序章2
5歳になった双子の姉ナリアリア=オブラシエンは、はしゃぎ回っている。
「誰に似たのかしら、ほんとに」
母のミリアリアは思う。弟のグリーシア=オブラシエンは生まれてからあまり体が強くなく、よく伏せっている。
「双子なのになんでこんなに差ができちゃったのかしら…」
双子が生まれた日、何があったのか弟と夫が他界した。殺された事はわかっているが、犯人は分からず仕舞いだった。辺りを闇に包まれたと言う事はわかっている。魔族の仕業では無いかと言う話ではある。生まれたばかりの双子を抱えながらの家の存続は無理だろうと、父からの提案もあり、今は実家に戻っている。父からは弟の方を跡取りにしたいと言う思惑はあったのだろう。しかし実際にはグリーは体が弱く後継ぎには向いていないとがっかりした様子だった。おかげで肩身が狭くなっている。それでも女子が家督を継ぐことも稀にはある。婿養子を取れば良いからだ。父はナリーを鍛えようと剣術などを教えている。だからこんなにおてんばになってしまったのかもと思い至る。
「母様、グリーは今日もお外に出られないの?」
「そうね、ナリー」
走り回っていたナリアリアがミリアリアの元へと駆け寄ってくる。ナリアリアはナリーと言う愛称で呼ばれる。グリーシアはグリーだ。
「私ね大きくなったら、グリーを守ってあげるの。だからお爺様に強くしてもらいたいの」
「そう、でもお母さんはナリーにはお淑やかに育ってもらいたいかな」
「ん〜、おしとやか?」
「まだ難しいかな、大人しい子という意味よ」
「おとなしいと、グリーを守れないよ?」
「本当は貴女は守ってもらう方なんだけどね」
「や〜!私はグリーをまもりたいのー」
ミリアリアは苦笑いを浮かべる。弟思いなのは嬉しいけれど、危険な目に遭わないかと気が気では無い。
「母様、そろそろお昼だね、今日はグリーと一緒にご飯食べられる?」
「そうね、じゃあ様子を見に行きましょうか」
「はーい」
ナリーはかけていく、本当にどうしてこんなにも差ができたのかしらと、ミリアリアは後をついていく。グリーの部屋をノックすると、中から使用人のフレックスが出て来る。
「フレックス、グリーの様子はどうかしら?」
「はい、ミリアリア様。今日は幾分かよろしい様で、これから食事の準備を始めようとしておりました。」
「そう、私たちも一緒に食事は出来そうかしら?」
「わかりました、ではこちらにご用意致します。準備が出来ましたらお呼びいたします。」
「ありがとう、ではお願いね」
ナリーは目を輝かせなら、一緒に食事が出来るとはしゃぎ回っている。娘の喜ぶ姿に微笑ましく、息子の弱さに悲しく、複雑な気持ちになるミリアリア。
部屋で待っていると、フレックスが呼びにきてくれた。
「ミリアリア様、準備が整いました。」
「わかったわ」
「グリーと一緒!ご飯楽しみ〜」
食事も中々一緒に取れないグリーと居られる事が本当に嬉しそうなナリーと共にグリーの部屋へと向かう。
ノックをしてから部屋に入ると、窓の外を見つめるグリーが目に入る。
双子の弟グリーシア=オブラシエンは静かにこちらを見る。
「母様、ナリーも、来てくれて嬉しい」
そう言ってにぱっと笑う。今日は本当に調子がいい様だ。
「母様、グリー、今日はご飯楽しいね」
ナリーもすごく嬉しそうだ。2人の事は出来るだけ内密にされている。だから歳の近い子供は姉弟しかいないのも、より仲を良くさせているのかも知れない。一緒に遊べなくても、言葉を交わせる歳の近い存在は大切な事だとミリアリアは思い至る。食事を進めながらも2人は楽しく会話している。
「私、強くなってね、グリーを治す方法見つけるからね」
「無理しないで、ナリー、僕はこのままでも大丈夫だから」
「だめ、大きくなったら、一緒に冒険するんだからね」
そんな子供っぽい話を微笑ましく見つめるミリアリア。そうね私も何か方法が無いかを、もっと探してみよう。そんなささやかな幸せを感じながら思う。
そして10年後、ナリーは意を決した様に旅立つのである。