11 三賢女選びと弄ばれる"少女"
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ある日の昼過ぎ、ノクスの部屋で3姉妹が今後のことを話していた。
「エリスもそろそろ、"ドライヴァイゼン"を誰にするか決めたほうがいいわよ」
「ドライヴァイゼン…ですか」
「そう…"ヘーア"のトップであるお姉様と"マリーネ"を率いるわたしが毎日エリスちゃんと一緒にいられるのは、"裏方"でコツコツと仕事をしてくれているドライヴァイゼンのおかげなのよ」
「エリスが将来、私とイルミナのように軍を立ち上げ、育て、動かしていく際の参謀役にもなるから、母上にも話して候補となる者をリストアップしたもらった上で、最後はエリスの判断でドライヴァイゼンを決めなさい」
「はい…今度母様に話してみます…」
「イルさま…ロサリンデさまからこれを預かってきました…」
3姉妹と専属侍女しかいなかったノクスの部屋に、それ以外の者が入ってきた。
「パッペル…わざわざアビュススからここまで届けに来てくれたの?」
「はい…ロザリンデさまは、なるべく早くイルさまに見てほしいと言っていたので…」
「そう…いつもわたしのために駆けまわってくれて、ありがとう…」
イルミナはロザリンデからの書簡を受け取ると、感謝の言葉とともに小柄なパッペルの頭を撫でる。
「パッペル、とても嬉しそうね…」
「エリスちゃん、えへへ…パッペルはイルさまのものなので、イルさまに褒められてとても嬉しいの…」
笑顔のままエリスの方を向いて言葉を返すパッペル。
彼女の額には、イルミナに"支配"されていることを示す紋様が刻まれている。
パッペルは人間で、かつてはアヴァロン王国軍の一員として帝国領の海沿いの町を攻めたが、王国軍は町の攻略に失敗し、さらに撤退する途中、待ち伏せていた"マリーネ"と町から追ってきた"ヘーア"に挟撃された。
捕まったパッペルはイルミナに頭の中を弄られて"イルミナのもの"になったが、ディアボロスにはされず、今も人間のまま、イルミナのために働いている。
額の紋様によって彼女が"イルミナのもの"であることはわかるため、人間を憎む者たちは、パンゲーアの中を人間であるパッペルがうろついていても、彼女を虐めることはない。
もちろん、そんなことをしたら、パッペルをかわいがっているイルミナによって"報復"されるから。
「うふふ…かわいいパッペル…私のものにしちゃいたい…」
「だめだよ、エリスちゃ…んっ」
エリスがパッペルをイルミナから寝取ろうとしたため、イルミナだけのものでいたいパッペルはだめだと言ったが、エリスはパッペルに抱きつくと彼女の唇に自らの唇を重ね、抗議の言葉を無理やり止めた。
しばらく口づけを続け、パッペルの体から力が抜けたところでエリスは唇を離したが、抱擁はしたまま。
さらに少し待つと、パッペルの体に再び力が入り、閉じていた彼女の瞼が開いた。
「パッペル…今のあなたは…私のものよね?」
「うん…パッペルは…エリスちゃんのもの…」
パッペルは虚ろな目でエリスを見つめながら、頬を赤く染めて"エリスのもの"になったことをはっきりと言葉にする。
「じゃあ、私のものになったパッペルを…とことん味わうわね…うへへ…」
「いいよ…パッペルのこと…好きにしてっ…」
エリスは再びパッペルの唇を奪い、キスを楽しむと、その後もパッペルと"いろいろなこと"をした。
だが、エリスがパッペルを後ろから抱いて"イチャイチャ"している途中、突然パッペルが白目をむいて失神した。
「エリスちゃん…もう我慢できないから、今日はこれでおしまいよ…」
「はい、イルミナお姉ちゃん…パッペルは返します…」
イルミナはエリスに寄りかかった状態で失神しているパッペルを抱き上げ、唇を重ねる。
すると、瞼の裏に隠れていたパッペルの瞳がイルミナの顔に焦点を合わせた。
イルミナが唇を離すと、
