、ノクスお姉ちゃんにお話することがあるのですが、その前に…レニ、ノクスお姉ちゃんに報告を」
「はい…エリス様…」
エリスに促されて、青い髪の女性…レニはアヴァロニア大陸に展開している"ヘーア"の部隊からもたらされた"戦果"をノクスに報告した。
「報告は…以上です…」
「ご苦労様、レニ。
それで、エリスのお話は?」
「通路の曲がり角で、レニが私にぶつかってきて、私…レニに押し倒されました…。
少し待ったけど、私のことを見つめるだけで動かなかったから、ちゅーして無理やり動かしたのです…」
「だから、レニはエリスのものになっているのね…」
「それで…レニをこのまま私のものにしたいです…」
まだ少し顔の赤いエリスは、ノクスを上目遣いで見ながらお願いをする。
レニはその隣で表情を変えることなく、視線を虚空に彷徨わせている。
ノクスは少し考えて、
「まあ、エリスを押し倒してしまったのであれば、レニをそのままにしておくわけにはいかないわね…。
"被害者"であるエリスがそう言うなら、"規則"に従ってレニの"ヘーア"における職務を解き、"エリスの預かり"という扱いにするから、後はエリスの望み通りになさい。
それに、ただレニをエリスのものにするだけでなく、何か考えがあって私のところに来たのでしょう?」
エリスの思惑をなんとなく察しながら、あえてエリスから言うように仕向ける。
「はい…ノクスお姉ちゃんの配下からドライヴァイゼンを採用しなかった分、私の軍が本格的に動き出したら、レニを"ヘーア"との連絡役にしようと思っていて…後は…」
エリスはレニをどう利用しようと思っているか、大好きなノクスには一切隠さずに話した。
「エリスは本当にいい子ね…わかったわ、レニはエリスのものになったけど、当分は"今まで通り"働いてもらって、時が来たら正式にエリスの軍へ移籍させるわ」
「ノクスお姉ちゃん、ありがとうございます…。
レニは夕食までに先ほど言ったような"調整"を施してから、この部屋に向かわせます」
それで話は終わり、エリスとレニはノクスの部屋を出た。
サブタイトルはドライヴァイゼンに採用された2人の名前の由来(木蓮、鳳仙花)です。




