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1.モリスは目立ちたい

初投稿です。

  酒場で二人の男女がエールを飲みながら会話をしている。会話は周りの喧騒に掻き消され、繁盛した酒場は冒険者のための酒場で、日夜、冒険者が集い騒ぐ憩いの場であり、二人の男女も例に漏れない。


「なあ、ブレンダさんよ」

「なに?モリス君」


 ブレンダと呼ばれた少女は、顔をモリスに向けるが、視線が互いに合うことはない。

 なぜなら、ブレンダは黒く長い髪が前にも侵食しており、目元が隠れているからだ。


「俺たちは割と強くなってきたと思わないか?」

「…まあ、そうね」

「ちょっと聞くけど、こないだ一緒にパーティ組んだ奴より強くなってるよなぁ?」

「うーん、私たちの討伐数で言うなら勝ってたけど…」


 ブレンダは口元をへの字に曲げて考える。


「モリス君は印象に残らないからね」

「印象!!でたよ、よく分からない結果を見ない謎の言葉!

 おかしいじゃん!めちゃくちゃ俺たち頑張ったのに、誰も見てないってさ!」


 モリスは、憤慨しながら一息で早口に捲し立て、尚も喚くが、ブレンダは呆れる。

(あぁ、いつもの病気が始まったわね)


「オーガの集落で俺が6体目を斬り捨てたときの、俺のカッコつけて慣れないポーズ決めただろ!!見てた!?」

「あー、あれは、一瞬見たわ。でも、他が目立って…」

「そうだよ!俺がカッコイイポーズを決めて『やれやれ』とか言ってる時に、なんであんなんなるの?おかしくない!?」


 モリスが言う、あんなん、にはブレンダも心当たりがある。いや、ありすぎる。

 まさか、あの場で他パーティのリーダーが仲間を殺られたことにより、力が覚醒し、覚醒した力がまさかの勇者の力とは予想も出来なかった。


 更に言うなら、そこから物語でも始まったかのようにオーガの群れを一掃する他パーティリーダーだったが、モリスも頑張ってはいた。

 最終的に他パーティリーダーがオーガ22体、モリスが21体と、数では負けたが、オーガの群れを分散させたり、討伐まではいかないが足を潰すなどの行動に制限をかける動きをしていた。


「まあ、討伐数で言えば私のほうが二人足しても届いてないわ」

「知ってるよ!ブレンダさんが遠距離魔法が得意なのはさ!でもね?近接と遠距離を比べちゃいけないよ」

「殲滅力は私が勝つけど、モリス君が一箇所に集めてくれたりしたからだからね」

「いやー、さすがブレンダさんだよ。俺の活躍なんて誰も見てなくてさ」


 ブレンダは、モリスのこの活躍したはずなのに、誰にも注目されず、印象に残らないことに腹を立て、愚痴る事を病気と呼んでいる。


 ブレンダにも分かってはいる。私たちがどれだけ活躍しても、何故か運命的なまでに、他に注目がいく何かが始まるのだ。


「モリス君。諦めも肝心だわ」

「いや、諦めない。と、言うわけで明日は、ワイバーンの素材でも採ってこようか?」

「ワイバーン、また大物だね。準備は出来てるのかしら?」

「大した準備は必要ないだろ?空飛んでるから弓矢を買い足すくらいだな」

「それもそうね。ちなみになんでワイバーンの素材を?」

「戦場じゃ、活躍しても見て貰えないから、素材を大量に持って冒険者ギルドに持ち込めば多少は見て貰えるんじゃないか、と」

「一理あるわね。私も目立ちたくないわけじゃないから、やってみましょうか」

「よし、決まりだな。じゃあ、明日に備えて準備してくる!」


 モリスは目の前の料理を平らげ、酒を一気に飲んでからお金を置いて酒場からでる。

 その背中を見てブレンダは、溜息をつく。


「実績や実力だけでみたら、Sランク冒険者なのに、あとは名声だけどうしても広まらないのは、呪われてるのかしらね」


 ブレンダもいそいそと料理を食べ始め、モリスが置いたお金と合わせて会計を済ませる。


 今日も、酒場では新人パーティであろう男女が何かを話したり、ベテラン冒険者が静かに飲んだりと、皆に物語があるのだろう。ブレンダはそんな様子を、チラリと見て、また溜息をつき、つぶやく。