「えへへ…エリスちゃんのちゅーで眠っちゃって、イルさまのちゅーで目が覚めるなんて…パッペルはとても幸せです…」
パッペルはそう言いながら、顔を真っ赤にして微笑んだ。
パッペルがアビュススに戻ると、
「これでまた、パッペルを少し壊すことができたわ…」
「イルミナお姉ちゃんと私が共同で人間を壊す…今日で3度目ですけど、何度やっても飽きないですね…」
「今度"ヘーア"で見目麗しい人間の女子を捕らえたら、私もエリスと一緒にその者を壊して、私のものにするだけでなく、"ヘーア"の"新たな兵器"にしてみたいわ」
「ノクスお姉ちゃんが"新たな兵器"の素材を持ってきて、私を誘ってくれる日が…今から楽しみです…」
3姉妹は邪な笑みを浮かべながら会話を交わす。
パッペルはこの日より前に2度、アビュススでエリスにキスされて疑似人格を植え付けられ、"エリスのもの"になっていた。
イルミナがその疑似人格を壊すことで元の…イルミナのものであるパッペルの人格が目を覚ます。
疑似人格で動いていた間の"経験"はパッペルの脳に"記憶"されているが、元の人格は何らかのきっかけでフラッシュバックが起きない限り、"思い出す"ことや夢に見ることはない。
ただ、疑似人格の崩壊および元の人格の強制的な覚醒によってパッペルの精神には少なからず負担がかかっており、イルミナとエリスはこれを繰り返すことで人間としてのパッペルを少しずつ"壊している"。
パッペルを最終的にどう"利用"するのかは不明だが、2人はパッペルを壊すこと自体を楽しんでいた。
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夕食後、エリスがドライヴァイゼンについてリリスに話すと、改めて明日の朝食後に執務室へ来るように言われた。
エリスは翌朝の食後に、メイとクロエを伴ってリリスの執務室を訪れる。
待っていたリリスはエリスに数十枚の書類を渡した。
「本来、ドライヴァイゼンはフィーア・テュヒティヒステンが揃ってから決めるのだけど、前にユリアネと話していた感じだと、エリスのフィアーテが決まるまでには相当な日数がかかりそうだから、今のうちに、私の配下でエリスにドライヴァイゼン候補として薦められる者をリストアップしておいたわ。
ノクスとイルミナも同じように推薦者のリストをまとめているはずだから、後でもらってきなさい。
それと、こちらが私、ノクス、イルミナいずれの配下にもなっていない侍女の中から希望者をリストにした者よ」
もう1つのリストはクロエが受け取った。
「まずは今クロエに渡した中から1人、私とノクス、イルミナの推薦者から1人選びなさい。
残りの1人はどちらから選んでもかまわないわ。
それ以外の詳細はノクスとイルミナに聞きなさい」
「はい…早速お姉ちゃんのところに行ってきます…」
エリスたちはノクスの部屋とアビュススのイルミナの部屋を相次いで訪れ、2人の推薦者リストを受け取ってから、姉がどうやってドライヴァイゼンを選んだかについて聞いた。
エリスは自分の部屋に戻ると、
「ドライヴァイゼンは母様の配下から1人、ノクスお姉ちゃんとイルミナお姉ちゃんの配下から1人、それ以外から1人選ぶことにするわ」
リストに目を通す前からそう告げ、続いてその理由を説明した。
「そういうお考えでしたら、わたくしに異議はございません」
メイがそう返答すると、クロエとアンネも同意する。
「じゃあ、最初は母様が推薦してきた者たちから選考するわよ」
4人はエリスがリリスから受け取った書類を見て、ドライヴァイゼンの選考を始めた。
すぐに昼食の時間となったため中断したが、この日のうちに3人まで絞り込み、後は"面接"で決めることとして、翌日エリスはリリスに、1人目の最終選考のために面接をしたいと訴えた。
「わかったわ…本人に都合を聞いた上で日時を調整するわね」
リリスから快諾の返事を得ると、エリスたちはリリスの執務室から退出し、部屋に戻った。




