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虚弱体質な双子の弟が勇者だった件  作者: 天翔 瑠輝亜
序章
1/3

誕生

 その日の騎士爵邸は朝から慌ただしかった。昨夜から奥様が産気づき未だ出産に至っていなかったからだ。

 侍従医も産婆もこんなに長い陣痛は初めてで、どうすれば良いかわからず頭を抱えている。

 そんな中王都勤めの義弟がやって来た。


「姉上のご様子は?」

「それがな、良くはないのだ」


 騎士爵の顔色は良くなく、その様から察する義弟。


「そ、うですか…」


 もうすぐ昼になる、半日以上も生まれて来ないなんて事があるのだろうか。

 そんな事を考える騎士爵の耳に産声が聞こえる。


「やっと生まれたか!あの声からすれば元気な子の様だな」


 しかし産室の中はまだ慌ただしい様だ、妻の身に何かあったのだろうか。

 出てきた使用人を呼び止め問いかける。


「妻に何かあったのか?!」

「いえ、奥様に何かと言われればそうなのですが…」


 言い淀んでいる使用人に再度尋ねると同時に正午の鐘が鳴る。

 そして新たな産声が響き渡り、状況を理解する騎士爵。


「ふ、たご、なのか?」

「はい、さようでございます」


 双子は古来より不吉とされている。

 なんて事だと呆然とする騎士爵に出てきた侍従医から説明される。


「騎士爵様、双子ではございましたが奇跡が起こりました」


 青ざめながらも、奇跡と言う言葉に動揺し困惑する騎士爵に侍従医は続けて言う。


「なんと男女の双子にございます」


 しばらく状況が飲み込めない騎士爵に義弟が肩を叩く。


「義兄上、おめでとうございます。私もこの場に居合わせただけで感無量です」


 その言葉にはっと我に帰る騎士爵。


「そ、そうか、そうか!良かった」


 古来より双子は不吉である。

 であるが、例外も存在する。

 それが男女の双子である。

 神の奇跡、英雄の誕生、又は新たなる王の誕生などと言われている。

 どちらかの子供は必ずと言うほどに、何かしらの偉業を成し遂げてきたからだ。

 そんな双子を授かった事にようやく認識し安堵する騎士爵。


「それでどちらが先に生まれたのだ?」


 これも重要である、男児であればそれはお家の安寧を指す、女児であるならば嫁がれればそうならない事もある。先に生まれた子の方が偉業を成し遂げた記録が多いからだ。


「そこだけが残念なのですが・・・」


 言い淀む侍従医に察する。


「そうか、それは仕方がない、ただの双子では無かった、それだけで喜ぶとしよう」


 残念な気持ちもあるが、2人とも元気ならそれで良い。ともあれ一安心だ、これからの幸せを思うと自然と笑みが溢れる。


「して、妻は?様子はどうなのだ?双子の出産ともなれば、大丈夫なのか?」

「はい、消耗はなされておりますが、異常は無いものと思われます」


 ほっと胸を撫で下ろす、一時もすれば妻や子供達にも会えよう。


「では、私は執務室にて仕事をするとしよう。会えるようになったら声をかけてくれ。義弟殿相談したいこともある、一緒に来てくれるか?」

「わかりました、義兄上」


 義弟を連れ執務室へとやってくる。


「それで、ご相談と言うのは?」


 と、早速義弟が聞いてくる。

 もちろんこれからの事だ、男女の双子は吉兆であると共に嫉みの対象でもある。

 子供のうちにと考える者は必ず出てくる。


「ああ、もちろん双子のこれからについてだ」

「そ、うですね、隠すと言う訳にもいかないでしょうし、かと言って警護には費用がかかりますし・・・」


 2人でうーんと知恵を絞る。

 と、突然辺りに闇が広がる。


「見つけたぞ、我を滅ぼすであろう種子を!」


 辺りには全く見えなくなっている。

 不気味な声に構えるも声の方向も分からない響き方をしている。


「ほう、邪魔をするつもりか?何か出来るのならしてみるがいい」


 騎士爵は声の言葉を反芻する。

 我を滅ぼす種子だと?

 一体どうい…

 そこで気づく「滅ぼす?」まさか?!魔王なのか?!

 生まれたばかりだと言うのに、しかも何も準備も出来ていないのに、魔王だと!?騎士爵は絶望感に苛まれる。

 幸せの絶頂から、奈落に突き落とされたのだから当然だ。


「くっ!何故こんな時に!?」

「分からぬか?分からぬであろうな、我は貴様らよりも遥か以前から待ち望んでおったのだからな。こんな時、では無くこの時を」


 その声は依然と所在が掴めない。

 勇者を探していたと言う事か。

 自分の子が勇者たり得るものだと言う事実と、現状とで複雑に思う。


「さて、貴様らに構っていてもつまらぬ、我は目的を達成するとしよう」

「まて!いかせんぞ!」

「我の居場所も分からぬのにか?面白い事を言うのう」


 首筋にヒヤリとした悪寒が走る。

 隣に居た義弟が倒れる音がした。


「義弟殿?!」


 返事はない、音のした方向はわかる。

 が、それ以上の音は一切聞こえてこない。


「隣におった者は何も出来ず絶命したぞ?まだ我に何か出来るつもりか?」


 義弟は自分よりも優れた騎士だった。

 なのに抵抗した様子もなくやられてしまった、自分に出来る事は無いかもしれない。しかし家族を守らねばならない。

 ましてや勇者たり得る子は何がなんでもだ。

 しかしその思いはそこで潰える。

 次の瞬間には首は切り落とされていた。


「やれやれ、ようやく目的を達成する事が出来る。待ちわびたぞこの時を!かの者さえ消してしまえば、もう我を脅かす者は誕生しない事はわかっている」


 魔王は呟きながら、双子の元へとやってきた。


「では、さらばだ」


 魔王が構えた瞬間、赤子から眩い光が迸る。


「な?!種子では無かったのか?」


 光はどんどんと勢いを増していく。


「こ、こんなはずでは!!!」


 光に押されていく魔王。


「こ、このままでは!!」


 そう叫んだ魔王は自分の種子を後方へと飛ばす。


「我が種子よ必ずやこやつを・・・」


 そして魔王は光の中へと消えていった…

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