ナリアリアの出立
いつものように囀る小鳥の声で目を覚ます。しかし今日からはいつもとは変わるのだ。私は今日から騎士として本格的に学ぶ為、騎士学園へと通うことになる。本当はすぐにでも弟グリーの為に、病を治す為の旅に出たい。しかしお爺様は世の中の事も判らぬままでは、見つけたいものすら判らぬのでは?とおっしゃる。私の力は認めてくださるのか、学費は持ってくださるし、ゆくゆくはお爺様の家を継いでほしいとまで言ってくださる。弟の為にも有難い話しなので、まずは学舎で学ぶ事を承諾する。
「ん〜!出立日和ね」
伸びをしていると、母がやって来る。
「ナリアリア、今日からですね。貴女は昔からやんちゃでしたが、まさか騎士を目指すとは、無茶はしないでね」
「分かっています、お母様。グリーを治す道を見つけるまでは…」
部屋をノックする音に、返事を返すと、お爺様もやって来た。
「ナリアリア、準備はよいか?昔から素質は感じておった。これからを期待しておるぞ」
「はい、お爺様。ありがとうございます。お母様と弟の事、よろしくお願いします」
「うむ、心配には及ばぬ。心置きなく励めよ」
そして3人で玄関へと向かう。既に馬車が用意されており。向こうでの生活に必要な荷物も積み込まれていた。ふと屋敷を見上げると、グリーが窓から声をかけてくる。
「ナリー、いってらっしゃい。」
その顔は少し寂しそうだ。
「グリー!待っててね。しっかり勉強して貴方を治す方法見つけて来るから!」
嬉しそうに、でも困ったようにグリーは笑う。私は馬車へと飛び乗り、従者に出る様に促す。
「みんな、行って来まーす!」
遠ざかる家族が、小さくなり見えなくなった時、ナリアリアは両頬をパチンと叩く。これからは1人なんだ、必ずグリーを助けるんだ。
馬車の目的地は王都オリューンにある騎士学園ゼオリオン、その宿舎だ。王都までの道のりは約2ヶ月、街道も整備され昔ほど危険は無くなった。それでも愚かな人間はいるもので盗賊、山賊は居なくならなかった。隣国との諍いも小競り合い程度ではあるが頻繁にある。野獣は人里には近寄らないけれど、街や村を離れれば気をつけないと行けない。特に手負いに出会ったら1人なら逃げるのが鉄則だ。
私ならそんなのでもきっと余裕だ。この世界には魔法と言うものが大昔にはあった。魔族なる者も居たそうだが、今は伝説にある程度だ。
にもかかわらす、私には魔法が使える。それに気がついたのは5歳の頃だった。鍛錬をしている時負けたくない気持ちから、身体が勝手に動いた。そうする事が自然な様に左手を前に突き出していた。瞬間掌から炎の塊が出現し、お爺様へと向かって行ったのだ。お爺様は熟練の騎士でもある。子供の放った火の玉程度の物だった為難なく叩き落としていたが、その顔は驚きに満ちていた。お爺様はこれが勇者の資質かと呟いてから、人前で使わない様にと念を押されたのをよく覚えている。その時のお爺様の顔も忘れられない。あんなに真剣な顔をされたのを初めて見たからだ。
そんな私だから、野党や野獣如きは相手にもならないのは明らかだ。命の危険を感じたならば、魔法を使う許可ももらっている。でも、私に何故魔法があるのかがよくわからない。勇者は絶対にグリーなのだ。生まれたばかりの記憶。そんな物当てにならないと言われるけれど、あれは絶対に勇者の力だと確信できる。グリーは私やお母様を守ってくれた。だから今度は私がグリーを助けるんだ。その為になら魔法を使って化け物扱いされたっていい。必ずやり遂げるんだと馬車に揺られながらも決意を新たにする。