「私も彼らのように大勢の一人なのでしょうね」



 翌日、ブレンダはモリスが泊まる宿へ行くと既に準備が出来たモリスが待っていた。


「おはよう、ブレンダさん。早速だけど、行ける?」

「ええ、私も準備は出来てるわ。

 何体分の素材を採るつもりなの?」

「うーん、連中を驚かせたいからなぁ。ブレンダさんの空間収納に満杯になるくらいかな」

「えー、それじゃあさすがに多いわ。

 空間収納は維持にも魔力を使うんだから、せいぜい半分以下ね」

「そうかぁ、半分かぁ」

「モリス君、半分でもかなり入るわよ?」

「小さな家一戸ぶんくらいだったら、嫌でも目立つかなと」

「いやよ。帰るまでに魔力が尽きるし、そんなに採ってたら日帰りはできないわ。野宿はいや」

「わかった。ブレンダさんの無理のない範囲で頼むよ」

「頼まれたわ。じゃあ、さっさと行きましょうか」


 ブレンダの空間収納は、魔法で自分だけの仮想空間を作り、そこに物を収納できる。

 理論上は、生き物、無機物問わないが、空間を維持するために常時魔力を使うため、あまり長いことは入れられず、生き物なんて入れたら仮想空間内を動き回るため魔力消費が膨大になる。そのため、入れれるものは動かないものに限定される。


 更には術者が死んだときには、仮想空間は消えるため、荷物まで消え去るのだ。これは途中で魔力切れになっても同じで、長旅には向かない理由の一つになっている。

 

 ブレンダは、珍しいこの癖のある魔法の使い手であった。


 道中は雑談しながら、二人でサクサクとワイバーンの巣に向かい、モリスが飛んでいるワイバーンを発見した。


「ブレンダさん、一匹だ。偵察役かな」

「そうね、弓は届く?」

「余裕だね」


 言いながら、モリスは弓を構える。大型の長弓と呼ばれる弓だ。取り回しにくいが、射程も威力も、短弓に比べて遥かにある。


 発射。ワイバーンの首に刺さる。

 落下しながら、もがくようにジタバタとしている。


「ちょっと遠かったな。貫通までしたら一撃なんだけど」

「大きい個体だったみたいね。距離感が狂うのは仕方ないわ」

「よし、落下地点に行こう」


 モリスは長弓を背中に担ぎ、代わりに短槍を構え、走り出す。もちろん、ブレンダもそれについて行く。


「今日は短槍?」

「そ、鱗相手に剣じゃねぇ?」

「刃こぼれしちゃうものね」


 今日のモリスの装備は、背中に弓、左腰に剣、右腰にメイス、手に荷物を括り付けた短槍を肩に担いでいた。


  ブレンダは一度重くないかと尋ねたことがあるが、モリスはモリスらしく、『重くてもその時目立てる武器を使いたいじゃん』と言っていた。


 モリスの戦闘スタイルは邪道である。あらゆる武器を使いこなすと言えば聞こえはいいが、他人からすれば極めることをしない器用貧乏と言われるだろう。


 ただ、ブレンダは付き合いが長くなり、分かっていた。


 モリスは、目立つためなら何でもすることを。


 ワイバーンの落下地点に到着するとすぐさま、モリスはもがくワイバーンに踊りかかる。


 短槍による刺突は、胴体にささる。刺さった短槍をしならせ、ワイバーンの上へ乗り込む。ワイバーンの頭へと走る。

 嫌がり、暴れるワイバーンの頭に右腰からメイスを抜き出し、跳躍。振りかぶり、垂直に、脳天へ振り下ろす。


 ぐしゃ、と嫌な音が広がり、潰れる頭。


 完全に動かなくなったのを確認し、モリスは短槍を抜きに胴体へ降りる。


「お疲れ様」

「どう?かっこよかった?」

「短槍のしなりが足りないわね。演出するなら頭まで走るより、頭まで直接飛んだほうが早かったんじゃない?」

「いやいや、頭まで走り、その最中に周りの皆が応援するんだよ。そうしたら、ワンシーンの完成だと思わないか?」

「私、その展開嫌いなのよね。喋る暇あるくらいノロノロ戦うわけないじゃない」

「そりゃブレンダさんは、効率を重視しすぎだよ。応援側と戦い側は、時間軸が違うのさ」

「はいはい、じゃあ、解体して使える所を収納しましょ」


 二人は解体を進め、必要な部位のみを取り出し、ブレンダの空間収納で消していく。

 ワイバーンを5体仕留める頃には日が傾き始めていた。




「査定お願いします」

「かしこまりました。素材をお見せ頂いても?」


 冒険者ギルドの受付に、ブレンダはワイバーンの素材の一部を取り出す。


「わ、ワイバーンですか!!」

「ええ、かなりの量があります。全部出しても良いかしら?」


 モリスは内心ワクワクしていた。現に受付の少女は、驚いた顔をしている。


(いいぞ、驚け!叫べ!俺を見ろ!)


「素材もかなり状態がいいですね!では出してください!」


 ブレンダがよしきたとばかりに、口元を緩ませ空間収納を発動した時だった。


 がしゃん!何かの割れる音。


「テメェ!」

「雑魚は雑魚らしくしていたらどうだ?俺は今日登録したばかりの新人だが、そんなやつにしか絡めないのか、お前」


 叫ぶ顔つきの悪い中年男性に、顔つきの良い少年が言い合いをしているようだ。

 ギルド内の皆の視線が、そちらへ向く。


「こっちが、下出にでてりゃあつけ上がりやがって!」

「下出?ほう、俺の仲間を口説き、ナンパすることが下出か?」

「もう許さねぇ。表へ出ろ!ぶっ殺してやる!」

「はっ!望むところだ。俺の仲間に手を出したお前は、二度とこんなことが出来ないようにしてやる」


 二人と、少年の仲間であろう二人の少女は外へ出ていく。

 ギルド内に居たやつらまでも、面白そうに出ていった。

 ガランとしたギルド内に、モリスとブレンダ、受付の三人が残った。


「まったく!嫌ですね!冒険者同士で喧嘩なんて!あ、自警団は通信魔法で呼んだので、直に収まります。

 では、改めて、ワイバーンの素材を査定しますので出してもらっていいですか?」


 一連の流れにモリスも、ブレンダも声を失っていた。受付の言葉に、ブレンダは逸早く正気に戻り、空間収納を発動し、全て出した。


 山積みになる素材に、受付は驚き、モリスの望む反応をしているが、モリスは呆然としていた。


「こ、これは査定に時間がかかりそうです!明日また、来てもらっていいですか?」


「あ、はい。ほ、ほら、モリス君、行くよ」


 ブレンダはモリスの手を引っ張り。ギルドから出ると、中年男性と少年の勝敗は決していた。


 倒れる中年、仲間の少女達に心配されながらも笑顔の少年。どちらが勝ったかは明らかだろう。


 自警団が笛を鳴らしながら走ってくるのを、見て蜘蛛の子を散らすように逃げる群衆。

 取り残されたのは、モリス、ブレンダ、中年男性である。


 自警団のお世話になる身に覚えのないブレンダは、モリスを引っ張りながら悠々と自警団から離れる。


 横目には、倒れた中年男性を捕まえている様子が見える。

 ブレンダは、溜息一つ。


「また、こうなったわねモリス君」

「なんでだぁ!」

「運が、悪かったのかしら?」

「俺、結構頑張ったじゃん!今回のワイバーンほぼ仕留めたのにー!」


(あぁ、また病気が始まったわね)


「さ、終わったことは仕方ないわ。酒場でも行きましょ」

「今回こそは注目集めれるはずだったのにー!!」


 モリスの叫びは、街の喧騒に掻き消える。モリスの活躍と共に。


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